36.水晶砂漠《景色》
南の国には砂漠がある。
熱く乾燥した地域に広がる、一面の黄色い砂の海。たまにオアシスがあり、そのでは街が発展し、栄えている。
広大な砂漠を進んでいると、日中にも関わらず涼しい空気を感じる場所がある。
そちらへそちらへと進んでいくと、黄色の砂が徐々に白く、じゃりじゃりとした感触へと変わっていく。
そして、一面真っ白な砂の海と、至るところに生える巨大な水晶の森にたどり着く。
ここは水晶砂漠。
世界で最も危険な場所の一つだ。
水晶砂漠は、とにかく美しい。
この水晶は、厳密には水晶――石英ではない。
この場所は、全ての生命が持つ魔力の源、マナが、超高濃度で噴出している地域なのだ。
その超高濃度のマナを多量に吸収していった砂漠の砂が変質し、それが凝結、硬化することで生まれたのが、この水晶砂漠という、美しい景色である。
地面から生えた水晶の表面は、この場所に立ち入ったものを映し、それが反対側に立つ水晶に映り……周囲の水晶によって、多方面から映り込んだ自分に囲まれる。
水晶鏡の迷宮に閉じ込められてしまうのだ。
こうなったら、すぐにでも出ていかなければならない。少しでも進んでしまうと、出口がわからなくなってしまうからだ。
そして、この場所に長居してはいけないもう一つの理由がある。
ここはマナが超高濃度で噴出している場所だ。
それこそ、砂漠の砂が水晶に変質してしまうほどのマナが充満しているのだ。
ただの人間が長時間ここにいたら――それは、旅人の目の前にそびえる水晶が教えてくれる。
旅人の身長と同じくらいの背丈の水晶の足元に、ボロボロの何かが見えるだろう。
よくよく見ると、それは風化した衣服と鞄であることに、旅人は間もなく気付くのだ。
だがその時にはもう遅い。
旅人の足が、地面と同化し始めてきている事だろう。
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