34.ペーパーシアター《魔法道具》

 魔術を手軽にいつでも使えるようにした魔法道具の一つに、紙に魔術を込めた形態のものがある。

 これらはまとめて、符術ふじゅつと呼ばれており、主に東方で使われる魔術で、それ以外の場所ではほとんど見られないものだ。


 符術は、一枚の札であったり本であったりと形は様々で、本の場合はもっぱら魔術行使の補助道具としてのものが多い。

 符術にはいくつかの流派がある。流派毎の一番違いは、紙の素材と描かれた模様だろう。

 基本的に、生の魔術より質も威力も落ちるのだが、上手く扱えれば三流魔術師でも一流に対抗できるほどの威力を発揮する。


 符術の行使は、少し魔術が使える程度の者でも使用できるのが大きな利点だ。

 例えば、マッチ程度の火を発生させる、一枚の木の葉を任意に動かせる、桶の水に触れずに渦巻きを作る、などができる程度で良い。

 あとは、符術の内容を理解してさえいれば良いのだ。

 逆に言えば、内容を理解していない者が持っていても、宝の持ち腐れということになる。

 そして、符術には流派があり、関係者以外には内容は秘匿される。ここが、符術が世界に広まらない大きな理由だ。


 符術の中でも、ペーパーシアターと呼ばれるものがある。

 それは、一つの魔術を行使するためだけに、本を丸々一冊使うものだ。使い捨ての符術の中でも、かなり手の込んだものである。

 対象者を確実に殺す代わりに、術者の命も奪うこのペーパーシアターは、ページを一枚めくって魔術を使用するたびに、二人の命を削っていく。

 発動する魔術は対象者を痛め付け、その者を絶対に逃がさない。術者は対象者の苦しむ姿を物語を読み進めるように楽しみ、最後のページをめくり本を閉じた瞬間、物語が終わるように二人とも死に至るのだ。


 これだけは、流派以外の者が使うことができる符術なのだという。

 当然監視は付けられるが、どうせ術者は死んでしまうことと、この符術を求める者は、自分の命を投げうってでも相手を殺したいという復讐者しかいないからだ。


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