18.希望の系譜《知識》

 魔術の始祖、歴史の節目に現れる者、永遠の旅人、守護する者、マスター、エルピスの一族、希望の系譜ーーーー伝える者、語る者によって様々な呼び名で言い表されている。生まれながらにして大魔術師の資格と素養を持ち、不老不死の

 それが、希望の系譜と呼ばれる者、もしくは者達だ。


 …………という噂がある。



 例えば、魔術を生み出した最初の人物だとか、世界を守護し今でもどこかで護り続けているだとか、どこかの国を興したとか裏で操っているだとか、悪を挫き人々を救う旅を続けているだとか、彼だか彼女だか、もしくは複数かもしれないしそのうちの誰かもわからないが、とにかくこの「希望の系譜」と呼ばれる何者かについては、調べても調べても曖昧模糊あいまいもこな噂ばかりが出てくる。

 そんな嘘か真実かもわからない、現実味のないおとぎ話だが、人々はこの「希望の系譜」という存在に浪漫を感じるのだ。


「希望の系譜」には様々な噂があるが、共通している事は、魔法生物を一体、または複数体従えているということだ。


 魔法生物とは、魔術によって産み出された生命体の事だ。姿は様々だが、何かしらの魔法道具が本体、つまり心臓となっている。

 本体を身体の中にしまっている個体もいれば、通常時に使用する身体と本体を別々に据えている個体もいる。後者の場合は、身体を破壊しても死なず、倒すなら本体を破壊しなければならない。

 姿形も大きさも様々で、動物から人型、巨大なものから小さいものまである。


 現在、世界最大の商業会で使用されている、遠距離間連絡のための魔法道具は、この魔法生物の簡易版である。

 首から掛けられる程度の小さな丸いランプの中に、小さな光の鳩がいて、地域や距離を問わず目的の相手に手紙や小さい荷物を届けてくれる。

 餌や世話も必要なくーーだが定期的にランプを綺麗に磨くと喜ぶーー強力な魔法で阻まれさえしなければ必ず届け、、打ち落とされる心配もなく、天候にも影響なく、そして速い。

 世界最大の商業会には必須の魔法道具だが、製作者は秘匿されている。


 魔法生物は、例え簡易的な個体でも、造り出すのは並大抵の事ではない。

 だが「希望の系譜」と呼ばれる者たちは、高い知能を兼ね備えた魔法生物を側に置いているというのだ。

 何故そんな存在を側に置いているのかはわからない。彼らほど偉大な存在となれば、そういった者を側に置くこともあるのだろう。


 にわかには信じがたい話ばかりが湧いてくる「希望の系譜」だが、一度だけと接触したという記録がある。

 その少年は実際に魔法生物を従えており、若いにも関わらず、高度な魔術を使いこなしたという。

 そして、魔法生物たちは皆一様に人間の姿をしていて、言動も人間と大差ないものだった。


 接触した者たちは、「希望の系譜」と思われる少年を捕縛し、研究しようとしたらしい。彼を確実に捕らえられるように、幾重にも罠を仕掛けた場所へ誘き寄せ、大人数で襲ったそうだ。

 だが少年は逃亡し、二度と見つける事はできなかったらしい。

 逃亡の際、彼に従ってた魔法生物の一体を半壊させたそうだ。本体の方に攻撃したらしい。

 だが、その魔法生物にも逃げられたのだとか。


 とはいえ、この少年の話も眉唾である。


 嘘か真実かもわからない上に諸説ある「希望の系譜」。

 確実に尾ひれがついていそうだが、それでもやはり、人々の心を惹き付けて止まない。

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