12.黒の塔《知識》
生命は死を迎えると、肉体は土に返り、魂は冥府へ向かう。
死んで魂のみになっても、暫く地上をさ迷う事もあるーーこれを一般的に幽霊と呼んでいるーーが、大抵は時間と共にこの世界に留まり続けるのが難しくなっていくため、自然と冥府に導かれる。
そして、新たな生命としてまたこの世界に生まれ落ちる。
魂が強い思念を持ち続けていると、自力で冥府に行く事ができず、この世界に留まり続けてしまう。
そういった場合は思念を原動力に行動し、思念の内容によっては、時として命あるものに害を為す。自ら、又は他者の遺体に取りついて動き出す事もある。
この場合は死霊と呼ばれ、聖水をかけるなどして追い払うしかない。
幽霊は自然の摂理や流れから外れた存在のため、それらを操る死霊術師という職業は基本的に好かれない。
魂を個人の好きに操るという点で、倫理的に好まれないのもあるが、自然の流れを妨げる行為であるとして、良い目では見られない。
死霊が関係する噂に、「黒い塔」と呼ばれるものがある。
死霊がたくさん発生しそうな飢饉、疫病、戦争、他に死霊が害をなす事件が多発する地域に出現する塔の事だ。
近くにあるように見えて、近付こうとしても全く距離が縮まらない。根本の方は霧がかってよく見えず、どこに建っているのか、誰が住んでいるのかもわからない。
夜には青い光が塔から漏れていた、という話もある。
謎に包まれた建造物だが、世界各地で目撃されている。
そして、現れた時と同様に突然姿を消し、同時にその地域の死霊被害がぴたりと止むのだという。
黒い塔は死霊の巣窟だ、いやいや死霊術師たちの総本山で、死霊を操って怪しい実験をしているのだ、などと憶測が絶えない。
ただ一つわかっていることと言えば、その塔に辿り着いた者は誰もいないという事のみ。
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