9.聖水瓶《魔法道具》

 全ての生命が大なり小なり持つ力、魔力。

 これは、世界を構築する元素・マナが、精霊以下の次元の生命体も使用できる形になったものである。

 そして、そのマナを精霊の力で水に大量に封じ込めた物。

 これが聖水である。


 聖水は、各地の精霊教会でお布施の返礼として賜る事ができる。

 死霊術師が操る死霊や死体、呪術師の呪いなど、自然の摂理に反する事柄に対して有効だ。

 聖水と魔族・魔物という名前の印象から、彼らにも有効と考える者がいるが、それは誤りである。

 魔族・魔物もこの世界に自然に生まれた存在だからだ。むしろ、持ち合わせる魔力量が多い分、その源となるマナを多量に含んだ聖水は彼らにとって回復薬となる。


 上記の様に、マナはすぐに魔力に変換されやすい。

 魔力は、それぞれの種族や個人で持ち合わせられる量が大体決まっている。それを伸ばすこともできるが、大方の量は特異な例を除いてそう変化しない。

 魔力は生命力にも直結しており、極端な枯渇や潤沢にすぎると身体に変調をきたす。

 そういった際は、空気中に漂うマナを吸収、又はマナにして放出するようになっている。

 空気中のマナの濃度もかね一定を保っている。


 聖水を放っておけば、周囲との均衡を保つためにマナを放出し、せっかくの聖水がただの水に戻ってしまう。

 その為、聖水を保存するための入れ物は、マナの動きを抑制する特殊な鉱物と術がかけられている。

 そして肝心の瓶の部分は、制作の際に一切の魔術が使われていない。魔術が使用されていると、その残滓に反応して、マナが魔力に変換されてしまうからだ。聖水の消費期限が短くなってしまう。

 故に、全て手作業で制作されているのだ。


 国にもよるが、魔術は人々の生活の一部となっている。

 それを一切排除した魔法道具の制作は、多大な時間と手間がかかる。

 火を一つ起こすのも全て手作業だ。下手にマッチなど使えば、そのマッチの製法に魔術が関与していたら全てが台無しになる。

 徹底している教会では、制作に関わる人々の生活や食事にも魔術を使用しないらしい。山奥の離れの、関係者以外は立ち入れない敷地の中で、かなり質素かつ節制の日々を送るそうだ。信者の修行の一つでもあるという。過酷そうだが、敬虔な信者とはそういうものなのだろう。


 魔術の無い生活とは一体どういうものなのか。想像はできないが、案外違う発見があって楽しいかもしれない。

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