39.宝石の泉《場所》

 南の大地の森の奥深くでは、紫色の珍しい宝石が採れる。

 その宝石は、元々は木の実だ。高い枝に実り、熟すほどに実が縮まって結晶化し、表面が処理されたような宝石の玉になる。


 その宝石の確保は、自然に落ちるまで待たなくてはならない。

 落ちる前にもいでしまうと、枝からの栄養の昇給が絶たれた影響で、美しい形をした猛毒に変貌してしまうからだ。


 この猛毒となった宝石は、半透明の結晶内に核を持つ。

 だが、知らぬ者は美しい宝石だと思い込み、それに触れてしまう。即効性は薄いが、皮膚が爛れ腐ってしまうのだ。

 砕いて体内に取り込むと内蔵が腐食し死に至る。無味な上に美しい色を色をしているので、混ぜられても気付かれないか、気にされない事が多い。


 この一面のせいで、この宝石は毒として勇名だ。

 だが、自然に落ちた宝石はほんとうに美しい。透き通る紫色は粒によって色味が違う。

 赤みの強いピンクから濃紺のようなものまで、濃淡にも幅があり、奥深い味わいを出す。


 この宝石の木が、とある泉の上に枝葉を広げている場所がある。

 落ちた宝石は水面に浮かび、その光景はまるで明け方の空のグラデーションのようだ。


 そして、その宝石同士がぶつかると、とても美しい色を音を奏でる。

 透き通った音が泉のあちらこちらで上がり、同じ旋律はない。

 一瞬一瞬が唯一の音楽となるのだ。


 ここにたどり着くにはそれなりの労力を伴うが、もし近くに立ち寄ることがあったら、ここで夜を明かすのも一興だろう。

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