48.地層鉱石《素材》

 花というものは大変魅力的だ。

 だから、世界各地には花を模した装飾品がたくさんある。人々の心を惹き付けてやまない。

 自然に発生する中でも、花のような形と相成ったものは付加価値を高く設定して扱われる。

 それくらい、世界は花という形に価値を見出すのだ。


 もちろんそれは、魔法鉱石にも当てはまる。


 花の形に形成される水晶や宝石は数あれど、今回取り上げる鉱石の素材は少々珍しいだろう。

 地層鉱石ちそうこうせき。この花の花弁は、地層でできている。


 南の大陸の砂漠地域に、地層鉱石はできる。

 干乾びた赤い大地は大きくひび割れ、それ自体が模様のようだ。

 たまにサボテンや申し訳程度の草が生える程度で、降雨は年に数回だけ。

 この地域は魔力が潤沢だ。おかげで、このひび割れた表面はレンガのように硬い。

 そんな風景が地平線まで続いている地域に、地層鉱石はできる。


 表面こそひび割れた砂漠だが、地中では大量の魔力が流れを作っている。

 その流れは複雑で、細いものも太いものも入り組み、時に合わさり、時に分裂する。

 そして、この魔力の流れは常に変化し続けている。

 この流れの影響を受け、地表も常に流動しているのだ。


 ひび割れた表面は流動によってぶつかり合う。レンガのような硬さを誇るため、ひび割れた地表は重なり合い、そこかしこで一つの塊となっていく。

 塊には地中の魔力が流れ込み、まるで幾重もの花弁持つような鉱石ができあがるのだ。


 もちろん、上手く花開けない鉱石もある。ガラガラと崩れた鉱石もあれば、歪な形に咲いてしまった鉱石もある。

 結局は、常に流動・変化する中で自然発生する形なので、一つとして同じ形のものはなく、綺麗な花になる鉱石は珍しい。


 上手く花の形になった地層鉱石は回収され、高値で売買される。

 しかし、地層鉱石はあまり出回っていない。

 まず、岩石に近い鉱石なので、数人がかりでやっと持ち上げられる程の質量を持っている。

 しかも、この地域は地表が常に動いているのだ。人間にとっては微かな動きでも、長時間の滞在、まして野宿は難しい。

 上手い事花の形になった地層鉱石を探すのも、それを採取するのも一苦労なのだ。


 その上、花の形以外の地層鉱石は人気がない。

 地味だし、大きさと質量、運搬や採取の手間の割に、魔力量はそれほどでもないのだ。しかも水に濡らすと形が崩れ、魔力も同時に流れ出してしまう。

 正直な所、地層鉱石を使うくらいなら、他の鉱石で間に合ってしまう。

 そんな魔法鉱石なので、認知度はマイナーの域を出ない。


 土や地面、大地の力を操る魔術師たちは、これがちょっと寂しいらしい。

 大いなる恵みと災害を操ることができるという事で、大地関係の魔術はありがたい反面、炎や氷の魔術と比べ、地味である。人々からの人気も低く、一定数の魔術師が常にいるはずなのに、存在感も薄い。

 その上、自身らの魔術の印象に近い地層鉱石まで地味だなんて。炎関係の鉱石は派手だし、水関係は綺麗なのに。

 というのが、彼らの言い分だ。


 そういう彼らも、地層鉱石を使用するくらいなら他の魔法鉱石を使った方が金がかからない、と言う。

 世知辛いものである。

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