第50話 もう一つの結末『人でなし女神』
結論から言おう。これは第三者が見たら異様な光景である。
方や青ざめた表情で地に平伏し女神、方やそれを見下ろす人間の少女。これは一体どういう状況なのか? 何故女神は人間相手に平伏しているのか?
それを語る為にも時を少し遡るとしよう。
――王都西門前にて。
三人を乗せた馬車は王都まで辿り着いた。
「本当に良かったの? 体大丈夫?」
「僕が行ってもよかったんだよ?」
「もう元気! 元気! それに、今回の件の報告をしに行くだけだし、別に問題無いわよ」
そこで、ギルドに報告等があるからと、イリアだけ西門前で下車する事となった。
「それに、二人は早く顔を見せてあげなさいな。きっと心配してるわよ」
「うん、わかった」
確かに城には、自分たちが無事であることや解決に至った事などの報告は言っていないので、イリアの言う事は最もだと納得した。
「それじゃ、また後でね」
そう言い残しアンジェとネルを乗せた馬車は王城へと向かって走り出した。それを適当に手をヒラヒラと振り見送ると私はギ目的の場所へと歩き出した。
ギルドへの報告も終わりそのまま帰路に着くかと思うだろう。しかし、彼女はそのまま帰路に着かず、とある裏路地へと人目を憚るように入って行った。
――そう、言わば口実だ。人目を憚りたかっただけである。……とはいえ、別にギルドへ報告に行く事は嘘ではない。実際ちゃんと事の顛末を報告に行ってきたし何も問題は無いのだ。ただ、その序でに野暮用があっただけの話である。……まぁ、本人的には、その序でが逆なのだが。そして、その奥にて誰もいない事を確認する。
「……さてと」
傍に積んである木箱に腰掛け、足を組み、一人言葉にする。
「見てるんでしょう? 出て来なさい」
そう彼女が声にし、少しの間を空けると、何もない空間から突如女性が現れた。その女性は先程も見たであろう、あの女神である。
「……」
現れた女神は無言のまま光の速さで静かに地に平伏し土下座した。その表情は青ざめており、額からは冷ややかな汗が流れていた。これから起こるであろう出来事を予見するかのように……
「……さて」
彼女が声を上げると、女神はビクッと体を震わせた。
「確認は何回したかしら?」
「……二回デス」
「貴女はそそっかしいのだから、いつも確認は三回するようにと言っていた筈だけど?」
「……オッシャルトオリデス」
「何か申し立てはあるかしら?」
「……アリマセン」
「何が言いたいか解るわよね?」
「……スベテワタシノセキニンデス」
女神の下げた頭が更に深々と下がり、地に額を擦り付けていた。表情は見えないが怯えているようである。
そんな女神を見ていた彼女は深く溜め息を一つ吐くと、その口をゆっくりと開いた。
「まぁ、今更どうこう出来ないしもう諦めたわ」
「では、御許し頂けると?」
下げた頭を上げ女神はこちらを向いた。
「それとこれとは話が別よ?」
「……デスヨネ」
そう言い再び頭を下げ、結局十分程平謝りを続け、漸く許しを得る事が出来たのであった。
「――それはそうと、あの邪神についてなんだけど?」
邪神について聞いてみる事にした。
「
「ええっとですね、存在自体は確認していたのですが、封印されてたので無暗に手が出せず今に至ったというところです」
「あぁ、確かに過干渉になるわね」
それと言うのも、他次元への干渉は極力短時間でなければならないという次元規定があり、長時間ともなれば世界側から弾かれ、再度干渉するにも直ぐにという訳にはいかなくなるからである。一種の防衛システムの様な物だと思ってもらえば解りやすいだろう。
「なので、封印を解いてもらったのは、こちらとしては助かった次第です、はい」
「私から言えば諸手を挙げて喜べないんだけどね」
両手を広げやれやれというようなリアクションをした。無論、左腕は無い訳だが。
「ところでさ」
「はい?」
「結局あの邪神元い次元違法者って
「あぁ……はい。それはですね……」
私の疑問にクルセイルは言い辛そうに口籠りつつも返答する。
「また、
「またか!」
私は声を露わにし、頭を抱え込んだ。
それもその筈、八次元は次元リテラシーが低いので有名で、かなりの頻度で次元法に反する行為が多々見られ、厄介な所となっているのである。ゲーム感覚で干渉してくるのでタチが悪いのだ。
「いい加減あの次元、一度滅ぼしてやろうかしら?」
「先輩それは拙いですって!」
「……冗談よ、冗談」
「一瞬間がありましたよね?」
「気のせいよ」
「ホントにござるかぁ?」
疑いの眼差しを送るクルセイルに対し適当に誤魔化しておいた。
「あっ! ところで先輩」
不意に思い出した事があるのか、クルセイルは声を上げる。
「何かしら?」
「邪神についてですけど、あの依代が倒せなかった場合はどうするつもりだったんですか?」
「えっ? どうするって……」
クルセイルの意見は最もで、倒せる事を前提にしたような運びで策が執られていたようにも思えた。しかし、イリアはこう返す。
「別にどうもしないわよ?」
「……えっ?」
そんな彼女にクルセイルは、呆気に取られポカーンとした表情を浮かべる。
「忘れた? 邪神の封印が解けた時点で私のすべき事はもう終わってるのよ」
「……あっ!」
思い当たる節があり声を露わにする。それもその筈、確かに先程自身でも言ったのだ、封印されているから無暗に手出しできないと。つまり、封印さえ解けてしまえば干渉する事が出来るという事だ。
「それにね、そもそも今回の件は初めからクルルちゃんが来るまでの時間稼ぎに過ぎなかったわけだしね」
「えっ! もしかして、時間稼ぎって、その時間稼ぎだったんですか!」
イリアが頻りに『時間稼ぎ』と豪語していたのは覚えているだろうか? てっきりあれは二人を逃がす為だとか、天空魔法陣を用意する為だとか思った事だろう。彼女もそう言っていた事だ。しかし、真の目的はクルセイルも所属する次元管理局による犯人の捕獲までの『時間稼ぎ』であったのだ。
「それ以外何があるの?」
「えっ? えっ? じゃあ、その間にやっていた事って……」
「あぁ、アレ? 演出よ、え・ん・しゅ・つ」
さも当然とばかりにイリアは言った。
「それっぽくする事によって、真の目的を悟られない様にしてたのよ」
「それじゃあ、あの作戦内容とかも全部?」
「えぇ、何もかも演出の中の一環に過ぎないわ」
「あのお二人も可哀想に」
「
「いやまぁ、そうなんですけどね」
事実とはいえ、クルセイルは何とも言えない複雑そうな表情を浮かべた。
「よくもまぁ、次から次へと策が出せますよね、さすが元・次元管理局軍事局総司令官『
「人より色々考え過ぎているだけに過ぎないわ。それに今は性能も落ちて、精々常に三手先を読むくらいしか出来ないわよ?」
「それでも十分では?」
「考えるしか能が無い私にとっては死活問題なのだが……」
ハァっと私は深い溜息を吐いた。
「しかし、敵や友人ですら策の一部として扱うんですから、先輩も人が悪いですね。」
「それは当然よ。だって私は……人でなしなんだから」
「そう言いつつも何だかんだで世話を焼いてくれる先輩であった……」
クルセイルがそうボソリと呟く声を、私は聞き逃さなかった。
「そんな事言うのはこのく・ち・かぁ~?」
悪役の様な表情を浮かべ、クルセイルの頬をグイッと引っ張る。
「いひゃいれすせんふぁーい」
「このぷにぷにほっぺの分際が!」
「じっひゃいひょんなにぷにぷにしてまひぇんよぉ」
「喧しいわ! このぷにぷにめ!」
そうして縦に横にと頬を引っ張り小一時間翻弄し続けるのであった。
「ごべんなざぁぁぁい!」
――ところで、次元管理局が動くという様な素振りの話を何時したのか、不思議に思わなかっただろうか? そんな話無かったのでは? と思うだろう。だが、それは既に言っているのだ。
……では何時? 答えは単純だ。
――初めからだよ。
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