第18話 鉱山調査依頼
確認しないわけにもいかず、手紙の封を開け中の内容を確認すると……
ハロー、元気してる? 何か大変な事になってたみたいだね、おつー。武器の一つでも持っていけばいいのに、丸腰で行くからそうなるのよ。
そうそう、この前やってた結果が出たって? 爺さんから聞いたよ。それで、何か試作品を頼んでたみたいだね? 張り切って作ったから検証はヨロシクって言ってたわ。
後、どうせお友達も近くにいるんでしょ? この子すっごい不器用だけど仲良くしてあげてね。それじゃ、また連絡するわ。
チャオ! ネーちゃんより。
手紙を読み終わると、イリアは鬼の形相で手紙を握り潰した。それを見ていた二人は恐る恐る尋ねてみる。
「えと……イリア、ネーちゃんって?」
「あぁ、うん。私の知り合いで、剣技とかそういった戦闘技能を教えてきたのもこの人よ」
「お姉さん?」
「お姉さん? 違うわ、姉は私よ。それに、私を嵌めた人でもあるからババアで十分よ」
だんだんイリアの口調が荒くなってきた。
「思い出したら何かイラついてきたわ!」
そう言うイリアはまた怖い顔をしていた。
何だか聞いてはいけない件なのかもしれない。二人はそう思ったようで、その事には触れないようにしておいた。
――それから三週間、各々は特訓に励み、魔法の修練に勤しみつつ資金集めの為に手頃な依頼を少しずつ熟していった。
そして、長期休暇も今週で終わりを迎える頃、ある一つの話を聞く。
「鉱山の調査依頼ですか?」
いつもの様に手頃な依頼を斡旋してもらおうと、シルキーさんに聞くと、鉱山の調査という話が出て来ました。
「はい、鉱山で発掘される鉱石の質が落ちてきているとの報告がありまして、一度調査を行いたいとの事です」
また、調査結果次第では閉坑も考えるのだとか。
「鉱山地方は二月前に魔物の大規模討伐がありまして、今は危険な魔物はいないと思いますので、どうかと思いまして」
「なるほど」
二月前って言えば、イノシシ騒動の時くらいね。そう言えば、討伐で人手が足りなくなってたわね。
「具体的には何をすればいいんですか?」
「はい、鉱山の内部の数箇所で幾つか鉱石を採取してきて頂きます。解析はこちらでしますので」
「そういう訳だけど、どうしよっか?」
シルキーの説明を受け、イリアは二人に話を持ち掛けた。
「ただの採取作業でしょ? いいんじゃない?」
「私もいいと思うよ」
二人も肯定的なので依頼を受ける方向にしました。
「それで場所はどの辺りになりますか?」
「ダルカニア地方のガラム村になります。到着したら村長に話をすれば通ると思いますので」
「わかりました」
こうして翌日、私達は依頼の為にガラム村を目指す事になりました。
ガラム村。王都より北部にある鉱山地帯ダルカニアに存在する一つの村で、主に採掘作業を生業にしている。その中で、鉱山から採れる鉱石は質の良い物が多く、様々な分野で用いられている。
王都から列車で二時間、私達はガラム村に到着しました。
早速調査の件で来た事を村長に報告すると、何だか聞いてた話とは違っており……
「まさか、鉱山に魔物がいるとはね」
近場の宿屋で私達は途方に暮れていました。それと言うのも、最近鉱山内におかしな魔物が居着いたらしく、迂闊に入れなくなったと言うのだ。なので、調査に来た私達も危険がある為に、入坑許可が下せないとの事です。
「ギルドに情報が入ってきてなかったのかな?」
「実は入れ違いだったりして」
そんな事を話していた時、宿屋の入口の扉が開きガタイの良い男の人が入って来た。しかし、その顔は見知った人物であった。
「オリバーさん?」
「えっ?」
だが、いち早く口を開いたのは、私ではなくネルの方だった。その声に向こうも気付いたようで、こちらへやって来た。
「ネルも知り合いなの?」
「うん、父さんの友人で昔からよく会ってたんだ」
オリバー・グレニー。冒険者仲間では有名で“剛腕のオリバー”と言う異名を持っている。ダークブラウンの髪にごっつい身体つきが特徴のおじさん。身の丈以上あるだろう大剣を楽々と掲げ、幾多の敵を粉砕してきた強者だ。だけど、これでも四十代なんだよ?
「おお、良かった。すぐ見つけられたぜ」
どうやら私達を探していたようだ。
「オリバーさん、どうしてここへ?」
「あぁ、鉱山に魔物が居着いてるだろ? 行き違いに情報が入って来たらしくてな、シルキーから話を聞いて、急いで駆けつけたのさ」
ネルの言う通り、本当に行き違いになっていたようだ。
「んで、俺が討伐に行く事になったから、終わるまでここに居ていいぞ?」
そうオリバーさんは言うが、そんな話を聞いて黙ってるわけがない人物が一人おり……
「待ってオリバーさん! 僕も行くよ!」
あー……やっぱりそうなりますか。
「ネル嬢ちゃん、いいのか?」
「防御魔法くらいなら出来るので、補佐出来ますし」
「まぁ、確かにそれはありがたいが……友達放っておいてってのもアレだろ?」
頭をポリポリと掻きながらチラリとこちらを見る。
「しょうがないね」
「そうだね」
溜め息混じりにアンジェと頷き合う。
「私達も行きますよ。勿論邪魔にならないように下がっていますが、何かしらの役には立つかと思いますので」
「荷物持ちくらいなら出来ますから」
そう頼み込まれオリバーは少し悩むも、観念したのか折れたようだ。
「わかった。でも戦闘では危ないから下がっているようにな!」
こうして私達は魔物討伐に同行する事になりました。
――鉱山への入り口は山の中腹辺りにあるので、まずは山道を登る事になります。しかし、その道はかなりの急勾配で自然と体力差が出て来ます。なので――
「し、死んでしまいます!」
一番体力の無い私は、案の定息が上がっていました。
「おーい! イリア嬢ちゃん無理せんでいいぞ! 俺らが討伐するまでに登りきれば十分だしな!」
「イリア頑張れ!」
「は、はひぃ……」
前方を足軽に登っていくネルとオリバーさんが呼びかけてきた。もうオリバーさんの言う通り討伐までに登り切れればいいかなと、心が折れ掛かってきていました。
「イリア大丈夫?」
「鉱山って山なのを完全に忘れてたわ」
そんな私に付き添うようにアンジェは一緒に歩いていた。
「先に行っててもいいのよ」
「ううん、いいの。それに聞きたい事もあるし」
「聞きたい事?」
「――ねぇイリア、前から気になっていたんだけど」
アンジェは少し躊躇するも話をしてきた。
「以前から魔法が使えないって言ってたよね?」
「そうね」
「でも、それって本当は違うんじゃないの?」
「えっ? そんな事は無いけど?」
「そうじゃなくて、魔法が使えない事はそうだと思うよ。けど、使えないのはそれ以前の問題なんじゃない?」
中々核心を突いた意見に私は少したじろいだ。
「なんで、そう思ったの?」
「この前のライセンス取得試験で、音の鳴る丸薬を渡したじゃない? その時「私にはできないから」って言ってたよね?」
「あっ……」
そう言えば、言ったわねそんな事。口が滑ったか。でもまぁ隠し立てするつもりもないし、いいかな?
そう結論付け自身の事情を口にした。
「私はね、魔力自体が存在してないのよ」
「えっ?」
そりゃ驚くわよね、いきなりそんな事言われたら。
「これっぽっちも無く、完全に無よ。村の近くの教会では騒ぎになったくらいだしね」
実際大騒ぎになったが、余計な混乱を避ける為に一部の者のみに話は止められているのだが。
「だから、魔力を込めるとかそういった当たり前の事も出来ないのよ」
「ごめんなさい、私そうとは知らずに」
「いいの! いいの! 気にしないで! 生まれつきの問題だから、今更どうって事も無いしね」
深入りし過ぎた事に罪悪感を抱くアンジェに、全く気にしていない事を告げ宥める。
自分で言ってて何だけど、ある意味生まれつきなんだろうし、間違ってはいないわよね?
「イリアは生まれつきの問題多いのに凄いなぁ」
そうアンジェは呟くと、今度は自身の事を語り出した。
「私は生まれつき体が弱くて、殆ど寝たきりの生活だったの」
「あれ? でも、前に連れ回されていたって聞いたけど?」
「それは、普通に生活出来るくらいになってからだね。それ以前は、全くダメだったのよ」
私は黙って話に耳を傾けた。
「当時の事はあまり覚えていないのだけど、いつの日かを切欠に体調が快復に向かっていって、何とか普通の生活までは出来るようになったのよ」
その話は、私に深く刺さるものがあった。
「後はネルが言ってた通りよ。でもまぁ、偶に検診してもらっているんだけどね」
「それだと、結構無茶させてたかしら?」
「いいのよ、運動はした方がいいって言われてるから。それに、あくまでも念の為にってだけだしね」
今度は私がアンジェに宥められていた。
「その反動なのか、魔法が上手く使えないみたいなの」
私は少し考えるも、素直に思った事を口にした。
「別にいいんじゃない? 上手くなくても」
「そうかな?」
「出来ないなら出来ないで、マイナスに考えず、寧ろ凡人ではないとプラスに考えた方がいいわ。今特訓してるのも、そういうものだしね」
あっけらかんとした態度で語る私にアンジェは尋ねた。
「イリアはどうしてそんなに自信が持てるの?」
「自信? 無いわよ? 能力も才能も無いのだもの、寧ろ不安でしょうがないわ」
「えっ?」
しかし、帰って来た答えは意外なものであった。
「だから必死に考え努力するの、最も人らしいじゃない? 私はそんな人が好きよ?」
そこには屈託の無い笑顔があった。
きっとそれは表立って見せる事の無い彼女の本心だったのだろう。
「などと豪語してはみるものの、人の事言える立場じゃないのだけどね」
嘲るように笑って見せた。
「さて、先頭と大分差がついちゃったし、頑張りますか」
そう言うイリアにアンジェは頷く。しかし、それは力強いものであった。
先行する二人に追いつく為にも、重い足を上げ歩みを進めました。
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