第19話 坑道探索

 山道を歩く事一時間、私達は鉱山の坑道入口に到着しました。因みに私は、アンジェに背中を押してもらい何とか一緒に辿り着けました。

「さて、どう向かうかね?」

 広げた地図を見ながらオリバーは呟いた。

 鉱山の坑道内は、適当に進んだりすると迷子になるくらい入り組んでいる。ましてや、慣れている訳でもないので、その可能性は大いにあり得る。

 そうならないように、採取のポイントを踏まえて移動する道を選んで行く事にした。

「よし! それじゃ行こうか!」

 坑道内には魔物が居るという話もあるので、主力であるオリバーさんを先頭に坑道の内部へと入って行った。



 坑道内部は案の定暗かった。予め持ってきておいたカンテラに火を灯すと、視界は一気に広がった。通路は狭く、幅は二メートルあるかどうかくらいだった。中央にはレールが引かれており、採掘した鉱石をトロッコに乗せ移動させたりしているのだろう。

高さも大体同じくらいで、長さがある事から長方形の様な通路であると言える。壁はカンテラの灯りを浴びて所々でキラキラと光を反射させている。壁に含まれる石英で反射しているのだろう。

 そんな通路を暫く歩くと、道が二手に分かれており、レールも同じように分岐していた。地図を広げる私にオリバーさんはカンテラを近づけ明るく照らしてくれた。

「えーっと、ここからは――」

 地図を見た感じだと、ここから左右に分かれている通路は、どちらも大きく内部をぐるっと周り、ここへ帰って来るようになっていた。なので、どちらから行っても問題は無さそうだ。


「どっちでもいいみたいだけど、どうする?」

「じゃあ左で!」

 そう即答するネル。

「どうしてまた?」

「何となく」

「魔物が出るって話なんだから、出会った時に不利になる様な態勢にならないようにね?」

「あっ! 忘れてた!」

 おいおい、目的を忘れちゃダメでしょうに。

 とは言え、特に反対も無かったので、ネルの意見を通し左側の通路を進む事にしました。



 暫く進むとぽっかりと開けた場所へと出てきた。レールは中央で終わっており、所々の壁には採掘しているであろう跡が見受けられた。地図を確認すると、そこは最初の採取ポイントであったので、早速採取の支度を始める。

「それじゃ、嬢ちゃん達が採取している間に周囲を見回っておくぜ」

「僕も行きます」

 そう言い、オリバーさんとネルは周囲の偵察に向かいました。

「さてと……」

 残った私とアンジェで採取作業を行う事にしました。アンジェが採取したサンプルを回収するケースを用意していたので、私は採掘作業に入りました。

 背負っていた荷物から小型のピッケルを取り出し、壁を削ると然程の労力も無くボロッと崩れ落ち塊が幾つか転がり出てきた。

「うーん……」

 私はその塊を片手にまじまじと観察する。


「質が悪い!」

 私はそう吐き捨てた。

「判るの?」

「ここまで来る時に壁がキラキラ光っていたでしょう?」

「うん」

「あれは石英がカンテラの光で反射してたのよ。だから石英の他にもオパール・磁鉄鉱・コランダムとかが採れると思ってたんだけど……」

 手に持つ塊を見ると、石英自体はパラパラと見えるものの、ほんの数ミリ単位であり、塊と言える物はどこにもなかった。

「それどころか元素鉱物も見えるかどうかの量しかないわ」

 採掘場所にしてはその採取量は少な過ぎた。これではとても稼ぐには程遠い。


「良く知ってるな、イリア嬢ちゃん」

 一先ず採取したサンプルをケースに収めた頃合いに、偵察に行っていた二人が戻って来た。

「実際に来たのは初めてですが、村にいた頃に現物で習っていたので多少は」

 喋りながらも荷物を纏め背負い直すと、次のポイントへと歩みを進ませました。



 地図によると、次のポイントまでは直進のみであった為、警戒はするものの会話をしながら歩いていました。話の内容は先程の続きとなり……

「村の鍛冶屋の爺さまに習っていたので、鉱石の現物は以前から拝見した事がありまして」

「なるほどなぁ」

「その爺さまが、また頑固一徹な職人気質な人で「粗方の武具は作ったからもう飽きた! 今度は究極の金物を作るつもりだ!」って張り切ってて」

 今思い出しても面白い人だなぁと、笑いが込み上げてきた。


「村にいた頃イリアは何をしていたの?」

 不意にネルがそう尋ねてきた。

「そうね……商人の夫婦のお世話になってたから、主に行商の手伝いをしていたわね」

「お世話になってたって?」

「森で彷徨っていた時に、ちょっと色々あって身元を引き受けてもらったのよ」

 それ以前の話は端折っておいた。

「それ以来、色々手伝ってるっわけね……っと、着いたみたいよ」

 そんな雑談をしていたら次の採取ポイントへと到着した。

 先程とやる事は同じなので、手早くピッケルで採掘しサンプルを回収した。しかし、やはりと言うべきか、肝心の物が殆ど見受けられなかった。さすがに何か異常であると思えてきた。



 再び場所を移動し最後の採取ポイントへ到着しました。

「随分広いね」

 見渡すと、そこは前の二部屋と違い大きくドーム状に開けており、高さも五メートル以上はあるだろう。その事から、ここが主要な採掘場所なのではないかと予測できた。

「ところで肝心の魔物は?」

 ネルの言う通り、坑道に入ってから一向に姿を見せない魔物が、私も気になっていた。

「っ! ちょって待て!」

 不意にオリバーさんが声を上げ私達は歩みを止めた。オリバーさんはゆっくりとカンテラを前方に翳すと、暗闇の奥にうっすらと何かの塊のようなモノが蠢いていた。オリバーさんはカンテラを私に渡し、背負った大剣をゆっくりと構える。同じく、ネルも剣を構え前方のモノに意識を集中させていた。

 すると、奥に蠢くモノは次第に鈍い金属音を立てながら、その姿を現した。



「こいつは、ゴーレム……か?」

 オリバーは判別に困るような言い方をしていた。それもその筈、見た目は巨大な石造りの人形、通称ゴーレムの種類であったのだが、その体を構成しているものがあまりにも歪であった。体の所々はゴツゴツした岩のようで、イメージ的にはフジツボがくっついた感じによく似ている。

「こいつが噂の魔物か? ならば話は早い、とっとと倒しちまうか」

「はい!」

 オリバーの声にネルは応答する。


 ゴーレムはその大きな腕を振りかぶり二人に向かって叩きつけてきた。二人は素早く躱すと、両者左右に別れ剣を構え直す。

「ネル嬢ちゃん、こいつは物理攻撃だ! プロテクションシールドで対処するといい!」

「解りました」

 オリバーの指示を受けネルは魔法の詠唱を始めた。

「厚き壁よ 身を護る 盾と成れ! プロテクションシールド!」

 立て続けにオリバーも魔法の詠唱を始める。

「猛る力よ 我が腕に宿りて その意を示せ! マキシマムパワー!」


 マキシマムパワー。自身の腕力を強化する魔法。力が上がるので重い物を持ったり押したりでき、また受け止められる剛力の魔法。


 防御障壁を張ったネルに対して、オリバーは攻撃強化を行った。『守りより攻撃』の剛腕の名に相応しいと言えよう。

「行くぞ!」

 オリバーは強化した腕力に物を言わせ、ゴーレムの脚部に向かって大きく振りかぶった。大剣がぶつかった拍子に金属音が坑道内に鳴り響く。しかし、ゴーレムは傷一つ付いてはいなかった。

 同様にネルも反対側の脚部を攻撃するも、やはりこちらも傷一つ付いてはいなかった。

 ゴーレムの攻撃を避けつつ二人は距離を取る。幾度か攻撃をしてみるものの、オリバーとネルは、まるで別のものと戦っているのではないかと思う程に、双方に違いが生じていた。



 そんな二人に物陰から見ていた私は声を掛ける。

「どんな感じですか?」

「硬いんだけど、何か変な感じがする」

「感触が鉄のような……けど場所によっては鉛のような、よくわからん感じだな」

 今一つ要領を得ないようで、二人は首を傾げていた。

 二人の意見を元に図鑑を開き探してみるもののそんなゴーレム種はどこにも載っていなかった。

 普通は岩などのロックゴーレム、鉄のアイアンゴーレムなど、キッチリと体組織は統一されている筈なのだが、このゴーレムはどこかおかしい。

「新種? ……にしては、なんか違う気もするのよね」

 頭を悩ます私にアンジェの一言が核心を突いた。

「突然変異とか?」

「それよ!」

 ナイス! アンジェ、まさにそれだ。

 何かしらの原因で、鉱物を取り込むようなゴーレム種が変異して、無造作に取り込み始めたと考えた方がまだ自然であると思う。その原因については今考える事じゃないので後回しにしよう。


 改めてゴーレムを見て考える。

 デコボコした外見からして、歪さを隠し切れていない。なので、通常のゴーレム種とは違い純度は明らかに低い事が判る。そして、所々に違いがある事から、無理矢理取り込んだだけで、合金のようには混ざってはいないと言った方が感覚的にしっくりくる。

 つまりは粗悪品って事ね。それなら何とかなるかもしれない。

 そう思い至った私は、対峙する二人に呼びかけた。



「ネルとオリバーさん!」

 その声に二人も気づき、意識だけをこちらへ向け応答した。

「どうした? イリア嬢ちゃん」

「そのゴーレム? まぁ取り敢えず、ゴーレムの関節部を出来るだけ細かく連続して動かすようにしてみてもらえますか?」

 何だかよくわからない説明にネルは疑問符を浮かべていた。

「自滅を誘おうかと思いまして」

「……あぁ、そう言う事か!」

 狙いが何かにオリバーは気付いたようだ。

「やるとしても時間掛かるぞ?」

「それはこっちで何とかします」


 そう呼びかけ、私は外套の懐にしまった物を取り出し、一つをアンジェに手渡した。

「早速練習の成果を出す時が来たようよ?」

「それはいいんだけど、何をするの?」

 アンジェの問いに私はこう答えた。

「時を加速させましょう!」

「……はい?」

 相変わらずイリアの色々抜けた言葉に、アンジェは首を傾げていた。

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