第14話 悪い人で人でなし

 ――あの後私達は、爆発に気付き駆けつけた人達に救助されました。勝手な行動に出た私達はお説教を受ける事に。まぁ、そこは素直に反省したい所です。

 犯人については、至急で駆けつけたギルドの人達が捕縛し王都まで連行していきました。

 また、肝心の宿屋のご主人の行方はと言うと、井戸の傍にある倉庫の中で身動きが取れない状態でいたのを発見、かなり衰弱してはいましたが何とか救助されました。

 それはそれとして、あの後目を閉じてしまったイリアですが……



「いやぁ、今日も良い天気ねぇ」

 普通にピンピンしてました。

「生きとったんかワレー!」

「勝手に殺すな!」

 翌朝、私達は部屋で帰り支度をしていた最中、イリアとネルはいつも通りのやり取りをしていた。


「……ところでさイリア」

「ん?」

 ネルは藪から棒に聞いて来た。

「昨日のアレはどういう事?」

「アレって? どれ? 思い当たる節がありすぎてわかりませんが?」

「あり過ぎちゃうのね」

「えっと……まず、あの爆発! イリア魔法使えたんだね!」

 何から聞こうと迷うネルは、思いついた事から聞いて来た。

「えっ? 魔法?」

 何言ってるの? という表情をするイリア。

「んなわけないじゃない。アレは唯の事故よ、事故。合図で投げたバケツが事故を起こしただけよ?」

「でも、なんか詠唱とかしてたじゃん」

「あんなの嘘よ嘘。それっぽい事してたらそれっぽく感じるじゃない? 演出よ、え・ん・しゅ・つ」

「うわぁ……タチ悪ぅ」

「それに、イリアさんは別に良い人何かじゃないわよ? 強いて言うなら悪い人。人でなしだから問題なんか無いのだわ」

 あっけらかんとして笑うイリアにネルは若干引いていた。


「あぁ、それともう一つ」

 思い出したかのようにネルは話を変えてきた。

「最後のアレって、噂の戦闘術?」

「そうよ」

「凄いんだけど、なんで普段からやらないのさ?」

「いやだから、言ったでしょ? 色々限定的過ぎるって」

「どういう事?」

「つまりはね――」


 つまりイリアの言う事はこうだ。

 一つ、自分の術が相手にバレてない事。

 二つ、相手との距離が三メートル以内である事。

 三つ、動きがだけで、別に力が強い訳でもない。

 四つ、それ故に人の力が及ばない魔獣とか魔物相手には使えない。

 五つ、三メートル以上になると普通に足の速い人の方が断然速い。

 六つ、使った後は低血糖症に陥り、動けなくなる。


「――て、事よ?」

 淡々と話すイリア。しかし、看破できない内容にネルは口を開いた。

「待って! 何か途中からおかしい事になってる! ってか、最後の低血糖症って何さ!」

 色々ツッコミが激しいネルに、イリアは順を追って説明する。

「私はね、速筋型なのよね」

「速筋って確か瞬発力だっけ?」

「アンジェの言う通りよ。ただし『極度の』が頭に付くけどね」

「それってつまり瞬間的な動作がって事?」

「そゆこと」

 なるほど、つまり“早い”になるのね。


「それで、速筋は解糖能力に優れていて、糖を分解してエネルギーにしているの。けど、その分疲れやすいって弱点があるのよ」

「あぁ、だからイリアはすぐにバテてたんだね」

 極度の速筋であるなら猶更そうだと納得できる。

「でも、低血糖症ってのは?」

「あー……それね」

 何とも言いづらいのか、イリアは口ごもる。

「糖を分解してエネルギーにって話は今したよね?」

「うん」

「普段から常に糖を消費し続けてる私がアレをすると、その分体内の糖を消費し過ぎちゃってね、血糖値が著しく低下するんですわ」

「ダメじゃん!」

「ぶっちゃけ死にかけます」

「もしかして、行きに言ってた甘いものを摂らないと死ぬって言うのは……」

「そう言う事です」

「ホントに死活問題だったのかー!」

 道理で普段から甘味物を持ち歩いてたわけである。

「だから、か弱いイリアさんを姫のように護るがいい!」

アンジェ本物いるのにそれ言うか!」

 悪びれる素振りもなく言うイリアにネルはツッコミまくっていた。そんな二人を眺めつつ私はある疑問がありました。

 死にかける事をしてまで、何故そうしたのかと。



 ――実習最終日、トータス村の駅前に私達は集まっています。

 最後の点呼が終わり列車の到着を待っているところです。そんな中、ミーシャちゃんが見送りに来てくれました。


「おねーちゃん達!」

 私達を見つけると、足早に声を掛けてきたミーシャ。

「おぉ! 妹よ!」

「違うだろ!」

 両手を広げ妹宣言するイリアに、手で払うようにバシッとツッコミを入れるネル。

「おねーちゃん達、悪い人をやっつけてくれてありがとう」

「いやいや、勝手に自滅しちゃっただけだから何もしてないよ? ミーシャちゃんが約束を守って良い子にしてたから、女神様が助けてくれたのよ」

 今回の件は、偶然犯人を見つけた私達は、追われて倉庫に逃げ込んだら事故が起き、犯人は自滅という事にしています。イリアがどうしてもそうしてほしいと懇願してきましたので。


「でも、宿屋のおじさんも言ってたよ? もう少し遅かったら死んでたかもしれないって」

「それは運が良かったのだわ。それこそ普段の行いが良かったのを女神様が見ていてくれたのよ」

 よしよしとミーシャの頭を撫でるイリア。

「ふふ、なるほどね」

 それを見ていた私は何となくそういう事かと理解した。


「アンジェ、どうしたの?」

 そんな私にネルが声を掛けてきた。

「いえ、イリアは良い人だなぁって思って」

「どういう事?」

「わざわざ言わなくてもいいのにネルを焚きつける様な事を言ったり、しなくてもいい推理をあの場でしたり」

「あっ! そうか! 宿屋の主人の安否を考えてたんだね」

 ネルも合点がいったようで声を上げた。

「うん、多分ね。ミーシャちゃんとのやり取りの時に気付いてたんだと思うの。だから事態の早期解決を急いでたんだと思う」

「なるほどねぇ……って、僕焚きつけられてたの?」

 ネルは今明かされる事実に驚愕していた。



「いや、それは買い被り過ぎよ?」

 こちらの話が聞こえていたようでイリアは口をはさんできた。

「そうかなぁ?」

「そうよ。ネルの事は聞かれたから答えただけだし、推理は言いたかっただけだし」

「その割にはギルドの救援が早すぎる気がしたけど?」

「さ、さぁねぇ……」

 イリアは、あからさまに口ごもり目を逸らしていた。

「そもそも、倉庫の鍵なんて調べる必要も無かったわけだし」

「た、偶々よ?」

「もしかして、最初からあの状況に持ち込むための布石だったりした?」

「おおっと! 話の途中だがワイバー……ではなく、列車が来たようだ! 解体すっぞー!」

 丁度その時、列車がやって来たようで、イリアはここぞとばかりに声に出し誤魔化していた。



「それじゃ、愛しの妹ミーシャちゃんまたねぇ!」

「ばいばーい!」

 手を振り別れを済ますと、足早にイリアは駅のホームへと逃げるように駆け出した。私達も後を追うようにミーシャちゃんと別れを済ましホームへと向かう。



 帰りの列車の中、私はまだ思う所があり、横で眠り込んでいたネルを起こさないように、窓の外をぼんやりと眺めていたイリアにそっと話しかける。

「……ねぇ、イリア」

「んー?」

 こちらを振り向くわけでもなく窓の外を眺めながら生返事をするイリア。何だかいつもと様子が違っていた。

「爆発なんて事をする時も、相手に防御魔法をような事を言ったり、爆風で倉庫の外へとように誘導してたじゃない?」

「……」

「本当は犯人の事も気を使っていたんじゃないのかなって?」

 すると、窓の外を眺めていたイリアはこちらに振り向き言葉にする。


「だからねアンジェたん、買い被りすぎだって。そうなっただけだから」

 当人はそう言うが、粉塵爆破で最も被害が少ないのは風なのだから。最後は気絶するだけに止めていたし。

「列車でガウス地方に入った時、外にある倉を見て私が何て思ってたと思う?」

「えっ?」

「爆破したいって思ってたのよ?」

「物騒だよ!」

「そうよ。だからイリアさんは、悪い人で、人でなしなのよ」

 そう言い終ると、また窓の外をぼんやりと眺め始めた。その胸中に何を思っていたのかは私にはわからなかった。わからないが一つだけハッキリと否定出来た事がある。




 そんな事ないわ。だって、貴女はあの時こう言ったじゃない。


 「それじゃあ約束しよう。悪い人は偉い人が裁いてくれるから、もう危ない事はしないようにね?」って。


 それは相手がが前提の話でしょう?


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