断章Ⅱ 探求せしは眠りし櫃
昏い昏い地の底にて、一人の学者は笑っていた。
それは嘲笑だろうか? 或いは歓喜だろうか?
学者の前には一つの古びた
――時は遡る。
ある日、学者は祖父の家で一つの古びた日記を見つけ出した。日記はかなり昔の物か、随分と朽ちてしまっていたので、破らない様にそっと中を開く。書かれている文字は大分消えかかっていたが、何とか読めるくらいには残っていた。
日記には、次の様に書かれていた。
〇月×日 その日、変わった事は無かった。
〇月△日 船に乗った。少し酔ってしまった。
〇月□日 飲み過ぎた。気持ち悪い。
×月〇日 寸分狂わず真似できた。傑作だ。
×月△日 出来るだけにした。無理は良くない。
×月□日 板を切り出した。後で使う。
△月〇日 家を修理した。これで安心だ。
△月×日 白い塗料を使った。足に付いた。
□月×日 ベーコンを炒めた。跳ねた油で火傷した。
□月△日 ロウソクを用意しよう。もしもの為だ。
日記と言うには一言二言書いてある程度のもので、内容に関しては意味があるような無いような……はっきりとしない。
だが、学者はその日記が異質である事に疑問を覚えた。よく読み込んでみると、そこにはある法則で隠された暗号がある事に気付く。
早速、暗号に記された場所へと赴いた。
昔の資料を調べ上げ、とある森の奥深くへ彷徨い歩く事数時間、祖先が住んでいた家を見つけ出した。長い年月を雨風に晒され続けた廃屋は腐食が酷く、壁だった所を手で軽く触れてみる。すると、ボロリと崩れ落ち粉々に砕け散った。
崩壊しないよう気をつけて内部を探して回る。
くまなく探していると床の一部がずれている事に気付いた。長年晒され続けずれたにしては意図的にずらせるような造りをしていた。気になりその床をずらしてみると、鉄で出来た一つの扉を見つける。
これは地下へ続いているのか?
重い扉を持ち上げ開くと、予想通り地下への階段が掛かっていた。学者は意を決し灯りを付ける魔法を唱え階段を降り始める。
階段はかなり深くまで続いていた。漸く階段を降りきり、周りを見回すと奥には棚がいくつも並んでおり蔵書として保管していたようである。
それらの書物を読み漁っている最中、本の間から紙切れが抜け落ち地面へ落ちた。それを拾い上げ確認してみると何かが書いてある様だった。折り曲げられている紙切れを開くと、文字は随分と霞んでおり古い文献である事が判る。
文字が消えないよう慎重に読み上げる。内容はこう書かれていた。
其れは、地の底に眠りし
古より封じられし神の聖櫃
彼の地にて、水の底、地の底に其れは眠りに着く
聖王の証にて封印は解かれ、再び御身は姿を現すだろう
願わくば、後世に生きる者よ、我らが悲願を果たさんとする事を祈る
その文献を読み終わると、学者は一人ニヤリと笑う。その様子からすると文献の意味を理解しているようだ。
他には必要としない物しかなかったのか、その文献だけを持ち去って行った。
――それから幾年の月日が流れ、漸く文献の指す場所がどこか目星がつき、現地へと赴いた。見る限りは中々に広く少し時間が必要になる。暫くはこちらへ意識を向けさせない方がいいだろう。そう思い、魔法陣を構築し、誰も寄せ付けないようにしておいた。
早速、広範囲の探知魔法を唱え、入念に探した。すると、ある一ヶ所から魔力反応を見つけ出し、急ぎ小舟で向かった。
そこは、小さいながらも陸地になっており、上陸する事が可能であった。
周りを見ても何も見当たらない。と、言う事は、隠蔽されているだろうと思い、再び探知魔法を唱え調べると、何かしらで封印されている事が判った。
しかし、学者にとってその程度の封印なら解除出来る代物であった。難なく封印を解除すると、地面だった場所が霧の様にスーっと消え、地下への階段が現れた。
学者はニヤリと笑うと躊躇せず階段を降りて行った。
階段は右往左往と行ったり来たりの下りが続き、果たしてどれだけの時間を下って行っただろうか? 随分と気が遠くなるような時間を下った気がする。恐らく、実際はこんなに長い階段ではなく、魔法で感覚をずらしているのだろう。とはいえ、それも永遠に続く訳でもなくいずれは終わりを迎える。
階段を下りきった所で周りを見渡すと、他には何もない事が窺えた。ここが終着点であろう。
地下は大空洞とでも呼ぶべきか、随分と大きく広がっていた。これも空間が捻じ曲がっているのだろう。
学者は周りを見渡しながらしばらく歩く。すると、奥に祭壇の様な物が見えてきた。よく目を凝らして見ると、祭壇の真ん中には一つの古びた
まるで、地の底で眠っているかのように、静かに厳かに置かれていた。
学者はその
前準備は概ね整った。後は育ったものが実りを迎えるだけ。
我らの悲願成就まであと少しだ――
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