第2話 悪役っぽい人達が現れたんですが。(改稿版)

 その声の主は探すまでもなく、住宅街の中で無駄にメッチャ目立ってた。


 すぐそばにある自販機に腕を組みつつ足も軽く組みもたれ掛かって、こちらを値踏みするかのように、私の足から頭まで舐め回すかのようにネチッこい目で見ている、女。

 派手めのメイクに黒のハイネックレースミニワンピと真っ赤なピンヒールパンプスが、秋のうららかな日曜日の真昼間の住宅街に全ッ然似つかわしくない。


 その後ろには、プロレスラーみたいなゴリゴリの身体に、秋口で涼しくなってきたってーのをガン無視したカーキのタンクとピッチピチになってるGパンという、なんか色々間違えてそうな服装の男。男は腕組みして足を肩幅に開いて仁王立ち。


 その昔小さい頃に見た気がするトレンディドラマのような立ち方に、違和感しかない。テレビだと普通に見えるのに、日常の中で見るとこんなにヤバそうな人に見えるもんなんだなー。気をつけよう……


 見知らぬどころか、知ってたとしたって友人には絶対にならないであろうその二人に声をかけられ、私は──念の為後ろを振り返る。

「いや、アンタよアンタ。日本刀持った危険女」

 ボケたつもりではなかったけど間髪入れずにツッコミ入れられてしまった……


「あの……私は危険じゃないです。コレは何かの間違いです。私のじゃないんで。

 えと、至宝? じゃあ、あの、差し上げます」

 あんまりお近づきにはなりたくなかったけれど、日本刀を持ったままでいる方が嫌だったので、私は手にしたソレを黒レース女に差し出す。……抜き身の日本刀なんて持った事がないので、どう渡していいか分からないから取り敢えず刀身を両手で持って柄の部分を掴みやすいように。刀身って素手で触っちゃダメだった気がするけど……ま、いいか。分からないし。


 しかし、女は受け取らない。

 眉根を寄せて嫌そうな顔で、日本刀と私の顔を交互に見た。

「……コレを渡されたってわよ。何アンタ、そんな事も知らないの? え? もしかして素人シロウト?」

 え? 何の? やっぱ刀身は素手で持っちゃダメだった?

「コアの出し方分からないワケ? わ。ヤダ。そんな使えないババアが後継者?」

 コア? 後継者?? だから何の?? っていうか酷い言われようじゃね?

「ま、命の危険に晒されれば、火事場の何とやらで出せるかもね」

 ね、お願い。現代日本人に分かる言葉で話して。


 差し出しても受け取ってもらえなかったので、刀を再度左手に持ち、私はどうすりゃいいのか分からず立ち尽くす。

 すると、黒レース女の後ろに仁王立ちしていた筋肉ダルマが、ヌッと腕を出してきて私の首を掴んできた!

 そのまま首を引っ張られて、爪先立ちで引きずられるように女と男に息がかかるほどの距離に寄せられる。

「かハッ……」

 私の口から、わずかに漏れた空気が変な音を立てた。

 首を絞められて空気が吸えない。吐き出す事も出来ない。途端に顔が熱くなり視界が白んできた。

「さあ、コアを出さなきゃ死ぬわよ? さっさとして」

 そんな事言われたって……

 分からないし苦しいしで頭が混乱し、何も考えられなくなる。


 ──ふと、先日出会った人の最期の顔が浮かび──


「……!!」

 左腕が燃えるかのような猛烈な熱を感じる。

 私は半分意識を失いながらも、その熱を振り払うかのように左腕を振り上げた。


 ギャリッ


 不思議な、音がした。

 どこかで聞いたことのあるような音が……そう、工事現場とかで──

テツ避けて!!」

 女の悲鳴のような声が聞こえた瞬間、私の身体が後ろへと投げ捨てられた。

 その次の瞬間に、重たい音がして私と筋肉ダルマの間に電柱とブロック塀が倒れこんできた──って、電柱?! 塀?!

 喉の痛みでゲホゲホとムセながら涙目で見上げると、長さが通常の半分になった電柱が電線に半ば吊られた状態で道を覆い、その下には崩れたブロック塀が散乱していた。

 え、と思い、もともと電柱があった筈の場所を見ると──


 横にある家のブロック塀と電柱の根元が、鋭角に切り取られて前衛芸術のような不自然な空間を作り出していた。


「まさかっ……もう?!」

「んな馬鹿なッ?!」

 その様子を見ていた黒レース女と筋肉ダルマがが驚愕の声を上げる。

 え、何? 何が起こったの……?

 そう思って立ち上がろうと地面を見た時──


 左手に持っている日本刀の黒かった筈の刀身が、まるで溶ける寸前の鉄のように真っ赤に光っているのが見えた。

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