第15話 家に不審者がいるんですが。
人間、呆気にとられると咄嗟には動けないモンだと、実体験した。
髪から滴る水滴が顔を撫でる。
テレビでお笑い芸人がコントをしてて、その大声と観客の笑い声が虚しくリビングに響いてた。
ピー。
給湯ポットが沸騰を知らせOFFになった音がする。
その音を契機に
「ああ、お湯が沸いたな。
そう朗らかに笑いながらヨッコイショと立ち上がり、まるで
不思議な沈黙の時間が流れ──
「何してんだテメェ!!」
我に返った私は、手にした日本刀を
しかし、
「はははっ。結婚前に同棲して、こうやって喧嘩もしつつ少しずつ意見を擦り合わせて行くのが重要だよね」
「喧嘩じゃねェよ?! 不審者! 家宅侵入案件!! どうやって入った!?」
「
「お前ぐらいじゃ入ってこれるのは!」
「そうだね。愛が成せる技だね」
「空き巣の手口じゃ!!」
「空き巣だなんてそんな。俺の心を盗んで行ったのはキミなのに」
「盗んでないわ! もし盗んじゃったとしたら丁重に
「慰謝料として、キミの気持ちをくれるかい……?」
「嫌じゃボケ! キラキラした目で見んな!」
「だって……
そう言われてハタと気がつく。
そういえば私、風呂上がりで
「見んな変態!」
私は刀を引こうとしたが、掴まれた刀身はビクともしない。
「そうだね。初めて裸を見せ合う時は……恥ずかしいよね。俺もだよ」
「照れんな! 頬を染めるな!! 裸がナンボのもんじゃ! こちとらもう恥ずかしがる時期はとうに過ぎてンだよ!!」
「そんな、
「違うそう言う意味じゃない! お願いだからこっちの意図を汲んでくれ!!」
「そんな事を言って──」
ドタリという音を立て、私は床に転がる。
その上から、
「
手首を床に押し付けられ、身動きが取れなくなる。
ヤツの目がすうっと細められ、息のかかるほどの距離に顔を寄せられた。
電灯を背にしている為、
彼は笑っておらず、至極真剣な目をしていた。
だから何じゃ! 真剣な顔ならいいとか、そんな訳あるかい!!
私はヤツの体をなんとか跳ね除けようと、足をバタつかせたり、身を
が、ヤツの体を退けるどころか、手首を床から浮かせる事も出来なかった。
男の力に
勝てない。
怖い。怖い。怖い。
どうにもできない。逃げられない。
途端に、全身に震えが巻き起こる。
手にした日本刀がカチャカチャと小さな音を立てていた。
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