第4話 取り敢えず全員から逃げてきたんですが。(改稿後追加エピソード)

 内臓が出てきそうなほど気持ち悪い。

 肩で息をして喋る事も出来ない。

 こんなに全力疾走したのはいつぶりか。

 高校の時の部活の走り込みの時以来かな。あの時は辛かったな……よく熱中症起こさなかったよ──って違う! 現実逃避すんな私!!


 住宅街を少し抜け、人通りが多くなる直前の路地の中。

 奥まった所が曲がり角になっていて、その角を曲がった部分に息を潜めた。


 意味不明な危険人物二人&三人から逃げた後、日本刀を持ってるので人前に出る事も出来ず、私は人の来ない路地に隠れていた。

 恐らく、あの人たちが探しに来る。

 すぐ家に戻るのも家バレしそうで怖く、ほとぼりが冷めるまでここに隠れる事にした。


 どうしてこんな事になった?

 私は左手に握りしめてる黒い刀身の日本刀をマジマジと眺めた。

 今朝、左腕が火がついてげ落ちるのではないかと思うぐらい猛烈な痛みを感じて目が覚めた。

 痛みを我慢して、休日診療をしている少し遠くの病院へと向かっている最中、左腕が脈動していてもたってもいられなくなった。

 なので、その痛みと脈動を振り払いたくて左腕を振ったのだ。

 そしたら、

 左掌から、この日本刀が。


 これは……アレだ。

 だ。


 渡された記憶もないのに、何故私が持ってる?

 何故私の左手から生えた?

 それに、いつのまにかできてる、左掌の火傷痕のようなこの文様は何?

 先程、刀身が赤く光っていた時は手から離れなかったのに、今は右手に持ち替えても問題ない。

 試しに地面を刀の切っ先でこすってみたけど、アスファルトには傷もつかない。

 さっきのアレは何だったのか?

 問題もある。

 さっき試しに、地面に置いて少し離れてみた。

 そしたら刀の形が崩れて消えた。

 ──と、思ったら、また猛烈に左腕が痛み出したのだ。泣きそうになりながら左腕を振ったら、また刀が生えてきた。それと同時に収まる激痛。

 つまり、のだ。

 でも、こんな物持ってたら普通に外歩けない。

 どうしたもんか……

 私は頭を抱えるしか出来なかった。


 さっき襲ってきたヤツらも意味不明な事言ってたな……

 コア、とか、とか。

 あと、ヤツらも突然刀を持ってたり、グローブを出したり盾を出したり……一体何だったんだろうか?

「やっぱ十六連勤で頭バグったのかな……私、実は脳溢血とかで倒れて、死の間際に夢でも見てんのかな……」

 どうすれば良いのか分からず、私はポツリとそんな事を漏らした。

 すると──


「キミは正気だし、間違いなく生きてるよ」

 そんな声がどこからともなくかけられた。

 驚いて立ち上がり辺りを見回すが、誰もいない。

「誰?!」

 私は刀を左右に向けて声の主を探した。

 路地の曲がり角から、ゆっくりとした足取りで現れたのは、あのストライプスーツの男だった。

 私が向けた刀に向かって右掌を突き出す。

「それは危険だ。先程キミも見ただろう? 石の壁やアスファルトをいとも簡単に切り裂いた。能力を操れないキミには大惨事を引き起こしてしまう可能性がある。

 ……大人しく、我々について来るんだ。悪いようにはしない」

 そう、言いながらジリジリ近づいて来るストライプスーツ男。

 無駄なイケメンさが逆に不気味さ倍増。

 私は後ろに下がりながら日本刀を両手で構えて彼へと突き出した。

 男は立ち止まる。

「ホントに危ないんですよー。それは童子切どうじぎりといって、全てのものを切り裂く伝説の妖刀ですー。貴女も怪我をしてしまう可能性があるんですよー?」

 男の影から、先程の制服女子がヒョッコリ顔を出した。

「そもそも、蘇芳スオウさんの能力を一般市民の貴女が持つべきではありませんー。大人しくしてれば痛い事しませんからー」

 そうニッコリ微笑んだけど……いや、怖いって。この状況でその笑顔は逆に怖いって。

「ルリさん……それ、逆効果じゃないですか……?」

 最後に童顔男子が姿を現し、最もな事を言う。

 だよね?! あんなん言われたら逆に怖いよね?!

 しかし。童顔男子の意見に賛同はしても油断は出来ない。

 つまり、この人たちも、さっきのヤツらと同じって事だ。

「アンタたちも……コアとやらを出せって言うの?」

 ストライプスーツ男に向ける刀の切っ先が震えてる。そりゃそうだ。刃物を人に向けたことなんてない。コレが人を殺せてしまうと思うと、怖くて向けてる事にも抵抗感が凄い。

 でも、そうしないと、何されるか分からない。

「素人のキミに、そんな高等な事を要求するつもりはないよ」

 そう答えるストライプスーツ男。……なんかさっきから上から目線でいけ好かない。

 しかし、そんな私の気持ちとは無関係に、また一歩前に踏み出した。

「来ないで!」

 私は、怖いながらも刀を頑張って突き出す。

 しかし彼はそんな私を鼻で笑うだけ。

「……震えてるよ」

「知ってらァ!」

 言われなくたって! でも、自分の身を守るためならやるしかない!!

「どいつもコイツもワケ分からない事言って!! そんなこと言われて『はいそうですか』なんて言えるもんか!!」

 私は、牽制のつもりで刀を振り上げた。

 彼に当たらない場所へと振り下ろす。

 すると──

 ガキンッ

 刀が、ストライプスーツ男が手に持つ刀に受け止められた。

「……やる気なら、応えてあげるよ?」

 彼がそう呟いた瞬間、姿が搔き消える。

 え、と思った瞬間、左手首に鋭い痛みが走った。

「いっ……」

 その痛みに、手にした刀を取り落としてしまう。

 気づくと、ストライプスーツ男が私の左手首を掴んで上へと高く釣り上げていた。

 そして、私の喉元に手にした刀をそっと添える。

「気の強い女性は好きだけど、他の強さも伴わないとね」

 眼前でニィっと笑うストライプスーツ男。

 男は私の顎を掴んできた。

 心底侮蔑の色を浮かべた彼のその目に、私は猛烈な怒りと嫌悪感を涌き起こらせる。

「気安く触るな!!」

 私は右手を固く握り締め、男の顔面に向かって思いっきり振り抜いた。

 油断していたのか、男の頬にモロヒットしてしまう。

「ッ!」

 その瞬間、ストライプスーツ男の片腕が見えない速度で唸りを上げた。


 ガツッ


 そんなくぐもった音ともに首筋に鋭い痛みを感じた。

 そして──一瞬にして目の前が暗くなる。


 その闇の向こうで、あの人が、悲しい顔をしているのが見えた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る