第3話 味方っぽい人達が現れたんですが。(改稿版)
誰かに抱きかかえられる。身体が一瞬揺さぶられた気がした。
その後すぐに
「落ち着いて下さいー。まずは深呼吸してみて下さいねー」
左手首が誰かに掴まれ、そんな柔らかな女性の声がした。
視線をあげると、私をニッコリ笑顔で覗き込んでくる黒髪の女性の顔が目に入った。
その女性が私の左手首に両手を添えている。
そのすぐ横には、私を抱きかかえた男性の顔があった。
「深呼吸ですよ。……ええと? ヒッヒッフー?」
ソレ、陣痛の時にするヤツ。
「
「……すみません……」
なんか。落ち着けた。というか、慌てふためき混乱していた頭が急速に冷めた。
その瞬間、私が左手に持つ日本刀の刀身が、もとの黒にフッと戻るのが見えた。
冷静になった頭が視界を広げてくれる。
見回すと、切れた電線と水溜りから随分離れた場所にいつの間にか移動してきていた。
私の目の前には、私の左手首に両手を添えた笑顔の女性。
何故か女子行員の制服のような濃紺のベストとタイトスカートを着ている。歳は多分アラサーぐらいか。長いまっすぐなサラサラ黒髪が羨ましい。
そして、私を抱きかかえて地面に膝をつくのは男性。
薄いグレーの少しサイズオーバー感のあるスーツを着た──いや、むしろスーツに着られている男。短い髪は特に手入れをしていないようで、スーツを着慣れないと丸わかりな雰囲気もあいまって幼さを強調してる。童顔なだけかもしれないけど。
そして、少し離れた場所には、ストライプのタイトスーツに身を包んだ男性が、私たちに背を向けて仁王立ちしていた。──二本の短めな日本刀を両手に持って。
ゆるく後ろへと撫で付けた髪を刀を持ったまま器用にサラリと掻き上げて、肩越しに横顔を向けてくる。
「
知らんがな。
現実世界にはいらんてそんなお約束。
胡散臭い程顔の整ったそのストライプスーツの男の向こう側──水溜りに切れた電線の更に向こう。そこには、苦々しい顔でこちらを睨む、筋肉ダルマと黒レース女が居た。
「邪魔すんじゃねェよ!」
筋肉ダルマは、そのぶっとい両腕と拳をガチンと突き合わせる。すると、その腕を侵食するかのようにゴツい肘まであるグローブが出現し、ブシューッと煙を吐き出した。
え……何アレ?
「邪魔? むしろ、助けてもらったと俺に感謝すべきだろう。じゃなければ、お前達は真っ二つにされていたんだから」
ストライプスーツ男が、妙に気取った喋り方で筋肉ダルマにそう告げる。
「何気に一人の手柄にしないで下さい
そんな彼の背中にズビシと厳しい台詞を投げつけた制服女子。
「……あの、彼女を助けた出したのはそもそも僕なんですけど……」
おずおずと、申し訳なさそうな小さい声の童顔男子。そんな声じゃ、側にいる制服女子にも聞こえんて。
なんか微妙に連携出来てんだか出来てないんだか分からない三人が、私の周りを取り巻いていた。
その三人+私と、大惨事の道端を挟んで反対側には、グローブを装着した筋肉ダルマと黒レース女。
次第に、間に冷たく肌を刺すような空気が流れ始めていた。
しかし、それと同時に周りの住宅から人がヒョコヒョコと顔を出し始める。
「見物人のお出ましだ。引いた方が得策じゃないのか?」
ストライプスーツが、まるで挑発するかのようや口調で、筋肉ダルマ&黒レース女に告げた。
しかし、筋肉ダルマはニヤリと口を歪ませると
「そんなんお互い様──」
そう叫び、地面を蹴る。
「だろがッ!!」
水溜りを避けて飛び上がり、ストライプスーツ男に殴りかかった。
ストライプスーツは横に飛び退いてかわす。先程まで彼がいた場所に筋肉ダルマの拳が突き刺さり、アスファルトに小さなクレーターが出来た。……って、マジで?! 素手でアスファルト陥没?!
筋肉ダルマは地面を蹴って軌道修正すると、ストライプスーツに追い縋って、両腕で連撃を繰り出す。その度に彼のグローブから白い煙が噴き出した。
壁際に追い込まれるストライプスーツ。
「潰れろ!!」
筋肉ダルマが
しかし、ストライプスーツは少し横に身体をズラして拳を避けた。
彼の後ろの壁が、筋肉ダルマの拳で粉砕される。
「確かに凄い威力だが……当たらなければどうという事はない」
ストライプスーツは鼻でそう笑いながら、ガラ空きになった筋肉ダルマの腹に膝蹴りを叩き込んだ! ……って、さっきのセリフ、どっかで聞いたことあるなー……
「ぐぅ!」
筋肉ダルマが少し唸って体勢を崩す。
しかしその瞬間、私達の方へとギラリとその血走った目を向けた。
「ッ!」
私のそばにいた童顔男子が息を飲んだのが分かった。
「目的はお前らじゃねェんだよ!」
筋肉ダルマが、ストライプスーツに背を向けてこちらに進路変更すると、重い音をたててアスファルトを蹴る。
その凶悪な腕を振りかぶった。
「させませんよー」
私と童顔男子の前に、ノンビリとした口調の制服女子が背中に庇うように滑り込んで来る。
「あぶ──」
危ない、そう私が思わず声をかけるのと同時に──
ガギィッ!
硬質な音が反響した。
見ると、筋肉ダルマの腕が制服女子の眼前で止まっている。
薄い半透明な六角形のタイルが積み重なり壁となって、凶悪な拳から制服女子と私達を守っていた。
「大したことないですねー。コレ、本気ですかー? だとしたらその筋肉って見掛け倒しなんですねー」
腕に小さな盾のようなものをいつの間にか装着した制服女子が、壁を生み出しながら
「?!」
筋肉ダルマが驚き、身を引いて距離を取ろうとした瞬間、後ろからストライプスーツ男が二本の日本刀を翻して筋肉ダルマに振り下ろした。
「危ない
黒レース女のそんな咆哮。
気づくと、黒レース女の手から白い糸のようなものが射出され、ストライプスーツ男の腕を捉えていた──って、スパイ◯ーマンかよ?!
ストライプスーツ男は、腕に絡まった糸に振り回されて、ブロック塀へと叩きつけられ──
「こんなもの!」
なかった。
器用にブロック塀が地面であるかのように着地し、刀を小器用に回して糸を切る。そしてそのまま壁を蹴り、黒レース女の方へと肉薄した。
一方先程
──そんな様子を、私から手を離した童顔男子がハラハラをガン見していた。
……チャンスじゃね?
私は、ソロソロと童顔男子から距離を取る。
童顔男子はアクション映画ばりのバトルに釘付け。
制服女子は筋肉ダルマからの連打を半透明の盾で防いでる。
ストライプスーツ男と黒レース女は激戦中。
誰も、私を見ていない。
今しかねェじゃん!
十分距離が取れたと判断した時、私はクルリと背を向けて全力疾走した。
「ちょっと?!」
背中にそんな声がかけられたが、勿論振り返らない。
兎に角、意味不明なビックリ危険人物たちから逃げなきゃ!!
しかし、かく言う私も刀を持ったままだ。
これを手放せば──いや、それはやめとこう。
また腕が捥げるかという痛みに襲われるのは嫌だ。
私は、人がおらず一先ず隠れられる場所を探して全力疾走した。
「待つんだ!」
遠くからそんな声が聞こえたけれど、私はガン無視した。
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