第49話 決着したんですが。
まだ起き上がる力は残っている筈なのに、
しかし、目はちゃんと開いていたし、瞬きもしてる。大丈夫。生きてる。
「……まさかキミが、こんな手を使うとは思わなかった……」
「こんな手も何も。これしか能力を奪う方法がなかったんだよ。私も好きでやったんじゃない」
だから、
でも、なりふり構っていられない。
キスの一つや二つ、必要ならガツンとやってやるのが大人の女だ。……だよね?
「なんだ……残念……。
ねぇ、あの誘惑方法、他の男に使った事あるの?」
「誘惑?」
「寸止めの名前呼び」
問われて過去の記憶をほじくり返す。
なんか嫌な記憶も蘇りそうだったので途中でやめた。
「ない……よ。多分」
相手を捕まえつつ、油断させて右手をフリーにする方法が、他に思いつかなかっただけだ。
「アンタさ、なんで仲間を裏切ってまで
アンタの言葉、未だに意味がよくわからない」
あの日電話越しに
「遅い反抗期」
とだけ告げた。
……それで、なんとなく分かった気がした。
「俺、どうなるのかな」
「知らない。それはきっと
そう言いかけて、頭に浮いた事柄に思わず言葉が継げなくなる。
……許すとは思えない。
もしかしたら、社会的に抹殺するだけでなく、実際に──
「ま、いいか。俺、今満たされてるし」
そんなヤツの言葉に思考が中断される。
「……愛した女にキスしてもらった。濃厚なの。もう、それだけで充分。思い残す事はない」
「だからまだ言うかソレ……」
懲りないヤツだな、全くもう。私に命乞いか?
「なんで
「信じるも何も……嘘ついてたし。殺そうとしたし」
「……まぁ確かに。愛し方はちょっと歪んでる自覚はある」
あれがちょっとかよ。
「本当に愛してるよ。このまま、キミに首を突いてもらいたいぐらい」
……歪みすぎだろ、それ。
「ねぇ
ずっと空を見つめていた
「もし、違う出会い方してたら、俺の事愛してくれた?」
出会いから衝撃的過ぎて、他の出会い方なんて想像もつかない。
例えば、能力とか
「……」
「最期なのに、嘘でも『そうだね』って言ってくれないの?」
「……嘘はもう充分」
「ふっ……そうだね」
バタバタと、遠くから複数の人の足音が聞こえてくる。
いや、もしかしたらこのビルの持ち主かも。ヤバイ。時間は昼頃だ。普通の人に目撃されててもおかしくない。
そろそろ、終わりの時間だ。
「最期に、言いたい事はある?」
切腹の介錯人のような気分で、
多分……本当にこれが最期だ。
彼は、視線を巡らせて空を見て、そして私の目を真っ直ぐに見た。
「……もう一度、名前を呼んで」
その希望を、叶えない理由はないよね……
「
聞こえるようにしっかりそう呼ぶと、彼は作り物ではないような、ほんのりとした笑みを、その整った顔に浮かべた。
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