第23話 疲れを癒そうと思ったんですが。
長い一日だった……
自宅の湯船にドップリ浸かりながら、身体中に出来た
お湯が擦り傷に
ふと、左掌の文様も見る。お湯で揺らめいていた。
あの日本刀──
三日目の筋肉痛のように、動かすと鈍痛が走るぐらいまでになってきていたので、今は具現化させてはいない。
今日の事を再度思い出す。
考えなければならない事はまだまだ沢山あった。今日もまたなぁなぁでは済まされない出来事を沢山目の前に突きつけられた。
……こんな生活をいつまで続ければいいんだろうか。
そもそも、いつまでも会社を休んでいられない。
今回は十六連勤の代休として半ば無理矢理一週間の休みをもぎ取ったけれど、その先は無理だ。同僚たちに残った仕事を押し付けてしまったし、それでも捌き切れない仕事が待ち構えている。もう休めない。
問題は、あの黒レース女・
日中は会社の中に引きこもればある程度は大丈夫だろうけど、行き帰りは特に危ないだろう。
……だからといって──
「
「結構です」
お風呂の扉越しにそう声をかけてきたのは、ヤツ──
問いかけに間髪入れずに拒絶の意思を返してやった。
会社を定時で飛び出してきたと言っていたアイツは、言葉通り遅い時間になる前に迎えにきた。
私はちょうどその時、ルリさんから能力についての指導を受けていたところだったから、それが終わるまでかなり長い間待たせていたのに、文句も言わず待っていた。
途中ルリさんが肩を震わせながら、午後は
何をしていたのかと聞いたら一言『稽古』とだけ告げた
……ルリさんも、何故火を見たら油を注がずにはいられないのか。
能力者はやっぱりこんなんばっかなの?
そういえば、
一日二日ならなんとかなるかもしれないけれど、連日になったらキツイ筈。自宅にも殆ど戻れないし。
この生活に不満はないのだろうか……
少しして、考え込んでいたかのような
「結構……とは。優れていて欠点がない、つまり俺そのものの事。すなわち、俺を求めている。OKという事か!」
「ポジティブこじつけ飛躍すんな! 嫌だよ来んな! 大人しく座椅子に同化しとけ!!」
「そして、そのまま俺の膝に
「傷害事件起こされたくなかったら下手な事すんなよ……?」
「では、パンツは履いておこう」
「服を、脱ぐな。一枚たりとも」
「ああ、
「何がだよ! いいから黙って置物のようにしてろ!」
「仕方ないな、
……突っ込みたい気持ちをグッと飲み込む。
私が途切れさせなきゃ終わらない……この押し問答。
これが……これが本当に一番の問題だ。
それこそある日耐え切れなくなって
しかも、その日はそんなに先の事じゃないぞ。
……兎に角。
現状に不満ばかりを言っていても仕方がない。
まずは出来る事をできる範囲でやっていく事だ。
気持ちを改めて意を決して風呂から上がる。
部屋着に着替えて髪を拭きながらリビングへと行くと、約束通り? スーツ姿のままの
「……よし。完璧」
何がだよ。
しかしツッコミを我慢し、そんなヤツの声は聞こえないフリをした。
「昨日は風呂入ってないでしょ? 入りなよ。お湯も溜めてあるし」
いくらウザいといっても、護衛をしてくれている事には違いない。粗雑に扱う理由にはならないので、お風呂を勧めてみた。
「ありがとう。いただくよ」
そうニッコリ笑い、
あれは着替えだそうだ。会社で昼休みの間に家に取りに戻ったそう。泊まり込み用に、必要なものは一通り詰めてきたとの事だった。
「……あ、洗濯して欲しいものがあったら、洗濯カゴの中に入れといて。後で洗濯機回す時に一緒に洗っちゃうから。……嫌じゃなければ」
そう、念の為に聞いてみる。
すると
少ししてから、表情が解ける。
「……嬉しい」
ボソリと呟かれた言葉に、何故か私の心臓が一度大きく跳ねた。ホントに何故だ?!
「じゃ……じゃあさっさと風呂入っちゃいな!」
「うん」
作り物ではないような、ほんのりとした笑顔で風呂へと消えていく
……あんな顔にほだされないぞ。昨日アイツ、私を床に押し倒したんだからな。
油断すんな私。
脱衣所からガサゴソという音と共に風呂場の扉が閉められたのち、シャワーの音がし始めたのを確認してから脱衣所へと行く。
脱衣所の横に置かれた洗濯機を開けて、洗濯カゴの中からヤツのワイシャツや靴下とか下着、自分の洗濯物を放り込む。洗剤を入れてスイッチをポチ。
脱ぎ捨てられたスーツを引っ掴んで逃げるようにその場を後にした。
……男の下着を洗うのは初めてでもないのに、何故こんな緊張してる? 意味分からん。
スーツをハンガーに掛けながら、ソワソワし始めた自分が何かムカつく。
頭ではそれどころではないと理解しているのに、この状況やスリルを身体が楽しんでいる
自分自身で制御できずに物凄くイライラした。
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