結章

第41話 意を決したんですが。

 全身鏡で見た自分の身体は、本当に傷だらけだった。

 擦り傷のあとは、瘡蓋カサブタが残っていたり皮膚が引きって歪んで茶色い。あざは青から黄色になりつつあり、そこここをまだらに染めている。

 背中はまだ鈍痛が残るが、もう動くのに支障はない。

 痛いところには湿布を貼る。でも、織部オリベさんのお陰でかなり痛みは軽減されていた。

 頬のアザはファンデーションを塗って隠そうかとも思ったけれど、別に客先に出向くワケじゃないんだからとここにも湿布を貼った。


 まったく。こんな傷だらけの身体じゃ嫁に行けないねェ。

 予定もないけど。


 その身体をいつもの普段着で包む。

 ジーパンにフルジップパーカー。中には白のカットソー。

 ……まるで近所のスーパーに行く時の格好だ。おおよそ戦いに行こうとしてるなんて思えないだろう。


 会社には先日、階段から落ちて背骨を骨折したので更に一週間休みを貰うと連絡した。

 うん、嘘はついてない。

 支局の方からも一日完全に休みを貰い、休養に専念した。

 一晩中治療に尽力してくれた織部オリベさんから絶対安静を仰せつかったしね。安静にしなくて傷の治りが遅くなったら彼に申し訳ない。織部オリベさんは帰ったが、彼にも休養を取らせると朱鷺トキさんが言っていた。

 恐らく、ルリさんも休んでいるだろう。


 そう、戦いに向けての休みだ。


 朱鷺トキさんはその間に準備を進めると言っていた。

 SNSから集めた情報を精査して、アイツ──天雲アマクモ紫苑シオンが勤めていると思われる会社を三つまで絞り込んだ。

 この情報を元に、ヤツの今の居場所を特定する方法を朱鷺トキさんが閃いたのだ。

 上手く行くかは五分五分だと朱鷺トキさんは笑っていたけど……笑いの中に潜んだ眼光の鋭さからすると、十中八九成功するんじゃないのかなー。

 ……アイツの実家が金持ちで食うに困ることはないから会社勤めしてないんじゃないか、という事を朱鷺トキさんに言ったら、ハッキリとした口調で『それはない』と断言された。

 やはり、朱鷺トキさんには私が見えてないものが見えてるようだ。


 ヤツの居場所が特定できたら奇襲をかけに行く。

 居場所を特定したとバレる前に。


 そして──能力を取り返す。

 それは私にしか出来ない事。

 だからこの戦いは、ズブの素人である私が鍵となる。

 その為に、皆んなが私に賭けてくれた。

 その期待にも応えたい。


 私は家を出た。

 時間は朝。天気は秋晴れ。空気がまだヒンヤリしてて気持ちよく、薄い雲が空の高い場所に流れている。

 平日のこの時間の住宅街は少しだけ慌ただしい空気が。でも、遠くから子供達の笑い声が聞こえてくる。

 とても穏やかな気持ちになった。

 絶好の戦闘日和……かな。


 私は意を決して、支局へと足を進めるのだった。

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