第44話 敵の隠れ場所に乗り込んで来たんですが。

 ビジネスホテルの中に入ると受付の人たちがこちらを一瞥いちべつする。

「ただいまー」

 ルリさんはほがらかにそう笑って受付をスルーし、エレベーターの方へと歩いて行った。

 ……笑顔で嘘つける人って怖い……


 二階は客室がなかったので三階で織部オリベさんが降りる。六階でルリさんが。

 そして、私は最上階の十二階で降りた。

 エレベーターホールを出ると、客室のドアが開け放たれているのが見えた。掃除機の音が聞こえる。

 私は非常路地図を見て部屋の場所を確認すると、素早く廊下の端まで移動する。荷物から小型カメラを取り出すと、裏に両面テープを付けてスイッチをON。廊下の壁に貼り付けた。

 そこから反対側の廊下まで歩いていく。

 全てのドアは開け放たれていた。

 反対側の廊下の端に辿り着き、同じくカメラを仕掛ける。

 この階ではなさそうだ……

 エレベーターホールまで足早に戻る途中、部屋から出てきた清掃の女性とバッタリ出くわした。

「……こんにちは」

 ニッコリとして挨拶すると、相手の女性も笑顔で返事。内心バクバクの心臓の音を聞かれないように急ぎたい気持ちを抑えつつ、私はエレベーターホールへとゆっくり戻って行った。

 エレベーターを待っている間に

「こちらゲン。三階、六階、十二階のカメラの動作確認した」

 そんな声がイヤホンから聞こえてきた。

「こちらアカネ。十二階は空振り。十一階に移動します」

 小声でそう呟くと

「こちらルリー。同じく七階へ行きますよー」

「こちら……織部オリベです……その。ええと、三階は開いていない部屋が一つ。ノックしても出ませんでした。ええと……四階へ向かいます……」

 同じく報告が聞こえてきた。

 織部オリベさん、声引きってるけど大丈夫かな……

 エレベーターに乗り込み、十一階ですぐ降りる。

 同じく地図を確認してから廊下を覗き込んだ。

 空いてないドアが一つあった。

 心臓が跳ね上がる。

 まずは廊下の両端にカメラを設置してから、閉められたドアの所へと移動する。

 手が震える……

 私は喉を一度鳴らしてから、意を決してドアをノックした。


 出てきて欲しい……

 でも出てきて欲しくない……

 複雑な気分が喉を締め付ける。


 ……ドアの向こうで足音が聞こえた。

 そして、ノブが回されて……ドアがゆっくりと開いた。


 そこに立っていたのは、若い女の子二人だった。


「……はい?」

 いぶかしげな顔をして私を睨む女子二人。

「あっ……あれ? ここ、鈴木さんの……部屋じゃ……」

 焦る気持ちは本物。感情そのままに、でも嘘の言葉を吐いた。

「違いますけど……」

「ごっ……ごめんなさい! 間違えました!」

 私は申し訳なさそうにして深々と頭を下げる。

 そうすると、女子二人はブツブツ文句を言いながら扉を閉めた。

 扉が完全に閉まったのを見届けて、大きく溜息を吐き出した。


 心臓がバクバクいってる。

 正直言うと、ホッとした。

 アイツと突然面と向かったら、どうなるか分からない。

 探してるのに──会いたくない。

 能力を返して欲しいけど──顔を合わせたくない。

 殴り付けたいけど──もう関わりたくない。


 でも……


「こちらゲン。四階、七階、十一階のカメラ動作確認済み」

 そんなゲンさんの声で我に帰る。

「こちら織部オリベです。四階は空振りでした。五階へ移動します」

「こちらルリですよー。七階は二つ開いてないドアがあったけど、片方は返事なし、片方はハズレー。八階へ行きますよー」

 続いてそんな二人の声が聞こえた。

「……こちらアカネ。十一階は開いてない扉が一つ。……外れでした。十階へ移動します……」

 エレベーターホールまでヨタヨタと歩いた。

 たった一回の確認作業でこんなに疲弊してたら保たない。

 頑張れ私。まだまだこれからだ。

 私は気合を入れて、到着したエレベーターに乗り込んだ。

 一階分だけ降り、扉が開く。

 そして──


 天雲アマクモ紫苑シオンが、そこに立っていた。

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