第19話 護身術も習おうと思うんですが。
「あの……大丈夫ですか?」
午前中の受け身の練習で、既に身体中が痛い私に
「大丈夫じゃないけど大丈夫……お願いします」
変な所をぶつけまくって、身体中に痣が出来まくっている。
なんか、普通に歩くのすらちょっとシンドイ。
でも、時間は限られている。
私は午後の講師の
スーツ姿では分からなかったけど、かなり身体は絞られている。……羨ましい。
「では、僕からは基本的な護身術をお教えしますね。護身術の基本は『相手に掴まれない事』ですが、それはルリさんの方が上手いので、僕からは『掴まれた時の対処方法』をお伝えします」
先程受け身の練習をしたのと同じ場所で、今度は
「そうですね。じゃあまずは、一番ありがちなシチュエーション。後ろから抱きしめられた時の対応方法です。
では、後ろを向いて頂けますか? まずは、何も知らない状態で試してみましょう。如何に対応できないのかをまず実感してもらいます。
……あ、足の甲は勘弁してください。今素足なんで……」
足の甲……ああ。昨日私が筋肉ダルマから脱出するために使った方法ね。
それ以外で、脱出を試みろって事か。なるほど難しい。でも、まずはやってみよう。
私はくるりと回って
「はい、どうぞ」
私は後ろを向きながらも、いつでも掴まれてもいいように心構えをした。
……。
……。
……?
いつまで経っても抱きついて来ず、私は後ろを振り返る。
すると、アワアワした
何故か顔を真っ赤にして焦っていた。
「どうしました?」
「あっ……あのっ……」
両手を若干広げた状態で、ちょっと出したり引っ込めたりしている。……なんの踊りだ。呪術か?
「……だっ……抱き締めてもっ……これはその……訓練ですのでっ……」
何を今更。知っとるわ。
「だからっ……やましい気持ちとか、そんなものは……ないのでっ……」
だろうよ。あったら大問題だわ。
っていうか、そんな事考えもしなかったわ。
……ん? もしかして……
「女性に抱きついた事、ないとか?」
「あっ……ああああっありますよっ?!」
ホントかよ。
「じゃあ、よろしく」
「ハイっ!」
声、裏返ってるけど。
しかし、見ていたら余計に出来ないだろう。
私は再度背中を向けて待つ。
時間が惜しいので早くして欲しい。
「でっ……では参ります!」
「はい。よろしくお願いします」
声だけで
……大丈夫かな。
そう思ってると、ガバリと後ろから両腕ごと抱え込まれた。
前のめりになろうとしても出来ず。腕ごと抱えられている為手も使えず、半身を翻そうにも許されなかった。
そのうち抱え上げられてしまった。
足をバタつかさて
そうこうしているうちに壁際まで運ばれて、壁と
「……はい、もうこれで貴女は追い込まれてしまいました。あとは殴られたりして終わりです。先程は怪我しそうだったので倒れないように気を使いましたが、倒れ込んだとしてもマウント取られて同じ結果になりますね」
肩を掴まれ半身を強制的に返される。
眼前に
……壁ドンて、興味ない相手からされたら恐怖でしかないわ。世の中のコレがされたいとかいう女子は頭大丈夫か……?
「この状況にならないように、対処する必要があります。それでは次は──」
「わー。ここ広ーい。地下にこんな所があるんだ凄ーい!」
不意に、明るい女の子の能天気な声がして、二人でそちらの方へと振り返る。
部屋の入り口の所に、猫耳パーカーを着込んでホットパンツを履いた女の子が、辺りを物珍しそうに眺めながら立っていた。
そして私たち二人の姿を見つけて──
「……女の子が襲われてるー! 不審者ー! 誰かー!!」
全力でそう叫び出した。
「ちっ……ちちちちち違いますよ?!
「ヤダー! なんでボクの名前知ってるのーっ?! 怖い誰か助けてー!!」
「ああそうかしまった……
「
「ソレ今一番呼んで欲しくない人たちっ!!」
慌てたように彼女の方へと走り寄るが、猫耳パーカーの女の子は跳ねるように階段を駆け上って行ってしまった。
……修羅場が見える。
ルリさんが
でも、あれは誰だろう?
このビルに居るって事は、支局の人間なんじゃないのかな? なのに
でも、
残された私は、ワケも分からずどうする事も出来ずに、その場に立ち尽くすしか出来なかった。
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