第11話 妖刀がまた覚醒したらしいんですが。(改稿版)
「まさかっ……また?! そんな……コイツは素人の筈なのに!」
私の手の中にないのに、刀身を真っ赤に燃え上がらせた日本刀──
黒レース女は驚愕の声を上げつつも手を伸ばそうとしたが、触る前に熱さを感じたのか手を引っ込めた。
「
ルリさんが歓声を上げた。
覚醒?
糸に絡め取られて振り返れないルリさんが、横顔だけで私に賛辞をくれたが──
その言葉とともに、真っ赤だった刀身が黒へと戻ってしまった。
「あー! 何で戻しちゃうんですかー?!」
「意図してやってないから!」
「早くー! また覚醒させて下さいー!」
「無理! さっきだって今だって、どうやってやったかも分からないのに!!」
「もー。仕方ないですねー」
そう頬を膨らませたルリさんが、スッと黒レース女の方へと向き直る。
そして──
「ストーム!!」
突然叫んだ。
その瞬間、ルリさんの身体から前に向かって猛烈な風が巻き起こり、立っていた黒レース女の身体を後ろへと吹き飛ばした。
「フリーズ!!」
間髪入れずにもう一度ルリさんが叫ぶと、今度は彼女の右腕の部分から、糸がパキパキという音を立てて凍り始めた。
ふんッ! と気合一発、ルリさんは凍った糸を粉々にして自由になった。
「何それ魔法っ?!」
「魔法なんて現代にあるワケないじゃないですかー。
「特殊技能集団がどの口で言うッ?! それに、厨二病じゃないからねっ?! 違うからねっ?! じゃあソレ何?!」
「ライブラリですよー。さっき
体に残った糸の残骸をハタき落としながら、ルリさんが振り返る。
ライブラリ?!
「え?! プログラム関数群?! なワケないよね?!」
「あ、正解!」
正解なのッ?!
「アレと同じですよー。あー、
「分からない分からない! プログラムのライブラリは分かる! でもコッチのライブラリは分からん!」
「つべこべ言わずにやって下さいー! ホラ、ケバい女が立ち上がったー! 早くー!!」
「誰がケバい女よ! あざと女がッ!!」
私とルリさんが押し問答している間に、吹き飛ばされて地面に転がっていた黒レース女が苦々しく立ち上がり、手をついていた壁にガリガリと爪を立てた。
取り落としていたナイフを拾い上げてクルリと回す。
悠長に漫才やってる場合じゃなかった!
私は慌てて、さっき雑居ビル内で渡され腕に付けていた腕時計のようなリストバンドを見る。
「えーと、えーと、どうしたら?!」
「腕に付けてるでしょ?! それを体の一部だと思ってエネルギー通して、叫んでください! 『フリーズ』って!
「叫ぶの?! しかも、漢字を充てるとか意味わからん!」
「音声起動って言ったでしょー! 漢字は気持ちですー。気持ちを込めるって事ですよー」
「なんで?! 意味あんの?!」
「ないですー。開発者の趣味ですよー!」
変な趣味発揮しやがって開発者!!
恥ずかしい!
魔法みたいな言葉を真面目に全力で叫ぶのって死ぬほど恥ずかしい!!
でも、恥じらってる場合じゃない!
底辺社会人! 恥なんて簡単に捨ててやる!!!
「
全力でそう叫び──
何も起こらなかった。
「恥ずかしっ」
黒レース女のそんな嘲笑で、自分の顔が真っ赤に茹で上がるのを感じた。
「何も起こんないじゃんっ!!」
「だからー、腕に付けてるのを体の一部だと思ってエネルギー通さないと起動しませんてばー」
「そんなん言われたって簡単に出来るかッ!」
「土壇場なんですからそれぐらい簡単にこなして下さいよー。ホラ、もう一回!」
ルリさんがパタパタと両手を振って促すが──
「悠長に待つワケないでしょ!」
黒レース女が、手にしたナイフで鋭く突きを放ってきた。
ルリさんはすんでのところでそれをかわす。
かわしたついでに、黒レース女の伸ばしてきた腕を脇に挟んでナイフを持つ手をホールドした。
「今講義の最中なんですから邪魔しないでもらえますー?」
「講義って何よ?! ソイツを能力者にでもするつもり?!」
「そうですよー。ウチは零細、人手不足ですからねー。未経験者大歓迎ー」
「そう言って使い捨てるんでしょ?!」
「失礼なー。ウチはホワイト団体ですよー? 貴女のところのブラック団体と一緒にしないでもらえますー?」
黒レース女とルリさんが漫才──もとい、キャットファイトのように、身軽に飛び回りながら格闘していた。……って凄くね?! 映画かよ!!
いかん! それどころじゃない!
私は身体の半分に絡みついている糸と、腕についたリストバンドを凝視する。
リストバンドを身体の延長と考えて、エネルギーを通し──って、どうやってやんのそんな事?! エネルギーってそもそも何?!
「もう! まだるっこしい!!」
私はライブラリとやらを起動させるのを諦めて、なんとか糸を引きちぎろうと引っ張る。しかし、伸びるだけで剥がれなかった。
そうか。
そこで気づく。伸びるということは……
私は足元に転がった刀に自由な左腕を伸ばし、なんとか拾い上げようとする。
さっきみたいに刀身は赤くないけど、糸を切るぐらいならできるかもしれない。
もう少し……もう少しで……
日本刀に、中指の先がほんの少し触れた。
その時──
「
ドタドタと騒がしい足音をさせ、筋肉ダルマが駆け寄ってきた。
すぐに私の後ろへと辿り着き、もう少しで日本刀を拾おうとしていた左手首をガッチリと掴んできた。
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