不惑前にして異能バトルに巻き込まれてしまったんですが。

牧野 麻也

起章

第1話 悪夢を見てるようなんですが。

 これは悪夢か幻か。


 それとも、システム障害対応で十六連勤と連日連夜の深夜対応(睡眠時間平均三時間)でとうとう脳の方にも障害出ちゃったのか。


 私の左手の中には──日本刀。


 一般市民が普通持ち得ない、古めかしくも鋭さを失っていない真っ黒な刀身が、禍々まがまがしさをブチ抜けてむしろ神々こうごうしい。

 太陽の光をギラリと反射──してんじゃねェよコンチキショウ。何だこれ?


 鞘に収まってないその日本刀を片手にした私は──麗らかな秋晴れのお昼頃に、日曜日の少しの気怠けだるさと穏やかさが綯交ないまぜになった時間が流れる住宅街のド真ん中で立ち尽くす。


 何、この、違和感しかない状況。

 今は、隣の国と外交問題は大小起きてたって一般市民には遠い話な天下泰平の日本やぞ?

 小学校からプログラミング授業があるぐらいの普通のデジタル社会やぞ?


 何、この、数千人はほふって来てそうな、黒光りする日本刀。

 鉄の分際でこの黒さの由来はなんだよ。血でも吸いすぎて限界突破した色なんか?


 そして、そんな物騒ぶっそう極まりないを左手にしっかり握り締めて立つ私って──

 ハタから見たら無差別殺人犯ので立ちじゃね?

 職質省略OKの待ったナシ逮捕案件じゃね??


 やめて。

 私、新宿品川新橋丸の内辺りで石投げたら当たるぐらい、ありふれた普通の疲れたOLだから。

 最近ファンデのノリも悪くてBBクリームじゃないと色んなシミソバカスが隠せないし、白髪もチラホラ目立ち始めてブリーチじゃなくヘアカラーに変えたという微妙ビミョーなお年頃・三十代もド真ん中の、ごく普通の会社員だから。


 久しぶりに何もない日曜日に、昨日から感じてた体の不調を調べに病院に行こうとしてたトコだから!

 無差別殺人やりに行くワケじゃないから!!


「なにコレェッ?!」


 あまりの衝撃にギュウギュウに締まっていた声帯が緩んでやっと絞り出せた声は、裏っ返ってカスれてた。


 そんな日々に疲れた底辺企業戦士の私の声が、ムナしく近くの家の壁に反響し──


「それは至宝よ。アンタなんかが持ってちゃダメなものなの。

 返しなさいよ」


 ミョーに鼻にかかった甘ったるい女の声のこたえが返ってきた。

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