第38話 本来のもののようなんですが。

「さ。織部オリベ。出しな」

 まるでカツアゲのように、織部オリベさんを壁際まで追い詰めた朱鷺トキさんが、ドスの効いた声で脅す。……脅してるよね? アレは。


「そっ……そそっ……そんな。万が一の事があったらどうするんですか?!」

 詰め寄られた織部オリベさんは、顔を赤くしたり青くしたりして慌てている。せわしないな……顔色。

「そしたら、アカネさんが責任取ってくれますよー」

 そんな適当な事を言うのは当然ルリさん。

 突然私に振られて驚きつつも、ルリさんに乗ることにする。

「責任? え、私が? 責任とるってどう取るの? 結婚すればいいの?」

「えッ!? けっこ……けけけっ……け結婚?!」

「えー。じゃあしょうがないなー。責任取ってあげるから早く出して」

「軽くない?! アカネさんの人生の岐路、軽くない?!」

「ほら。初めてでもなかろうに。サッサと出しちまいな」

 朱鷺トキさんが駄目押しする。

「はっ……初めてじゃないでふけどっ……」

 あ、噛んだ。


 はわはわとした織部オリベさんは、意を決したかのように両手を合わせ──


 緑に光るコアを出した。


 そして、それを私へと差し出す。

 私がそっとその光に触ると、瞬間、私の掌へと光が熱と共に吸い込まれて行った。


 心臓が一度、大きく脈動する。

 手が燃えるように熱い。見ると、受け取った手の甲に火傷のあとのような文様が浮かび上がってきた。左掌の文様とは違う形の新しい文様は緑色に輝いている。


 私はその熱が冷めないうちに、掌を上にして『出ろ』と念じた。

 すると、掌の上にアイスピックの先のような太い針が出現した。

 これが……織部オリベさんの能力……

「ソレ、人に刺すには太過ぎやしませんかー?」

 ルリさんがチャチャを入れたが、朱鷺トキさんは手で制する。

 そして、私に目配せした。

 私は針を消して、代わりに緑の光のコアを出現させてアワアワ慌てている織部オリベさんへと手渡した。

 無事、コアは再度織部オリベさんへと吸収される。

 しかし、前にルリさんが言ったように、一度ついた右手の甲の文様は残ったままだった。

 ……え、これこんな目立つところに……やめてよ……

「……どうだい? 織部オリベ

 問われた織部オリベさんは手の上に針を出現させた。

 私の治療に使ってるかのような、細くて鋭い針が数本彼の掌にそっと乗っていた。

「んー……変化ないようですね。渡す前と渡した後も」

 彼は様々な太さと大きさ、何本もの針を出現させては消してみていた。


「こりゃ驚いたね……。ルリも試してみるかい?」

「はーい」

 催促されたルリさんは、何の躊躇もなく青く光るコアを出し、私に投げつけてきた──って、投げる必要はなくない?!

 問題なく光が吸収され、今度は私の左腕にまた新たな文様が青く輝きつつ浮いてきた。

 なので、私は前にルリさんの能力を見た時のように、左腕に自分の右手を添えて浮かせつつ『出ろ』と念じてみた。

 腕には、盾が出現する──が。

 デカくて重くて、とてもじゃないけど動けそうもない。

 仕方ないのでその場で障壁を出そうと念じる。すると、半透明の六角形のパネルが出現したが──酷く範囲は狭かった。

 再度コア化して、今度はルリさんに返す。

 ルリさんは能力が戻ると共に盾を出現させ、同時に障壁も展開する。その大きさは天井の高いこの部屋を完全に分断できるほどの大きさだった。

「同じく、変化は感じませんねー」

 そう、盾を消しながら笑顔でルリさんは答えた。


 その結果を踏まえ、朱鷺トキさんは顎をさすりつつ、しかしハッキリとした口調で私に告げた。


山本ヤマモトさん。アンタは固有の能力を持たないのが資質だ。強いて言えば『他人の力を借りる能力』だね。

 どんな能力でも使う事が出来る。その再現率はあまり良くないようだけれど……

 でも、この能力の強みは資質が混ざらない事だ。借りたまま返す事が出来る。

 ……上手く使えば、これは強い武器になる」


 朱鷺トキさんの目は、まるで手練てだれの狩人ハンターのように、鋭い光を放っていた。

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