第37話 能力を確認していたんですが。

「マジかー」

「マジですねー」

「ホントにマジかー」

「ホントにマジですねー」

「悪い夢かコレはー」

「残念ながら世知辛い現実ですねー」

 私の愚痴に、ルリさんがイチイチ被せて来た。


 稽古場の畳の上に胡座をかいて座り、前やったように水晶を両手で持って能力の習得練習をしていた。

「でもアカネさんー? 貴女もいい大人なんですからー。そんなのの一発や二発ガツンとキメちゃえばいいんじゃないですかー?」

「そう簡単に言うけどさー……こう、なんて言うの? 拒否感? 抵抗感? そんなもんがあるんだよねー」

「そんなー。不惑ふわくを目前にしたおつぼね的存在が、なに社会出たての小娘みたいな事言ってるんですかー?

 ……はっ?! もしやまさか……アカネさんて……」

「違うよ?! ホラでもさ……」

「いいんですいいんですー。隠さなくてもいいんですよー。恥ずかしい事ではありませんー。むしろ、そのピュアさは貴重ですー。大切にしていきましょうー」

「だから違うって言って……」

 喋りながらも、どうやら普通にを循環させる事は可能になったようだ。

 先程から手にした水晶はキラキラと瞬いていた。

 ……これも、監禁されて精神的に追い詰められた状態での修行の賜物だと思うと、ちょっと複雑な気分になる。


「あー……循環出来てますねー。しかも、ちゃんと水晶が能力の存在を示してますー。

 示してますねー。示しちゃってるなー……」

 ルリさんが、私が持つ水晶のまたたきをいぶかしげに見ていた。

「示しちゃダメなの?!」

「んー。ダメじゃないんですよー? ダメじゃないんですどもー……

 ええとですねー。能力は生来のものなので基本的な性質は変わりませんー。見た目は変わる事はありますがねー。性質が変化するのは別の能力を引き継いだ時ですー。

 能力を引き継いだ時には、その能力と生来自分が持つ能力が混ざってしまいますー。

 混ざった結果、能力の性能が悪くなる事も良くなる事もあるんですよー」

「……能力が混ざる? って事は、私が引き継いだ蘇芳スオウさんの能力も、私が持ってる間、私の生来の資質が混じってたって事?

 ……ん? その状態でコア化して、相手に渡してしまったら、渡した後の私はどうなるの?」

「そこなんですよねー……」

 今まで流暢りゅうちょうに説明していたルリさんが突然言いよどむ。

「……普通、人に渡した能力は失われてしまいますー。そして、混ざった能力は分離する事は出来ませんー」

「この手の文様は?」

「能力保持者の証は、能力を譲渡しても何故か消えないんですよー。でも、それは問題じゃなくてー……

 本来であればコア化し渡した時に、アカネさんの生来の能力も天雲アマクモさんに移ってしまった筈なんですがー……」

「なんですが?」

「それがー……先程の水晶の反応を見る限りだとー……失われてないっぽいんですよねー。

 なんでだろー?」

「ええっ?! ルリさんにも分からない事あんの?!」

「失礼ですねありますよー。私だって普通のそこら辺にゴロゴロいる無知なOLの一人ですよー?」

「……今何気に周りのたくさんの人をディスったね……」

「んー……そうだなぁ……それを確かめる為には具現化インカネしてみましょうー。

 具現化インカネの方法は分かりますよねー」

「それが……なんだけど……」

 今度は私が言いよどんだ。

「私、童子切どうじぎり具現化インカネしてた時は、無意識だったんだ。出ろ、と思えば出ただけで……」

「えー。じゃあ、その時と同じように『出ろ』って思ってみてくださいよー」

「うーん……」

 私は言われた通りに、童子切どうじぎり具現化インカネしていた時のように、左腕を振って『出ろ』と念じる。

 ……しかし、何も出てこなかった。

「んー? 何かオカシイですねー。あー、それじゃあ、水晶を使ってコアを出してみてくださいー」

 言われるがまま、今度は前にやった時のように水晶を持って極限まで集中する。

 最初は白く光っていた水晶が、段々色付いてきて──


朱鷺トキさーん!!!」

 その様子を見ていたルリさんが、突然ガバリと立ち上がり、猛烈な勢いで稽古場を出て行ってしまった。

 え……あの……コレ、どうすりゃいいの? 消していいの? 維持してなきゃいけないの?

 私は、どうしたらいいのか分からずに、そのままルリさんが消えて行った扉を呆然と見ることしか出来なかった。

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