第36話 後がなくなったんですが。

 織部オリベさんは顔面蒼白。

 ルリさんは珍しく黙って爪を噛んでいた。

 ゲンさんは……分からない。いつも通りの仏頂面だ。

「これでも、一週間の猶予を貰ったんだよ。本当は昨日取り潰し命令が出た。

 ……ま、そんな横暴、この私が許すはずもないけどね」

 サラリと凄いコトを今朱鷺トキさんが言った気がするけど……まぁ、朱鷺トキさんならやりそうだ。

「さて。これで期限は決まった。一週間だ。一週間以内に天雲アマクモから能力を奪い返すよ。

 その為にはまず──」

「あ、その事で一つご報告が……」

 言いにくい事だったけれど、言わないわけにはいかない。

 私は鞄の中から携帯とモバイルバッテリーを取り出すと、朱鷺トキさんの所へと持って行った。

「……これは、アイツがウチに置いていった荷物の中にありました」

 机に置いた携帯のスイッチを入れて、中身を確認する朱鷺トキさん。

「……中に入っていたデータは電話番号一つだけでした。本当はそのままここに持ってくるべきでしたが……」

「……かけたのかい」

「はい」

「で?」

「アイツが出ました」

 それを聞いて、朱鷺トキさんは躊躇なくリダイヤルをする。しかし、暫くして携帯を机に置いた。

「電源が入ってないそうだ。ま、そうだろうね。例え今日ここに持ってきてからかけたとしても、恐らくあの子は出なかったろうよ。

 で、何を話した?」

「……居場所についてと、蘇芳スオウさんにあんな事をした理由を……」

「何て言ってた?」

「居場所は当然教えてくれませんでしたが、蘇芳スオウさんの事については……能力は欲しいワケではなかったけれど、これじゃなきゃダメだったって……」

「……」

 アイツの言葉を伝えると、朱鷺トキさんは口元を押さえて考え込んでしまった。

 沈黙が辛く、私は口を開く。

「勝手な事をして、申し訳ありませんでした……」

「いや。その言葉が引き出せただけでも収穫だったよ」

 朱鷺トキさんは、私の方は見ずに相変わらず何かを考え込んでいる。朱鷺トキさんには、何かが見えてるのかもしれない。

 私が再度問いかけようと口を開きかけた時、どこからともなく電子音が響いてきた。

 音の出所の方へと首を巡らせると、織部オリベさんがPCにかじりついていた。

「ロードが終わりました。吸い出しと同時にデータベースへデータを流し込んだので、すぐに検索可能です」

「あ、検索クエリはもう作ってあるよ。渡すね。USBでいい?」

 私は慌てて自分のノートPCの所へと戻り、刺してあったUSBを抜く。

 織部オリベさんに手渡しした後、画面を見ようと彼の方へと行こうとして、その背中に朱鷺トキさんの声がかけられた。

山本ヤマモトさん。データ解析は織部オリベに任せて、アンタはルリと一緒に稽古場へ行って能力の状態を確認しといで。今回は間違いなく能力戦になる。

 あ、ゲン。彼女にライブラリの指導もお願いね」

「おうよ」

 そう言われて立ち止まるが、ふと気になった事があったので尋ねてみる。

「……そういえば、アイツから能力を奪い返すって話ですが、そんな事可能なんでしょうか? 能力の譲渡はコアを渡すしかないですよね?

 でも、アイツが素直に能力を返してくれるとは到底思えません」

 だからアイツも、私を拉致して追い込んで、私が自発的に渡さざるを得ない状況を作り出したんだから。

「……そうだね。通常であれば、強制的に相手から能力を奪う事は不可能だ。

 通常であれば、ね」

 なんか、含みのある言い方だなァ……

「……何か、方法があるんですね?」

 身体を朱鷺トキさんに向けて再度問うと、彼女は珍しく言いよどみ、言葉を選んでいたようだった。

「……ある。しかしそれは、山本ヤマモトさん、アンタにしか出来ない事だよ」


 そんな、先行き不安しかない意外な答えが返されてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る