第34話 俺とある意味戦争

 いま、危機に追い込まれてる俺です。あ、だからと言っても別に命の危険とかそういうわけじゃなくてただ単に好感度の問題というかなんというか。


 事の発端は最初のころバルーフの服を俺の服の中から見繕っていたという話を自慢げにバルーフが話したことだ。なに言ってんだこいつと思ったが、バルーフとファニーの会話にいきなりつっこみを入れるわけにもいかないし黙っていたら、ファニーが。


「ずるい! あたしもクロエさまの服着る!」


 と言い出して。ずるいも何もない、バルーフの服がなかったから仕方なく俺の服を貸してただけに過ぎないのだということ、女の子が気安く男の服を着たいとか言っちゃいけませんとかをできるだけオブラートに包んで話したところ。じゃあクロエさまが服を選んで! ということになった。


 俺のノーセンスな部分が暴露される機会を作ったバルーフをできるだけ睨みつければ。またしてもきょとんとした顔で首を傾げられたしまむらへと続く道中。怒ってんの、俺は! と言いたかったが、別にバルーフが完全に悪いわけでもないしで何も言えなかった。いや、睨みはしたけどね。それくらいは許してほしい。


 そんなこんなで危機的状況に追い込まれた俺だ。命の危険じゃない、好感度の問題な危機ってどんなだよって?


「クロエさま、こっちとこっち。どっちがいいと思う?」


 こんなだよ。

 右手にはアッシュグレイの軍服みたいなコートに黒いネクタイの縁と膝丈スカートの裾に黒いレースがあしらわれているもの、左手には折り返した袖が特徴的な長い襟とリボンでできた花でシャツの長い襟のところを止めているのが可愛らしいこちらも膝丈スカートの青と白いレースの服。かっこいい系と可愛い系どちらが似合うかと聞かれているのだと考えていいのか? この場合。


 そもそもこういう質問は基本的に避けるのがベストだと思うが、受けちゃったいま答えるしかない。


「場面、かな」

「場面?」

「戦いには右、普段は左……とか?」

「……~っ!! さっすがクロエさま! わかってる!」

「お、おれもわかってたぞ! なあクロエ、おれもわかってたよな!?」

「うんうん、バルーフのアドバイスもテレパシーで受けとった感じがしないでもないような気がする」

「結局どっちなんだ!?」


 感動したみたいに両方の服を抱きしめながら、目を潤ませる俺よりもだいぶ低い位置にあるファニーの頭を撫でる。わかってるんだろう、「戦い」この意味が。爺さんの、自分の家族を取り戻すための衣装として買っておけという俺の合図がわかったんだろう。


 それとなぜか知らないけど対抗するようにバルーフが声をあげた。同意を求めてくるそれにわざと面倒くさい、曖昧な返事をすれば思わずといった風につっこむ声が入った。ついでと言わんばかりに抱き着いてくる。……本当にスキンシップ増えたなあ!?


 ファニーが面倒なものを見る目でバルーフを見るその気持ちがわかってしまうが、それを隠してはいはいはなれてーとバルーフを柔らかく離す。その際頭を撫でることを忘れるべからず! これ忘れると後で面倒くさいことになるからな! 満足そうに離れていったバルーフに軽くため息をつく。


 そんなこんなでファニーの服選びを終え、次に雑貨を買おうという話になってしまむらを出て近くにあった雑貨屋を目指す。


 そこでもまた、一悶着あったというか。


 日用品の多さにファニーが目を輝かせたり、ボディーソープとコンディショナーの違いが分からないバルーフがファニーに。「ぼでーそーぷは泡立つやつ、こんでぃしょなーは泡立たないやつだ!」と自信満々の謎持論を展開させていて、それを止めて正しい説明をしたら冷たい目でファニーに見られて半泣きになりながら俺の後ろにバルーフが隠れたり。




 とりあえずファニーは今度東京の方のIKEAとかに連れてってやりたいと思った。なんかああいうおしゃれ系空間好きそう。似合うしね。ポプリとか買ってあげたら超喜びそう。

 あ、あとコストコとか行きたいな。うちの雑食系ドラゴンたちは肉が好きみたいだから、目を輝かせる様子が容易に想像できて。


 俺は生クリームたっぷり苺の果肉が甘酸っぱい季節のクレープを食べながら小さく笑うと、それを見た俺のと同じクレープを食べてながら幸せそうに顔を蕩かしていた2人が不思議そうに首を傾げたのを俺はただ、幸せな心地で見ていた。


 あ、夕飯の材料? あれはクール便で送ってもらうことにしたよ。ってか、あまりの量にお店側が申し出てくれたんだけどさ。

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