第15話 俺と腕輪
突然だが、我が屋敷の2階には5つの客間がある。これらは人が使用する目的ではなく、爺さんの《
それぞれが好きな色に絨毯を爺さんは揃えたらしく、は白はバルーフ、後の黄緑色と黄色とピンクと薄紫の絨毯が敷いてあったのを見たリフォーム店の人はそれと同じ絨毯で揃えてくれたらしい。赤がいたら戦隊物かよってツッコみたかったけど、あいにく廊下とかが赤だった。ちなみに俺の部屋は黒と白のタイルみたいな模様の絨毯。
で、本題として今日……というか午前中、俺とバルーフは別行動することになった。俺は俺の部屋を片付けに、バルーフはバルーフで昨日書斎の向かいの一室に押し込んでいたものをそれぞれの部屋に片づけに行った。といっても棚とかベッドとか収納スペース自体がないから、ただ配りに行っただけで朝食の時に午後から出かける旨を伝えたらわかったと頷いてその前にやっておくことがあるから言ってたからそれをやりに行ってるのかもしれないけど。
屋敷の中にいるのは確実だから、別に心配はしてないがここ数日側にいたバルーフがいなくなるとなんだか変な気持ちになる。寂しいに似たようななんか複雑な気持ちだった。それをふりきって部屋を片付けていれば片付くこと片付くこと。昨日もバルーフがいなければ数時間で片付いてたなと思わず遠い目になったよね。
バルーフを呼んで、昼食を食べて。
タクシーを呼ぶために電話してリュックサックに数点の財宝を詰めエントランスから出て鉄柵門のところに行けばなぜか鎖が閉まっていたが、俺が近寄ると勝手にほどけて錠前もがちゃんと落ちた。
え? なにこれこわいと内心戦慄している俺に構わず、バルーフは思い出したように声をかけてきた。同時に差し出されたのはまだ新しい木の香りのする中途半端な大きさの輪だった。
「クロエ、これを渡しておく」
「……なに? これ」
「帝王樹の枝から作った腕輪だ。魔法をいくつも込めておいたから強固な防御壁にもなるし、なにより声や姿の認識をずらすように細工しておいた。もちろんはめている者の手首の大きさになるようにしたから受け取ってくれ。今後はこれを媒介に魔法をかける」
「わかった、ありがと。……あんたの分は?」
「おれは自前の魔法があるからな。実はもう認識ずらしの魔法を使ってるんだが……やっぱり魂結びしてしまった相手には無効になるか」
苦笑いするバルーフを見ながら魔法ってすっごい便利だなーなんて気楽に思いながら腕輪を持つと一気に俺の手がすっぽり入るくらい大きくなりそのままはめればすうっと小さくなって外れないようになった。魔法ってすごいねと言いしげしげ腕輪を眺め改めて感心している俺に、バルーフは得意げに胸を張った。
そんなバルーフの服は、ぶかぶかの黒いジャージ一式だった。でもラインは銀糸になってたり胸のところに紋章みたいなマークが入っていたりとかっこいいものである。昔ワンサイズ下のものを買ってしまって、それを持ってきていたのを思い出してあげた次第だ。さすがに屋敷の外に行くのに部屋着というのは可哀想だと思ってあげた。
バルーフ曰く「動きやすいし昔にはなかったものだな! なにより戦いやすくていい!」と戦闘民族かな? みたいなこと言ってたけどその顔は嬉しそうだったので良しとする。靴は動きやすさを重視して、俺が予備でもってきていたシューズを履いている。だから動きやすさ重視とか戦いやすさ重視ってどこの戦闘民族かよ。本人がいいならいいけどさあ。
なんてしている間にタクシーが来た。遠目から見ただけでもわかるほどに強面の運転手で、遠く見えないの? ってくらいに身体を前のめりにさせて運転しているのを見て俺は自分の頬が引きつるのがわかった。どう考えてもタクシー乗ったらお通夜状態ですねわかりますな感じだった。
実際に乗ってみてもその通りで、バルーフが居心地悪そうにタクシー内で何回ももぞもぞしていた。20分後タクシーを降りた途端春空の下にふさわしい晴れやかな笑みに戻ったが。
で、だ。
まずの最優先事項は金である。
質屋を探そう、と言った俺にバルーフは爺さんが利用していた店を知ってると返してきた。爺さんがバルーフと一緒に来ていたなら15年前も話になるし、もしかしたら潰れているかもしれないが行ってみないよりましだろう。それに逆にものすごく繁盛していて大きな店になっているかもしれないし。
「こっちだ!!」
「バルーフ、ゆっくり。歩いてね」
治安がよさそうな田舎町で、どう見ても治安がよさそうではない方向にどんどん歩いていくバルーフに、なに爺さんヤのつく自由業な方々に売ってたの!? と思ったが違った。表通りからそれて裏通り、いまは光っていないネオンが眩しいだろうお色気系のお店が立ち並ぶ中に。埋もれるようにその店はあった。
質屋と右から左へと書いてある古い木の看板を掲げた店には誰も気がつかないかのように人々は通り過ぎていく。まるで見えていないみたいに。そして俺も最初は気付かなかったが、バルーフが立ち止まって見上げていたからわかったようなものだ。なんだか不思議な感覚のする質屋だった。一見、どこか茶屋にも見える時代外れの瓦屋根でいかにも目立つ外観なのに。
「バルーフ? ここって」
「ここは《
「え」
「しかも国には一切干渉を受けないから、安心して売ってくるといい」
「売ってくると良いって……バルーフはどこか行くの?」
「なに、店内でわかれるだけだ。おれは質流れ品を見てくる」
魔道具があったら覚えといて、ファーヴニルが帰ってきたら教えてやらんといけないからな! 笑顔で、俺がファーヴニルを取り戻すと微塵も疑っていない顔で。言い切ったバルーフに、俺は子どもみたいに頷いてその手触りの良い髪をなでることで応えたのだった。
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