第53話 俺と爆弾
「アンピトリテ、いらっしゃいな。一緒にお茶をしましょう」
「お久ぶりデスネ! エレノアサマ! ああん、あい変らずここのお水、おいしいネ! 帝王樹も元気モリモリ、歓喜の花咲かせてマス!」
なんか似非外国人っぽい女の人きたー!! 俺の内心は驚きからその一言に尽きた。喋り方に妙に色気がある女性で、女性と言ってもただの女性じゃない。
婆さんの呼びかけに瞬間的に答えるように沙庭の泉らしきところからスクリュー回転して水が竜巻のように回り、散り、その中でうねったウェーブの水色の髪に大胆に露出したマーメイドドレスを着て現れたのが。婆さんのお友達ことアンピトリテさんらしかった。
ってかこの花帝王樹の花なのか。もはや話に口をはさめず、真顔になりつつある俺を、婆さんが手のひらで示す。
「アンピトリテ、旦那様とわたくしの孫のクロエよ。お菓子をたくさん作ってくれたから、一緒に楽しみましょうとお誘いしたのだけど」
「本当デスカ!? お菓子、イッパイ!? 私、ケーキとっても好きネ! ケーキある!?」
「え……えっと、ケーキは一応7種類くらい用意してありますけど……」
「大好きデス!!」
婆さんに一礼して挨拶をしてから、俺にずずいと迫ってきたアンピトリテさんの質問に若干引き気味になりつつ答えれば、当然のように抱擁された。
あ、外国風に言うならハグ? とかどうでもいいことを考えながら、なんとか離してもらおうと苦戦しつつ。後ろの3人を振り返れば。
「クロエ……おれというものがありながら!!」
「いや、クロエさまなんにも悪くないしそもそもバルーフはクロエさまの相棒ってだけでしょ?」
「おとこでもおんなでもしっとはみぐるしいぞ、バルーフ」
バルーフが心底悔しそうな顔でみょうちきりんなことを口走っていた。こいつ変なこと言ってないで止めろよ。いくら女の人が好きでも人妻に手を出すほどリスキーなことしたくないんだよ!
というかこんな場面 《
とりあえず、そっと身体を離しながら。俺はアンピトリテさんに向かってにっこりと微笑んでみた。
「パイにタルト、ケーキにマカロン。スコーンやゼリーとかムースなんかを取り揃えてあるんですけど、よかったらご賞味ください」
「ごしょうみ?」
「美味しく食べていってね、ってことよ」
「ご賞味スルネ! 楽しミ楽しミ!」
婆さんの手をとって、嬉しそうに家の中に引っ込んでいくアンピトリテさんが俺の席に座った瞬間。俺は自分の今日の使命を知った。これは給仕に徹しろと、そういうことなのか!
家族のみんな……婆さん以外が心配そうに見る中、俺は1人ふっと笑った。OKOK、俺は悪いけど給仕もなかなかのもんだと自負してるよ! だてに喫茶店でアルバイトしてたわけじゃないし!! なんか喫茶店のあのレトロな雰囲気というかのんびりした空間というか、ああいうところ大好きなんだよね。閑話休題。
みんなをテーブルにつかせ、それぞれのティーカップに俺オリジナルのハーブティーを注ぐ。ミントを育てるところから始めて、この間間引きしたやつで作ったんだけど。なかなか美味しかったし今日のお菓子にも合うと思うんだよね。
まず、お客様であるアンピトリテさんから配り、次に婆さん、チャーリー、レオ、ファニーと最後にバルーフ。最後にまわされたのが気に入らなかったのか頬を膨らませたバルーフの頭を軽く撫でてやれば、すぐににっこにこになる。ちょろすぎる。これからはチョローフと呼んだ方がよくない? なんて馬鹿げたことを考えつつ。
後ろを振り向けば、アンピトリテさんが立っていた。……これにはびびった。だって足音も何にもないんだもん。まあわずかに宙に浮いてるから仕方ないんだけど。じゃないと水でできた身体だから床ってか絨毯が濡れちゃうし、仕方ないんだけどさ。驚くからやめてほしい。
引きつった笑みでどうかしたのかと尋ねれば、右手にぶらんと下げていた空のティースタンドを差し出してきた。その目はきらきらと輝いている。悟った。
はーい、おかわりはいりまーす。
かわりにこっちは死んだ眼で心の中で呟いた。もう食べきったの? わりと小さく切ったつもりだけど早すぎだわ! とつっこみたい気持ちをぐっと押さえてティースタンドを受け取り。そこに新たなお菓子を乗せるため厨房に下がった俺だった。
いそいそと桃缶から作ったピーチパイと、フルーツタルト、ベイクドチーズケーキとチョコチップスコーンと様々なフレーバーを乗せて。それから今度はグレープフルーツの香りのグレープフルーツティー(俺おすすめ)を持って再び食堂へと戻りアンピトリテさんの前にティースタンドを。きゃっきゃとはしゃぎながらお菓子を食べている家族たちの間をちょろちょろ動きながらグレープフルーツティーを淹れてまわり。
お茶会も中盤に差し掛かった頃、婆さんがアンピトリテさんに爆弾をぶち込んだ。
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