第48話 俺と俺たちの反逆

「貴様の屋敷をよこせ、片倉クロエ。そうすれば、Lexyレクシィの改造を取り除き返してやる」


 当然のように、俺が従って当たり前だとでもいうように言うから。ぷつんと頭の中でなにかが弾けた。


 決めた、絶対こいつにだけはあの屋敷は渡さない。


 自然と頭がうつむいて、さげた拳が勝手に震える。そんな俺を心配したかのように家族たちがそっと寄り添ってくるのを、手で制止ながら。俺はぎらぎらしているだろう怒りで燃え滾った目を総統長に向けた。こいつは、こいつはなんにもわかってない。


「……ざっけんな」

「なに」

「ふっざけんじゃないよ!! あんたらの身勝手な欲望のせいでうちの家族がどれだけ傷ついたかあんた知ってんのか!? 爺さんの死に目にも会えないで、どれだけ悔いてるか知ってるのかよ!! どれだけ振り回されて、爺さんも婆さんも、自分の意思すら奪われてた気持ちがわかんのかよああ!? そもそも《幻獣ファンタジー》は、道具なんかじゃないんだよ! 意思があって、話して分かり合える相手なんだ! そんな当然のことにも気づかないあんたごときに、《幻獣保護委員会ファンタジ・ル・エール》ごときに、なんで爺さんと家族と俺の思い出が詰まったあの屋敷をやらなきゃいけないわけ!? ほんっと、ありえないから!!」


 俺からの怒濤の罵倒に、顔をしかめる総統長、汗をかきつつハンカチで拭う総統長の横のおっさん。

 こんなガキからのそれに、顔を歪ませている総統長を見るだけで気分がいい。こいつは、人の家族を散々弄んでおきながら爺さんから、俺からまだ取り上げようとするんだ。だったら、これくらいの暴言許されるべきだ。


 むしろこれ、暴言か? 説教の域じゃねえ? そんなことを考えつつ、鋭い眼光の睨みにさらされてなお、俺たち家族全員で睨み返していると。唯一、総統長の後ろにあるドアが開きこれまた黒いローブを身に着けたがり勉メガネみたいな男が叫びながら入ってきた。


「総統長、大変です!!」

「今度はなんだ!」

「また《幻獣ファンタジー》アマビエが予言しました!! 片倉から屋敷を取り上げると、沙庭の泉も枯れ果てるだろうと!」

「なんだと!?」

「帝王樹だな、あれは《幻獣ファンタジー》オベロンが妻である《幻獣ファンタジー》ティータニアと喧嘩した際に暴れ回っている2人を敬一郎がなだめて、エレノアさまのお力で森を再生したから譲られたものだ。血筋であり、正当に相続したあの屋敷の正統なる持ち主にしか従わないから」

「だから、あのジャングルの中でも沙庭の泉を枯らさないように管理してくれてるってわけ?」

「ああ」


 こそっと教えてくれているつもりのバルーフには悪いが、この研究室よく声が響いてたぶん相手方にも今の話は伝わってしまっただろう。ぎょっと目を剥きこちらを見てくる3人。


 正当に相続した正統なる持ち主、つまり爺さんの《幻獣ファンタジー》を引き継いだ《幻獣憑きファンタジア》の俺にしか従わないのだろう。あの屋敷は。


 まあそれはともかく。みろよ今にも憤死しかねない表情の総統長を!! 笑える笑える、ざまあ味噌漬けってな! せせら笑ってみせれば、ぎりぎり歯噛みする音が聞こえそうで心底愉快。

 心底愉快だし、もうちょっとこの状況を楽しみたい。けど婆さんを取り戻したいのも間違いなく一番の本音だ。だから。

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