第28話 俺と魔力酔い

「バルーフ、オレアンタノカオミタカッタケドモヤガジャマデミエナイナー」

「クロエ! そんなにもおれのことを!」

「いや、どう聞いても棒読みだったじゃない。っていうかバルーフも中途半端にやめないの。魔法教えるためにやったんでしょ、続きあたしがしてもいいの?」

「や、やだ! だって、クロエがなかなか追いかけに来てくれなかったからいじわるをだな」

「これから追いかけようとしてたんだよ? クロエさま」

「そうだったのか!? すまないクロエ!」


 そんな理由かよ! 若干げんなりしたものの。この異常事態をどうにか解いてもらわないとならない、どうしようと途方に暮れる前に黒い靄がすぐさま動いて俺の手らしき白いラベンダー色の靄を握る。

 と、瞬きしたとたん、視界が元に戻った。呆気なく、あっさりと。口を開けている俺に、バルーフがばつが悪そうにすまない、ともう一度謝ってきた。


「……あー、すぐ追いかけなかった俺も悪いし別にいいよ。こっちこそごめんね。ところで、さっきの靄ってなんなの?」

「うう……優しい。……さっきの靄に似たものはおれたちでいう魔力、人間でいう霊力やオーラといったものだな」

「え、魔力と霊力が同じなのはわかってたけど、オーラも同じなの?」

「オーラは魔力や霊力の波長のことだからな、ほら『波長が合う人』とかいうだろう? それはつまり霊力の波があっている人間のことを言うんだ。おれの魔力で一時的にクロエも視えるように……えーと、誘導した? から今度からは自分の力で視れるはずだぞ。自分と同じ色の魔力を空気中に漂っているそれの中から取り込めばより強力な魔法が出来あがるんだ」

「なるほど。ってか、え……俺と同じ白っぽいラベンダー色の魔力なんてないんだけど」

「「え!?」」

「え!?」


 バルーフの言いたいことはわかった。これから俺に魔法を叩き込むための足掛かりとして魔法の基礎をいま教え込んだんだ。まあ、やるならやるって言ってほしかったけどね! 

 それはともかく、俺が視た靄の中は確かに色とりどりだったけど俺と同じ白っぽいラベンダー色の靄なんてなくてそれを自己申告すればファニーとバルーフが揃って声をあげた。というか、バルーフに至ってはものすごく青ざめていたりもする。


 どうしたんだろう? と首をかしげる俺に、2人とも頭を抱え込んだ。いや、比喩ではなく。実際に頭に両手を当ててどうしようかといわんばかりにうつむいたんだ。

 そのポーズしたいの俺だけどね! と思いつつ、とりあえず黙っていては説明もしてくれなさそうな雰囲気だったから近くに居たバルーフに尋ねる。


「なに? なんか問題でもあった?」

「も、問題しかないというか……。クロエ! 体調は!? 気分が悪かったりしないか!?」

「いや、全然。むしろバルーフの方こそ顔青いけど大丈夫?」

「あ、ああ、ならよかった。というか色々説明がついたというか……。お前におれの魔法が効かなかったのは、おれの魔法が弱いとか魂結びしたからとかじゃなくて。クロエの魔力が原因だったってことがわかった」

「……それだけ? だったら別に悩む必要ないんじゃ」

「そのね! その魔力は古代竜の白とラベンダードラゴンのラベンダー色、つまりこの世でただ1人エレノアさましか持ってない混色なの! それなのに別の魔力が流れ込んだりなんかしたらエレノアさま奪還までずっと魔力酔いだよ!?」

「魔力酔い?」

「自分の魔力に別の魔力が交じって具合が悪くなること! 比較的軽症ですむひともいるけど、白と黒じゃ属性正反対の聖と邪だからかなり重症で死にかけるかもなんだよ!?」


 なるほど、よくわかった。つまり、俺は無意識に死にかける可能性があったということか。

 近くに居るバルーフを、手を縦に振って呼び寄せる。

 バルーフは自分が死にそうな顔をしながらゆっくりと近づいてきて、俺の前で足を止めた。そして痛いものを我慢するみたいな顔をして目を閉じた。

 木の椅子から立ち上がったファニーが俺の後ろで、属性を視ることは普通失礼に値するから視ないんだよ!? とかだからバルーフは……その、あんまり悪くない! とか高い声で叫んでるのが聞こえたけどそんなのはどうでもよかった。完全に悪くないとは言い切れないのかよとは思ったけど。

 俺はおもむろに手をバルーフの頭よりも高く上げて。その時点で見ていられないとでもいうようにファニーは両手で目を覆っていた。バルーフの頭めがけておろした。

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