第27話 俺と魔力視認

「ってな感じの会話がされてると思うわけよ、俺としては」

「つまり、いまエレノアさまを奪還してしまうと他の2人の奪還が困難になるってこと?」

「そうゆうこと。ってかそもそもな話、婆さんは奪還自体できるかどうかわからないほどに守りを固められてると思うんだ」

「だからこそ、レオナルドとチャーリーを先に取り戻してこっちの戦力を高めようってことか!」


 次の日、食堂にて。それぞれの定位置と決めた場所に座りながら、1を言えば10を理解するとまではいかないものの、言いたいことを理解して反応を示してくれる2人に向かって頷く。打てば響くという具合の返事にほっとする。

 もし、もし仮に俺が敵……《幻獣保護委員会ファンタジ・ル・エール》だとかいうやつらだとして。ファーヴニル……ファニーを取り返した俺をそれなりの強者と見るのではないか。そして、当然ファニーから婆さんのひどい状態については絶対に情報が洩れる。だからこそ、普通は血のつながった婆さんを優先して助けると思う。


 それの裏をかいて、他の2人を同時に助け出す。まあ15年間も国と渡り合ってきた爺さんが死んだことで万歳あげてたら、今度は1年も動かなかった孫の俺が立ち上がったことを知らずに油断していて。ファニーを奪われたあちらさんはかなり焦っているだろうし、たぶんだけど他の2人の守りも固めてくる。しかしきっと婆さんほどではないだろう。と、いうことで比較的守りの薄い2人を同時……というかわずかな時間差で攻めることによって守りを緩める作戦だ。できたらそれに便乗して婆さんも助けられたらいいんだけど。


 ただ1つ問題がある。それは圧倒的にこちらの戦力が足りないというところ。千の魔法を操るバルーフに敵を黄金に変えることができるファニー、そして超一般人の俺。え、なに趣味はお菓子作りですけど。まさか菓子携えて桃太郎なことできるはずないしそもそも敵さんが許してくれないだろ。っつーか! 超一般人なこの俺を戦力として数えるのがおかしいと叫びたい!! とか思っていたら、問題はあっさり解決した。


「クロエ、おれが魔法で分身体を作り出してファニーとクロエにそれぞれつけばいいんじゃないか?」

「あんた天才かよ。じゃなくて、分身体とか作れんの!? その分魔法の精度が落ちたりしない?」

「天才じゃなくてってどういう意味だ!?」

「いまは精度の話が大事!」

「安心して、クロエさま。バルーフはちょっとあれだけど作戦が頓挫する可能性のあるものなんて提案しないわ。戦争の時に10体に分身してたのを見たことがあるの。身体の大きさは小さくなるけど魔法の精度は落ちてなかったよ」

「2人してひどい……おれがそんなアホに見えるのか!?」

「「……」」

「無言で目をそらさないでくれ!!」


 そっと目をそらした俺とファニーに、もういい、おれは拗ねたぞ! と宣言してからバルーフはおもむろに椅子から立ち上がって。食堂からひらひらと尻尾のような、巻いてもなお長い髪を揺らしながらばたんと扉を閉めて出て行ってしまった。そのあいだぽかーんとしてたのは俺だ。


 だって、バルーフがあんなふうに拗ねることなんていままでというか2人きりの時はなかったからどうしよう、追いかけた方がいいの!? なんて言って謝ろう、え、どうしよう! とおろおろしてるとファニーがテーブルに片肘をついてその上に小さな顔を乗せながら大きくため息をついた。

 そして、俺にだけ聞こえるような小さな声で囁く。


「いいの、クロエさま。あれ、構ってほしい時にやるバルーフの手だから」

「え、でもいままでこんなこと」

「そりゃあ2人でいれば嫌でも構ってもらえるもの」


 大丈夫、2~3分で戻ってくるから。でもさすがに可哀想だから扉の近くに居て、で「いま探しに行こうとした」って言ってあげて。

 確かにファニーが来て2日目、2人の時より構ってあげてないかもしれないと思ったが。ファニーが1人増えただけでこのありようなら家族全員そろった時はどうなるんだろうと少し不安に思わないでもない。

 でもまあ。いまが構ってあげられる絶頂期かなあと思って、おれは立ち上がり扉の前にゆっくり歩いていく。ちょうど扉の前につくころ、ゆっくりと薄く扉が開いて黄色い目とばっちり合う。家政婦は見たかよと内心は思いつつ柔らかく笑ってみせれば、黄色い目が見開いて三日月形になる。


 さらにちょっとずつ扉を開けて顔をのぞかせたバルーフが顔をのぞかせる。その頭を撫でてやれば、途端にふにゃふにゃ笑って食堂の中に入ってきた。その時なにか口を動かした気がしたような気がする。嬉しそうに俺の手をとり握ったり緩めたりしてくるんだけど。こいつこんなにスキンシップ多かったっけ? 心の中で首をかしげる。

 それになんか手からあたたかいが伝わってくる気がするものの、まあいいかと思ったが。そうは問屋が許さないとばかりにあたりの景色が急にかすんで靄だらけになる。ファニーが座っているらしきところは黄色の靄、バルーフは黒、自分の腕を見れば俺は白っぽいラベンダー色に。

 そのほかにもあたりは青やピンクや赤の靄が宙に漂っている。家の中の惨状に呆然としていれば後ろから呆れたような声がかかる。


「バルーフ、いくらクロエさまの力がもれだしてるからって魔法使って自分の魔力を練り込もうとしないの」

「だって。クロエはまだ魔力も見えていないんだぞ? だから」

「ちょっと待って、なんの話? このいろんな色の靄みたいのと何か関係あるの!?」

「なんだ、もう見えるようになったのか……」


 名残惜しげに離されたバルーフの手はいいとして、色とりどりの靄……その中でも圧倒的に黒が多いためまったく周りが見えない。え、これじゃおちおち家の中も歩けないんですけど。この靄どうすんの!? 一寸先どころじゃない、1ミリ先もみえない。

 ってかバルーフもなにかするんだったらするって言ってくれないと困るんだけど! 内心叫びながらこの惨状をもたらしたバルーフらしき黒い靄に向かって言う。

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