第11話 俺と真名契約の代償

 こいつ、思ったよりそっちの世界とこの家に詳しそうだぞ!? と俺は驚いた。だってふわふわしてる天然っぽい、バルーフだぞ? 15年間も《幻想庭ガーデン》に閉じ込められてたやつがこんなに詳しいとか思わないだろ!? っていうか。


「バルーフ、あんたさ千の魔法が使えるなら出てくるときに気配消すようなやつ使わなかったの? ってか使えないの?」

「……」

「……さては、金平糖に夢中で忘れてたんだろ」

「だって、金平糖が! 久しぶりの金平糖が!!」

「うるさいわ、おまぬけさんめ!」


 無言でそそそと目をらしたバルーフの額に、軽くでこピンする。だって、爺さんはともかく俺は家族である《幻獣ファンタジー》を取り戻すのに《幻獣ファンタジー》の力を借りるつもりだ。なのに、できれば奥の手、最強の手札として持っておきたかったカードが敵に知られてるってどういうことだよ。しかも理由が金平糖。

 そのことに頭が痛くなったような気がして、抱え込んであーだのうーだの唸っていれば。

 でこピンされたバルーフは、衝撃の走った顔で俺の指にはねられた額に手を当てて俺を呆然と見ていたが。自分に注目しない俺にしょんと肩を落とすと呟いた。


「敬一郎はおれたちに暴力なんてふるわなかったのに……」

「あれが暴力なら世界中は暴力に満ち溢れてるわ。さっきのは親しいもの間で行われる軽いお仕置きみたいなもんだし」

「し、親しい……!!」


 なにに感動したのか、嬉しかったのかぱあああとおでこを押さえつつも顔を輝かせたバルーフ。

 嬉しそうに親しい親しいと弾んだ口調で続けているバルーフに、俺は呆れたように告げる。


「別に今さらじゃない? だって俺、あんたと名前が真名の時にえっと、主従契約? したんだからさ」

「……!! あ……あ」

「どうかしたの? バルーフ」

「いけない! 主従契約の解除をしなければ!」

「はあっ!?」

「お……おれは出来ないんだが」

「なんだ、びっくりした」


 いきなりの解除宣言に呑みこもうとしていた水を噴き出しそうになった。一転してひどく青ざめたバルーフがいうには。というか、喋ってんだけどしどろもどろすぎてよくわかんなかったから、まとめると。つまりはこういうことらしい。

 ・真名の契約は魂の契約(どちらか片方でも)

 ・契約には【主の生がついえる】までとあったが、実際には魂の大きさで言えばドラゴンのほうが圧倒的に大きい

 ・さらには大きい魂に小さい魂は引きづられやすい

 ・だから爺さんは長生きだった(たぶん身体が動かなくなったという15年前に人の寿命で1度死んだんじゃないとのこと)

 ・で、魂の契約を交わしてしまい、現在の俺は魂結びという形で親兄妹夫婦よりも強い楔でバルーフの魂と結びついている

 ・故に、身体に影響がかからない程度の軽い魔法や寿命なんかもほぼバルーフと同じくらいに使えるし長い

 ということらしかった。というか別に。


「解除することなくない?」

「え?」

「なに、俺今すぐに死ぬの?」

「そんなわけないだろう!? おれと魂結びをしたんだから、あと800年くらい寿命が……。本当に、本当にすまない。人外と契約したものは人の輪廻から外れ、ただ魂は消滅するのみだ。本当になんと詫びたらいいか、すまない!!」


 俺の能天気な発言にバルーフが勢いよく怒鳴る。それの顔は真剣そのもので、それを茶化そうなんて思わなかったが、どうやら俺とこいつの思考は違うらしいということを知る。

 唐突にがばっと下がった頭がわずかに震えているのを見て悟る。例えばいま、俺がどんな罵りや謗りをしてもバルーフは受け止めるだろう。それくらいにこの問題はバルーフにとって大きいらしかった。いや、俺もそれなりに重要案件だと思ってるよ? けど、けどさあ。

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