第20話 俺とファニー2
「甘いですね、アジ・ダハーカ」
「あ……右に来いクロエ!!」
「っ!!」
もう1本回転しながら回って迫ってくる金色の手すりに、バルーフが叫ぶのがやけにゆっくりに聞こえた。たぶん、バルーフが最初に投げた金色の柵を消している途中に投げたんだろう。バルーフの声に従って右に飛び退くも。ファーヴニルの作った歪な指輪と爺さんの骨ダイヤのペンダントトップとを繋いでいた、長めに作ってあった鎖が鋭利な柵の先端に引っかかり切れたことで地に落ちる。
かつーん、と小さな音がした。それを拾おうと手を伸ばした俺だったが、より早くバルーフが俺の身体を抱き寄せて細い体のどこにそんな力あったのと言いたくなるくらい力強く引っ張り後ろに瞬間移動のようなもので転移する。
転移する前の俺に向かって、また肉薄しようとしたのかペンダントトップと指輪を右足もとにファーヴニルが構えていた腕を解き立っていた。
「爺さん!!」
「クロエ、いまは生き残ることを考えろ!」
離せ! と叫ぶ俺に、バルーフは叫び返す。そんな俺たちのやり取りを見ていたファーヴニルは、そのペンダントトップがいかに大事なものか悟ってしまったらしい。無表情のままメイド服の裾をつまみあげると、右足をあげ踏みつけようとした。
「おや、これはそれほどに大事なものでしたか。では……破壊させて……いた……だ、き」
「やめろ、ファニー!! それは、敬一郎の、お前の真の主の骨だ! それに、指輪は敬一郎が大事にしていたお前が作ったものだろう!?」
「なにをしておるか、ニル! とっととそのガラクタを片付けて片倉クロエを、片倉敬一郎の孫を殺せ!!」
「ま……ご。かたくら、けいいち、ろう。この、匂いは。この、指輪は……あ……あ……あああああああああああ!!」
が。ペンダントトップを見て、また、自らが作った指輪を見て。顔色が変わる。ただでさえ白い肌がだんだんと青くなり、次に紙よりも白くなって。虚ろな目に緩慢にハイライトが戻る。
離れた後ろでフードの老婆が杖を振り上げ金切り声で叫んでいるにもかかわらず、頭痛に耐えるように頭を抱えて糸の切れた人形みたいにがくんと膝をついて蹲り絶叫する。
フードの老婆が杖を使って大股で歩き、ファーヴニルのすぐ後ろまで来ると曲がった腰を少し伸ばして大きく杖を振り上げる。その動作で、杖でファーヴニルを叩くつもりだと理解した俺はバルーフのほうをみて強めに呼ぶ。守れと、バルーフならそれだけでわかるはずだから。
「バルーフ!!」
「ああ! わか……え?」
「え?」
え? とファーヴニルの方を見て言葉を発したバルーフに、俺もそちらを見ると。老婆の首がなく、身体から血の噴水が上がっていた。からんからんとやけに乾いた音で杖が地面に落ちる。
ファーヴニルの手にはいつの間に作りだしたのか金色のナイフがありそれにべっとりと血がついていた。それを振るったのだろう手は横に伸ばされ、やがてナイフを手放し力なくだらりと下がる。
身体が崩れ落ちるのと同時くらいに川の中になにか重いものが落ちた音がしたが、そんなことはどうでもいい。
まるでスプラッタ映画を見ているような感覚。どこか現実感がなく、ゆっくりと全てが動いているかのような感覚に俺はぼんやりとしていることしかできなかった。しかし、他ならぬファーヴニルの声が俺を現実へと引き戻した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます