第32話 俺と着替え
結局、ファニーが出てきたのはそれから数十秒経ってからだった。着替えるの早過ぎね? と思ったけどワンピースだったから、早かったのかな? ワンピース着たことないしこれからも着る予定がないからわからないけど。女の子の着替えってもっと時間がかかるものだと思ってたわ。
いまのファニーの格好は、赤い生地に黒で描かれたチェックに裾に白いフリルが幾重にも重なってついていてその胸元には白いレースが数本垂れているがそれも縁がビーズで刺繍してある。襟はなく、肩が出ていて寒そう。一応長袖ではあるものの、足はニーハイソックス? とかいうものを履いてるものの。
どう見ても寒そうな格好でできたファニーに聞くとドラゴンは耐熱耐寒特性を持っているらしい。寒さなんて感じないらしいし、実際寒さ? なんのことですか? みたいな顔をしているが、いまは春だ。ファニーはよくても町の人たちは驚くだろ。
午後は風が冷たいしもうちょっと厚着した方がいいよというと、黒い無地のパーカーを羽織って出てきたから、さてはこいつセンスいいなとか思った。でもよく考えたら当然で、センス良くなきゃあんなにすごい財宝なんて作れないよね!
女の子……しかも家族がせっかくおしゃれしてるのに褒めないのもなんだから。一応ない語彙力を絞り出してキモくなりすぎないくらいに褒めようとして、でてきた言葉が。
「似合ってるよ」
「クロエさまっ! ありがと!」
「むむっ、おれの時は褒めてくれなかったのになぜファニーは褒めるんだ!」
なんか予想外にめんどくさいのが釣れてしまった時はどうしようかと思ったが、ファニーが「きっとクロエさまはバルーフに見とれてたんだよ」ととりなしてくれてほっとした。いや見とれてはいないんだけど。
きらきら輝かせた目で本当か! と問い詰めてくるバルーフに、頬を引きつらせながらう、うーんと頷けば(?)嬉しそうな満点の笑みをもらったのは予想外だった。美人って怖い。
ってことでタクシー呼ぼうと思ったら、バルーフが町まで瞬間移動できるぞ! と自慢げに胸を張って自己申告してきた。
今日のバルーフの格好はレディース用のデニムに白いシャツ、俺のベストと短いブーツ。ブーツを履いてみたときの最初の感想が「クロエ、これは蹴りに向いている靴だな!」だった。だから戦闘民族かよ! と静かになってしまったしまむらの靴コーナーで頭を抱える思いだったことは絶対に忘れない。
俺? 俺は白いシャツに黒のパーカーと黒いスラックスに運動靴。靴下ももちろん履いてるけどね!
それはともかく。そんな便利なものがあるなら最初から申告しとけよとか思ったけど、これ、きちんとイメージできる場所でないとだめらしい。つまり前回は、バルーフは15年の間にこの町がどう変わって店が現在もあるかどうかもわかってなかった。しかも15年も前のことをきちんとイメージしろというほうが難しく、一度行ってみる必要があったらしい。
まあ今回からは任せろ! と胸を張っているわけだし、その自信に応えて今回は任せることにした。とはいっても、ファニーに襲撃された際に瞬間移動で戻ってきてるんだからそんなに疑ってないけど。
だからと言って突然町の中に現れて大騒ぎになっても困るんだけどねー。暗にそんなことを伝えれば、じゃあ質屋の店の中に転移する! と返ってきた。でも今度はそうすると手ぶらではいけないわけで。
さっそく地下からファニーが見繕った財宝を数点バルーフが収納する魔法で収納してくれた。だってファニーが選んだのって金色の壺とかあの金の玉座とか金色の王冠とかちょっと持っていくに困るような大きなものばっかりだったから。
バルーフとファニーの会話を聞く限り、大きくて邪魔だったかららしい。作った本人が邪魔って……とは考えたものの、お金はいくらあっても困らないしで結局そのまま行くことにした。
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