第33話 俺と換金

「五千二百六十九万円です」

「……マジですか」

「マジです。金額が大きくなるので少し待っていただくことになりますが……、ああ、ほんの10分ほどお時間いただきますね」

「どうぞ」


 突然瞬間移動してきた俺たちを、特に驚いた様子もなく店の中は相変わらず静かだった。どこかまどろんだような雰囲気の中であのファニーの財宝を買取してくれた店員がゆったりと歩きながら近づいてくるのを見て、いや走れよと思ったけどなにも言わなかった。普通言えないから!


 買取ですか? と聞かれて即座にバルーフが台の上にはのせきらないんだが、といえば別室に通されてソファーに座るのを勧められた。俺が真ん中に座ると右にファニー、左にバルーフが俺を守るように座って。


 その時、店員が意味ありげにファニーを見たのが気になったけどまあ、気にしない。なにかあったら言うだろうし。それよりも持ってきた財宝を見たときの店員の顔の方が見物だった。あんぐりと口を開け、ファニーと財宝を交互に見ていた。


 それから。あわてて懐から電卓を取り出して財宝を見ながらぱちぱち打って、最終的に出した値段が五千二百六十九万円だ。俺は目玉がとび出そうになったが、ファニーは当然とばかりに胸を張ってるし隣でなぜかそわそわしているバルーフがいるし。これが当然の価格なのか……と若干遠い目になりつつ己をなんとか納得させた俺だった。


 店員が退室した後もそわそわしてるバルーフが気になる。なんなの? 視線をやれば待ってましたとばかりに俺の腕に自分の腕を絡みつかせて目を輝かせた。


「やったな、クロエ! これでくれえぷが食べられるぞ!」

「いや、クレープってそんな高いもんじゃないし」

「クロエさま、くれえぷってなに?」

「なんかフランスのガレットが元になったお菓子だってのは聞いたことあるよ。もちもちの薄い生地に生クリームとか果物とか入れたり、惣菜系だとツナコーンとかいろいろある。……買い物帰りに食べていこうか」

「ああ!」

「うん!」


 それぞれ、ゆりとひまわりを背負ったようなそれこそ花開く笑みで笑ったファニーとバルーフに俺もなんとなくうれしくなって笑ったら、2人はきょとんとした後なぜだか知らないけど妙にくすぐったそうに笑ったのだった。

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