第30話 俺と昼飯

 結局、その日の午前中はあれやそれやで潰れて。午後から日用品や食材を買いに町まで買いに行くことにお昼ご飯を食べながら決まった。……いや、はたしてあれは決まったというのか。


 お昼はマフィン用のバンズを使い一度焼かれていてほぼ温めるために焼くという変わったパテとケチャップ、レタスと輪切りにしたトマトを乗せてもう片方のバンズで閉じる。あ、お好みでミートソース入れるのもありだけど今日は面倒だからやらなかった。

 それに菜種油で揚げた俺好みの厚切りフライドポテトとコーラやカルピス、オレンジジュースといっためちゃくちゃ近代的というよりは欧米よりな昼食ができあがった。なんかジャンクフードが食べたい気分だったと調理担当(俺)は申しており……っていうことで、面白かったのがコーラを味見した時のバルーフの反応だ。


 ぺろりと二又に割れた舌の先端をコップの縁につけた途端、目を見開き固まったかと思うと目にもとまらぬ速さで俺とファニーの前に現れすぐさま書斎へと瞬間移動した。なにごとかと思って、目を白黒させる俺たちに、声を潜ませながら片手を口の横に添えて。ってか帝王樹が守ってるって自分で言ってたじゃん、俺とファニー以外誰にも聞こえないでしょ。


「クロエ、大変だ。あの黒い気泡のあがった飲み物は毒物に違いない。薬草ににた臭いといいいまでも舌がぴりぴりすることといい。しびれ薬が入っていたんじゃないか?」

「しびれ薬!? なんで! 《幻獣保護委員会ファンタジ・ル・エール》はここには入れないはずじゃっ」

「おれの見立てではクロエが利用しているこーぷとやらが怪しい。あれもそれから届いたものだろう? もしかしたら《幻獣保護委員会ファンタジ・ル・エール》が関与しているのかも」

「大変! いままでの食事は大丈夫だったの!?」

「もうやめて、おれのふっきんがしぬ」

「さっきの毒か!」

「お前らの会話だ、このおもしろ《幻獣ファンタジー》たちめ」


 大笑いしようにも本人(本獣?)たちは至って真剣に顔を突き合わせて言っているのが見て取れたから、笑うのも失礼かと思って必死に口の中を噛みながら我慢してたというのに。おかげで血が出そうだったっての。特にバルーフ、お前は全国のコープ関係者の皆様に謝れ。


 釈然としない顔でこっちを見ている2人には悪いが腹筋が引きつるのを感じながら一度、涙が出るほど大笑いした。その後怒濤の勢いで心配してるのになにがおかしいのかと怒られたが。


 コーラは炭酸飲料っていって炭酸を含んだ飲み物なんだよなんて当たり前のことを説明すれば今度はたんさんってなんだ? という質問が飛んでくる。

 やめて、俺もそこまでは詳しく知らないっての! だから、さっきバルーフが感じたしゅわしゅわしたやつのことだよって答えといたら一応納得してくれた。それでいいのか。


「とりあえず、バルーフが感じたのは別に毒じゃなくて元々ああいう飲み物だってこと」

「……本当か? クロエはあんな薬くさいようなものが好きなのか?」

「好きっていうか……たまに飲みたくなる? 毎日はさすがにちょっと困るけどさ」

「まあクロエさまの好みにどうこう言っても仕方ないよ、あたしたちだって好き嫌いくらいあるし。バルーフだって白身の魚あまり好きじゃないでしょ。それより早くはんばーがー? 食べようよ。あたしオレンジジュースがいいな」

「お、おれはこの前飲んだかるぴすがいい! こーらはやだ!」

「いや、別にコーラ強制しようとはしてないから。オレンジジュースとカルピスね、わかった用意するから食堂に戻ろうか」


 そうか、バルーフは白身の魚が嫌いなのか。よし、今日はさわらか桜鯛で何か作ろうなんて考えてないよ。だって桜鯛なんかないし、買い物行かなきゃ。そんな鬼畜なこと、俺しないって、たぶん。


 そういえば好き嫌いくらいは把握しておいた方がいいよな、食べ物は特に。なんて考えながら食堂に歩きながら戻って、元々は客用で買ったたんぽぽの絵柄が書かれたコップとゆりの絵柄が書かれたコップをファニーとバルーフは愛用している。それらを持って食堂と直接つながっている厨房へと向かう。

 他にも、一応金平糖にあわせて桜の絵柄と牡丹の絵柄、ラベンダーの絵柄のコップがある。いやあ、ラベンダー柄を見つけるのが大変だったのなんのって話はいいとして。


 巨大な元々備え付けの業務用冷蔵庫(中身結構すかすか)ゆりのコップにカルピスの原液を注ぎ2人とも冷たいのがいいというから氷を入れてミネラルウォーターで薄めてファニーに渡すと今度はバルーフに渡されバルーフが魔法で自分の席の長テーブルの上に転移させる。なにこの反則すぎるバケツリレーは! とか思いながら俺はたんぽぽのコップにも氷とオレンジジュースを入れてファニーに渡す。


 やっぱり反則バケツリレーでファニーの席の前、白いテーブルクロスの上に転移されたそれに1つ小さくため息をつくと。それぞれ席について。


「いただきます」

「「いただきます!!」」


 一応フライドポテト用に銀色のフォークをつけておいたけど、それを一切使わずポテトもハンバーガーも詰め込むように口の中に入れている2人に。ハムスターかってくらいな詰め込み具合に俺は思わず苦笑したのだった。


「ハンバーガー食べながらでいいから聞いてくれる? 午後なにしたい? あ、いい、いい。こっちで質問するからそれに頷くなり首振るなりしてくれればいいから!」


 俺の言葉に反応を返そうと口の中にハンバーガーとポテトを詰め込んだ状態で口を開こうとしたバルーフと一応口の前に両手をかざして中が見えないようにしながらも同じく答えようとしたファニーにこっちで質問するから! と俺はあわてた。これで喉でも詰まらせて窒息なんてそんな間抜けな死に方は嫌だろう、いや、見ている俺も嫌だけど。


 とりあえずこっちに注目してくれたのを確認してから俺は、まず1つ目と人差し指をたてる。


「今日は一日家で何かしてる」


 2人とも首を横にふる。そうかー、家で何かするのは嫌か。ううん、なかなか居心地のいい家を目指してたつもりだったんだけどなんかショック。内心落ち込みながらも次に2つ目と中指をたてる。


「切実な話なんだけど、今日の夕飯の材料が足りないんだよね。……町に出かけて日用品とか色々みる」


 2人の目が輝いた。首を縦に振るまでもなくこれで決まりだなって悟った。

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