第46話 俺と緊急会議

「じゃあ次にアサラ民族の大予言、日本沈没について知ってるひとー」

「オレさま、しってるぞ!」

「はい、じゃあレオ。よろしくお願いします」

「まかせろ! あさらみんぞくのだいよげんでよまれてるにほんちんぼつは、《幻獣ファンタジー》トリトンからはじまるんだ。トリトンがちんぼつせんのなかにかくしておいたほらがいをうばったにんげんにてんちゅうをと、にほんごとしずめてほらがいをとりもどそうとしたからおこるんだ」

「奪い返すのスケールでかすぎぃ!! もっと早く海の中でとりかえせよ! っていうかそもそもな話人間の自業自得じゃん!!」


 ふふんと言わんばかりに胸を張って教えてくれたレオには悪かったが、どうしてもそう思わずにはいられない。海の中で取り返して、その人だけに罰を与えるために溺死とかさせてくれたならこっちは全く困らないのに。


 溺死する人に失礼? はあ? そんなん強欲な上司をもって、なおかつ実行しちゃった自分を恨め。正義はどこにあるのか? そんなん家族の前には唾棄すべきもの以外の何ものでもないし。

 俺の心からの叫びに、目をまん丸くしてから。レオは首を傾げた。


「だがトリトンのほらがいはみずをあやつるちからのあるものだ、ごうよくなにんげんはなんとしてでもほしがるだろ?」

「でも法螺貝さえ守ればいいんでしょ? 早く探し出してその界隈に人間を近づけさせないようにすれば……」

「そげなこと実行可能なぁ密漁なんて起こらんちぃ」

「じゃあトリトンさん? に頼んで首謀者と実行犯簀巻きにして海に叩き込んで気をすませてもらうってのは?」

「凶暴と名高い水そのものの《幻獣ファンタジー》に誰が頼むんじゃいの?」


 俺の名案をことごとく潰していくチャーリーにだったらあんたも何かいい案だせよ! と思ったが、確かに言ってることは間違ってないからぐうの音も出ない。


 ティッシュで口元を拭いて、ふと。思い出したようにチャーリーはせや……と口ごもってから首を振った。


「え? なに、名案?」

「いや、これは男同士ゆうてからに女の前じゃちいっとのう」

「はあ? なに言ってんの!? エレノアさまを取り戻すためなんだよ? 男とか女とか関係なくない!?」

「おんなさべつ、だんこはんたいだぞ!!」

「そうだそうだ! チャーリーひどい!」

「おんしは男やろが、バルーフ! ……わあったわあった、言っちゃるや、よう聞き! 渡り歩いとったときに聞いた情報やんなけど。やつな……母親がめっちゃ好きなんや」

「「「「は?」」」」

「いや、あれはもう手に負えんとこまできとると」


 母親が好き……マザコン? え、トリトンってディズニーでいうアリエルの父親だよね? めっちゃごつくなかった? 筋肉もりもりじゃなかった? それが。


 え? マザコン? ってかそんな情報よこされても俺にどうしろっての? それは他の家族たちも同様だったのか、だからなに? みたいな顔してる。そうだよね、こいつの情報が正しくても使いどころがわかんなくちゃ意味ないよね!? そもそもそんな話聞きたくなかった。


 俺たちが自分の話の意図をくんでないのを悟ると、チャーリーはがしがし頭をかきながら。


「つまりっちゃあな。母親をこっちの味方につけとけば大丈夫っちゅうことや。母親の《幻獣ファンタジー》アンピトリテは温厚な性格で有名しい。好物もわかっとる、これ以上の策は見出せんで」

「いやでも、母親に言われたからって……」

「あいつは母親に言われたからっちゅう理由で全能神ゼウスに逆らった男や?」

「「「「……」」」」


 ま、マッチョメーン!! 母親が好きだからってそこまでする!? 意味わからん! ゼウスってあれじゃん、絶対的な神さまじゃん! いや、マッチョメンは想像なんだけど。

 っていうか。


「母親のあー……あ? 安否砦さん?」

「アンピトリテやで」

「そうそう、アンピトリテさんの好物ってなんなの?」

「美味い菓子と清い水や。幸いここの庭には地上で最も清いといわれちょる「沙庭さにわの泉」があるけいの、勝ち目は大いにあるで」

「え、あのジャングルの中に?」


 俺が指さしたのは食堂の窓から見える草木がぼうぼうの庭。というか生えすぎてて草が窓にびっしりひっついている。くるっぽーとどこかで鳩が鳴いた気がした。


 頭痛そうに抱えているのはチャーリーだけじゃない、ファニーやバルーフまでもだった。泉、枯れてないよね? 

 ちょっと不安になりつつチャーリーに尋ねると、帝王樹がうまく泉をあやつってるだろうが大丈夫だとの返事が戻ってきた。

 ちょっと安心だけど、そうかー、泉を汚さないようにして庭整えんのかと思うと若干気の遠くなる思いだった。


 とりあえず、泉のことは置いといて。


「そういえば、俺の肩の傷。バルーフが治してくれたの? ありがとねー」

「いや、おれじゃないぞ。家に戻ってきた時にはもう塞がってた」

「え」

「エレノアさまの能力は無機物有機物に限らない超再生だった。エレノアさまはそれを他のものにもかけられたが、たぶんクロエは無意識のうちに自分に使ったんじゃないか?」


 驚き。俺もまさかのドラゴンの力が使えた件について。まじで? 超再生とかすごい力じゃん。病気だって治せちゃうどころか自分に使えば細胞の分裂すら止められる。つまり見かけだってこのままでいられるってことに……俺には持て余しそうな能力に、たらりと冷や汗がたれたが。とりあえずは気にしてないふりをして。


 今日の予定を発表しようと思います、と言うとみんな俺の方を見てくれた。1人1人と目線をあわせて小さく頷くと、俺は口を開いた。


「今日は婆さんの奪還をしに行きまーす」

「「えええええええええええ!?」」

「きさま、それはほんとうか!? えれのあさまをたすけられるのか!?」

「あー、やっぱりかのえ?」

「あのね、あんたたちがめっちゃ強いのわかるよ。でもね、俺はめっちゃ弱いの。あんたたちに踏まれただけで死んじゃうの。雑魚中の雑魚なの、わかる? そんな俺が唯一勝てる方法って言ったら奇襲作戦しかないでしょ? しかも昨日の件でかなりばたばたしてると思うんだ。あちらさんは。だからいまが絶賛チャンス!」


 テンションを無理やり上げて元気よく言えば、驚いたまま顔を輝かせたバルーフとファニー、レオ。チャーリーはどこか悩んでいる気に眉根を寄せている。わかってる、奇襲ってのはもっと早い時間に始めなくちゃいけないとか色々言いたいことはあるんだろう。でも、やりたいことをやってから後悔したいんだ、俺は。


 ってことで。

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