第45話 俺と疑問と

 なにか、温かい夢を見た気がした。大事なひとが何人もいて、たくさん色んなことを話して。大きく笑い声を上げながらリビングでお茶を飲みながら、日差しの中で楽しく大騒ぎしている夢を。


 幸福感に満たされて、ゆっくり目を開け首だけで横を見ると。開け放たれたカーテンの日差しに照らされてバルーフがいた。ファニーも、反対側を見ればレオナルドも、チャーリーも。みんなが俺のことを抱きしめたまま眠っていた。血が通った、温かい腕に。安心しきったような寝顔たちに囲まれて。俺はいた。生まれ変わったみたいな新鮮な朝にその幸せな朝の光景に、涙が一滴。こぼれたのは内緒だ。


 かといって、ずっとこうもしてられない。家族全員が揃った時ならともかく、いまは婆さんを助け出すこと最優先にしなければいけないし。幸せな時間って長くは続かないもんだね。

 ということで。


「みんなー、起きろー」


 とりあえずまずは朝食食べなきゃでしょ。




 まずはホットプレートを出して、薄くバターを塗る。

 メレンゲはふわふわながらも固めに、その中に卵黄、牛乳、薄力粉とぺーキングパウダーをまぜた素を流し込んで、できた生地。バルーフやファニーは期待に満ちた顔で、レオナルドとチャーリーは不可思議なものを見る目で俺を見る。出来た生地を大きく4等分にして真ん中のへこんだ部分に大匙1杯分の水を入れて蒸し焼きにする。


 するとあれまあ、不思議。


「クロエ、クロエ! これはてれびで見たぞ! しあわせのぱんけーきだ!」

「クロエさますごい!!」

「いいにおいがするぞ! オレさまもたべるぞ!!」

「うぬは厨が似合うなあ。料理人かえ?」


 バターの香りもかぐわしい幸せのパンケーキ(俺オリジナル)の出来上がりだ。そのまま両面を焼けば、厚さは5センチ以上の分厚いパンケーキができる。それを用意していた皿にのせて、席についた順に配るよーというと我先にと適当な席に走って行った4人に。


 焼けるのを待ってる間に泡立てといた甘めに作った生クリームや冷蔵庫から出してきたラズベリーやチョコソース、急遽作ったカスタードクリームにオレンジとレモンのマーマレード。それから、苺にバナナみかんの缶詰といった上にのせる具材をテーブルのど真ん中においてそれぞれが取れるようにする。


 みんなにパンケーキとフォークとナイフが渡り切ったところで。


「じゃあみんないーい? いただきまーす」

「「「「いただきます!!」」」」


 ととりあえず挨拶だけしてから、俺は生クリームをぼんっと真ん中に乗せバナナとチョコソース、ラズベリーソースを右斜め、左斜めとかけていく。うん。美味しそう。


 満足げに頷いてると、横からさっと皿が出てくる。なにかと思えば目を輝かせたバルーフが両手で皿を持ちながらよだれでもたらしそうな勢いで俺に差し出していた。いや、俺にやれっつーの? 別にバルーフの分くらいいいけど。なんとなくバルーフの後ろを見ると。4人が整列していた。


 やめて! 俺菓子作りが趣味だけど飾るのも好きだけどまだ好き嫌いも把握してない人の飾りつけできるほどじゃないから! と朝から内心悲鳴を上げつつ飾りつけをしつつ(好き嫌いがあるのはバルーフだけらしい)ようやく朝食にありついたのだった。


 朝食を食べつつ、ふと口の周りを苺の果汁とチョコソースでべっとり汚しているレオナルドに尋ねる。


「あのさあ、レオナルドとチャーリーさあ」

「ん? れおでいいぞ」

「なんぞ?」

「そ? じゃあレオたちさあ、なんで俺たちが取り戻しに行った日。正気に戻ってたの?」


 いや、レオナル……レオのほうは焦げた死体の山積みの上に立って大笑いかましてたわけだからなまじ正気とは言えないけど。


 そんなことを考えつつ首をかしげて生クリームごとパンケーキを口に入れれば、どこか苦いものを呑みこんでしまったような顔をしたチャーリーがいた。レオの方は全く気にしてない様子でばくばく小さい口で食べ進めている。


 勢いはいいんだけどなー、なんせ口が小っちゃいからな。べとべとになるし乗せてた果物もこぼすし。あ、ティッシュで拾った。ああいうところ素直なんだよなあ。なんとなくのほほんとしていれば、チャーリーが口を開けるのと同時にレオが声を出した。


「あんじをつよくかけなおすために、あのおんみょうじとかがくしゃたちはよばれたらしいな。やつらがそうしゃべってた。こんなことしなくてもわれらのあんじはえいごうとけないのにとかいってたが、やつらがいうよりきょうりょくなあんじとやらにかけられたとたん。けいいちろうのことを、おもいだしたんだ。あっ! オレさまのいちご!」

「相変わらずレオは地獄耳ねー。ほら、あたしのあげるから我慢しな」

「ありがとー!!」

「うむ、レオの言う通りゃ」

「……ってことは暗示にかけたはずが逆に解いちゃったと。ファニー、苺ならまだあるからこの小さいのレオにあげて口が小さいから小さい方が丸ごと食べられるよ」

「あ、それについてはあの実験場に残った残留思念を読んだからわかってるぞ」


 なんでもなさそうにバルーフが言った一言に周りが固まる。残留思念? 要約するとお化け? はあ? 意味わからんし! お化けなんてこの世には存在しないし! お化けは殴れないからやだ! 


 なんでもバルーフ曰く。いままで見てきた《幻獣ファンタジー》は主人に逆らわなかったし、こいつらも暗示くらい解いてもちょっとくらいなら大丈夫じゃね? と思った馬鹿な陰陽頭がちょっとしたお遊びのつもりでやったらしい。


 そりゃそうだよ、そこらの《幻獣ファンタジー》は知らないけど、うちの家族は無理やり従わされてたんだから反撃に出ないわけないだろうに。


 つまり舐めきってたあいつらの責任ってことね、OK了解した。まあ若干やりすぎ感は否めないけど。

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