第44話 俺と知ったこと
「愛しているさ、だからこの程度のこと。暴言にも入らないくらいだ。むしろこちらの方が謝らなければならないほどに、おれたちはクロエのことを何も知らなかったんだ。すまない、クロエ」
「ごめんなさい、クロエさま」
「あー……すまなんだ、許してくんろう」
「……オレさまがいちばんひどいことをいった。もう、けいいちろうはいないってわかってたのにわがままをいった。そうだよな、きさまはけいいちろうのまごなのに。ちがつながったものなのに、かなしくないはずないのに。だからご、ごめんなさい」
「なんで……あんたたちが謝るの。ひどいこと言ったのは俺なのに。なんで……あんたたちはこんな俺に優しいんだよ……」
「だって家族だからだ。誰がなんといおうとおれたちはクロエの、家族だから。だから『こんな俺』なんて、悲しいこと言わないでくれ」
最後の言葉だけ、怒ったように口調を強めていったバルーフ。
ああ、爺さんも俺が自分を貶すようなことを言うたびに怒ってくれてたなあ。そんな懐かしい思い出に洟をすすれば、服の裾で俺の目の端と頬を拭って静かに離れていったバルーフ。
どこまでも慈愛に満ちた、けれどどこか悲しそうな顔で。離れてくれたことで家族たちが見えた。みんな泣きそうな顔をして俺を見ていて。
受入れてなかったのは、俺なんだと知る。口先では「家族だ」なんだと言いながら、俺の中の家族の枠に入っていたのは爺さんだけ。愛してくれると思ってたのも爺さんだけ。思い出に浸っていたのは俺。
俺が、家族を。爺さん以外の家族を心の中では拒否していたにすぎないんだ。でも、みんなはもう家族だと思ってくれてるんだ。こんな……ううん、俺を。
だから。
「レオナルド」
名前を呼んで手招きすると、細く頼りない幼い肩を震わせたレオナルドがおそるおそる近づいてくる。まるでいけないことをしてしまったと自覚してる子どものように小さくなりながら。それが妙に外見に似合っていて、ちょっと笑った。
ふはっと小さく声が漏れた俺に驚いたようにレオナルドは目を瞬かせる。でも、手を頭に伸ばせばいつかのバルーフのように身体を震わせてぎゅっと目を閉ざし身を固くした。
「ごめんね」
「え」
「俺が、あんたたちを受け入れてなかったんだ。家族だなんだって誤魔化して、結局は他人って、爺さんの家族って見てたんだ。だからごめん、それとありがとう。このことに気付けて、気づかせてくれて良かった」
「けいいちろうのまご……」
「これでやっと俺は、あんたたちを心から家族だって思える気がするんだ」
片方の手で爺さんのペンダントトップを握りしめもう片方の手で、レオナルドの頭、炎で髪を縛っている部分を避けて撫でる。泣き笑いで、目を閉じて。
ふいに4方向から伸びてきた8本の腕に抱きしめられながら。俺の意識はまた暗い闇の底へと落ちていったのだった。ああ、適当にお菓子でも食べといてというのを言い忘れなかっただけましだと思う。比較対象ないけど。泣き疲れて寝るなんてガキかよって自分に言いたかったけど、抱きしめる腕の強さだけを感じながら落ちる眠りは心地よかった。
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