第13話 俺と隠し財産

 翌日。

 受け継いだものをとりあえずよくわからないながらも閉まっていた書斎の向かい側の一室にバルーフを案内すると、バルーフは嬉しそうに、懐かしそうに目を細めてこれはファニーの部屋、これはおれのだ! これはエレノアさまの部屋でこれはチャーリーのやつの! うむむ、これは惜しいがレオナルドのだな!! とご機嫌に部屋の中を物色していた。


 ちなみにこれは爺さんがつけたドラゴンたちの名前らしい。千の魔法のうちに収納するものあるらしく、手が触れたものからまるで瞬間移動でもしているようにしゅんっと一瞬で消える。

 それをちらりと見てから、俺は書斎(小さいほうではなく大きい方)でスマホ片手にデスクに紙とペンを置いて金策に悩んでいた。


 2人分の生活費を入れてくれている両親には悪いが、まったく足らないのだ。というかできるだけ手をつけたくないため、コープとか支払いは自分のアルバイトで稼いだ金から出そうと思っている。やべえどうしようと思いつつも、俺の頭の中に両親に頼る選択肢はない。だって、自分から切り捨てた人間たちに金を出してもらうなんて恥ずべきことだ。普段は存在を無視しつつ利益だけを貪るなんて俺にはできない。


 うんうん首をひねっていれば、一通りの物色を終えたのかそれとも俺に用事があるのかバルーフが書斎に入ってきた。


「ん? どーかした?」

「お前……じゃなかった、クロエはなにを悩んでいるんだ?」

「あー……たいしたことじゃ」

「あるだろう! おれはクロエと魂を繋いだ相棒で従者だぞ、つまり家族だ! 家族は助け合うもんだって敬一郎も言ってたぞ!」

「……んー……、うん。お金がさ、足りないなあって」

「金?」


 きょとんと聞きなれない単語でも聞いたように、首を傾げる。どうやら物色し終えたらしい。

 やっぱり龍に金策とか立ててもらうなんて無理だよなあと苦笑いしつつ、なんだか悩みこんだように片手で肘を掴み肘の方の手を頬に当てるという悩んでますポーズを一度作ってから、バルーフはやっぱりわからないといわんばかりに首を戻す。


「地下室にある、財宝じゃだめなのか?」

「……え?」

「昔、ファーヴニルが作った財宝がたくさんあると思うが。金塊とかもあったはずだ」

「あー……、金塊は金塊番号とか商標とか色々あるからダメだけど……え、財宝?」

「キンカイバンゴウ? やショウヒョウ? がなにかはわからないが、金塊以外にもたくさんの首飾りや腕輪、指輪や壺なんかもあったはずだぞ」

「それってさ、ファーヴニルさん? 帰って来た時に怒らない?」


 ファーヴニル、確か財宝を守るドラゴンだった気がするのだが。帰って来た時に財宝が減っていたら怒らないか? という俺の問いにこともなげに目を瞬かせながらバルーフは答える。


「人間は金がなければ生きられない生き物だろう? 敬一郎も良く悩んでいたから、積極的に売るように言っていたのはファーヴ二ルだ。まあ当時は戦後で、金でできた財宝なんて買い受ける相手が見つからなくて諦めたんだが」


 それにファーヴニルが守ってるのは魔法でできた魔道具だけだから自分の《幻獣固有能力アトリビュート》で作った財宝なんかはそこらへんに放り出してたし、魔道具かどうかはおれが判別するし売っても怒らないと思う……と言いかけたところで、バルーフは言葉を切った。

 そして、なにやらにやりとあくどく笑うと。楽しそうに笑ってから、万が一怒られるようなことがあればと続けて。


「おれも一緒に怒られよう!」

「……心強いよ、相棒」


 胸を張って得意げな顔で宣言するバルーフに、いままでの金策はなんだったんだろうと遠い目になりつつ。肩を落として俺は紙に書かれた金策に大きく×印をつけてから、顔をあげ苦く笑ったのだった。


 結局、その財宝のある地下室がどこにあったのかというと。

 なんてことはない、大きい書斎のデスクの下だった。つまり俺がいるこの真下。なんでこんなとこに爺さんも作るかなあ!? とか、リフォーム会社の人たちに見つからなかったのだろうかとかいろいろ思ったけど。


 この地下室は帝王樹が隠していたらしく家主かそれに連なるもの(《幻獣ファンタジー》含む)しか見つけられないらしい。まあ幼いころに来ただけのこの屋敷について俺がよく知るはずもなく、全てはバルーフの申告だったが。


 バルーフの収納の魔法で大きな方の書斎に敷かれている赤い絨毯を収納してもらうと、下には確かに床下収納みたいなやつで2回りは大きい扉があった。


 俺も成人男性として一応開けようとはして見たものの、うんともすんともがこんともいわなかった。ぐぬぬ、悔しい。さらにそれをバルーフが人差し指にとび出た指を掛ける部分……つまり人差し指一本で開けたのがさらに悔しかった。むかついたので、バルーフのほっぺをむにむにしてやったら本人は構ってもらっていると思ったみたいで嬉しそうにしていた。


 開いた扉の下には、地下へと続く白いほこりの積もった石階段。バルーフが先頭に指の先に火を灯す魔法(こいつ結構便利だなと思った)を使って床下に降りていく。さすがに俺も降りないわけにはいかなくて、一緒に降りると。


「……うわあ」

「なんだ、ずいぶん気の抜けた声だな。驚いたか?」

「驚いたってゆーか、これ全部きっと脱税品だよなって思ったら頭痛くなってきた」

「だつ……?」


 全て金色でできた兎の像や金の延べ棒が数千本、他にも金でできた赤いルビーのはまった指輪やいかにもお高いところに置いてありそうな金色の壺が数十点にベルベッドと金でできた数種類の宝石のはまった王冠、シンプルながらも気品漂うティアラ、宝玉で飾られたいかにも装飾品ですと言わんばかりの短剣が数十点、他にも金でできた宝石の首飾りやシンプルなチェーンのネックレス、腕輪などがあり果てには金でできた玉座、バルーフの細い指先の炎だけで確認できただけでもこれだけあって頭を抱えることになった。


 脱税にしても高価すぎるぞこれは……。安易に外に持ち出せない品々を見て、爺さんも苦労したんだろうなと思わず同情の念がわき上がってきたのだった。これが戦後なら余計に出所を探られたりもするだろう。《幻獣ファンタジー》が作ったというある意味痛い腹を探られたら嫌だ。


 脱税の意味も知らなそうにきょとんとしているバルーフに脱税のこわさ(脚色入り)を話すかどうか悩んだが面倒くさいからやめた。

 結局、その中から細い金でできた細工のあしらわれたチェーンネックレスや、比較的シンプルな指輪数点をバルーフの見極めの下魔道具ではないことを確認してタオルに包んで持ち出した。傷をつけないためだ。


 これだけでもいくらになるのかわからない財宝を持つことは怖かったが、おどおどとした態度をしていれば逆に目をつけられかねないと堂々とすることにする。まあ、家の中だから平気なんだけど。今日は荷ほどきをして、近くの町まで行くのは明日の朝になるかな。

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