アーシェとデート!?編⑩(キャラ崩壊!? 夏奈実くん、コスプレイヤーデビュー!? 後編)


「撮影を再開しまーす! 皆さま、カメラの調整済みましたか!? それでは――イッツショータイム!」


 レイベルさんが再度そう宣言すると、俺とアーシェはギュッと体を抱きしめるポーズをした。むほっ……ア、アーシェの豊満な果実が……俺の胸元に当たっている。こ、これは息子さまがビンビンになってしまうぜぇぇぇぇぇぇッ!!

 変態的思考を内心で呟き、笑顔のままカメラマンに向けてポーズを取った。


「いいよ、いいよッ! フラッシュ出すから驚かないでね!」


 パシャパシャ……と素早く撮影するカメラマン。フラッシュ撮影、色々な角度からの撮影、リクエストに応じてポーズの変更などの撮影を行った。


「はい、ありがとうございました! 写真はこんな感じでいいですか?」


 撮影した写真を見る。抱きしめるポーズ、対立するポーズ……うん、これでいいと思う。


「はい、オッケーですよ」


「ありがとうございます! なつりん様、アーシェ様! 拙者はこれにて失礼する!」


 ビシッと敬礼してカメラマンは立ち去った。


「あははは……ありがとうございます! またお会いしましょう~~」と言って、去るカメラマンを見送った。


「それでは次の方、よろしくお願いいたします!」


「よろしくお願いいたします! それでは撮影しまーす」


 パシャパシャ……と撮影を始めた。下から、斜めから……色々な角度から撮影する。途中でフラッシュ撮影を使用し始めた。フラッシュが眩しい……。


「ありがとうございます! あ、あの……一緒に撮ってもらっても大丈夫ですか?」


 ヲタクのお願いにレイベルさんは「いいですよ!」と答えた。それ、俺達への質問のなんだけど……と言うツッコミを内心で呟く。――まあ、いいか。


「それではチェキを用意しますね!」


 ゴソゴソと袋からチェキ用のカメラを取り出す。ピンク色の四角い形をして、普通のカメラとは少し大きい。そうこれがチェキ用のカメラだ。


「ねえ、夏奈実くん。チェキって何?」


 アーシェは首を傾げながら質問する。そうか、アーシェってチェキの事知らないんだっけ……。


「チェキって言うのは、インスタントカメラでレイヤーさんと一緒に撮ろうって事だよ」


「インスタントカメラ……?」


「まあ、ざっくり言うなら即席の印刷機能付きのカメラと言った方がいいかな? カメラの中に専用の紙を直接入れて撮影すると、すぐに現像するんだよ。昔はこれが基本的な日目だったんだ。デジタルカメラが普及した今でも販売している。コスプレイヤーやイベントに参加する人なら知っておくべき用語だ。覚えておけよ」


「は、はいっ! わかりました!」


 ビシッ……と警察官のような敬礼をするアーシェさん。


「それではチェキの方、撮りましょう」


 チェキ撮影を希望するヲタクを呼んで、俺とアーシェは挟み込むようにヲタクの両側に立ってⅤポーズを取った。


「フラッシュ出ますんで驚かないでくださいね~~行きますよー、三、二、一――――」


 レイベルさんはカウントを終えると同時にカメラのシャッターを切った。


「はいオッケーでーす」と、レイベルさんはオッケーサインを出す。ジジジ……と、カメラ上から現像したホカホカの白いシートが出てきた。そう、これがインスタントカメラ専用の紙なのだ。


「どれどれ……」


 べりっ……と上に重ねてあったシートを破くと、真っ黒な写真が写っていた。勿論、これはカメラの故障ではない。


「あれ……? 真っ暗だよ? 故障なのかな?」と、アーシェは首をかしげていた。


「――まあ、見てみな。ちゃんと映っているから」


「ふぅ~~ん」


 じっくりと眺めると、じわじわと俺達が写った現像が浮き出てきた。


「えッ!? 真っ暗だったのが、どんどん明るくなって――私たちの顔が写っている!? すごいすごい! 一体どうなっているの!?」


「はは……実は――――」


 説明しようとした矢先、衣装担当の人から「おーい」と呼ばれて視線を声の場所へ向けた。そこにカメラマンやヲタクたちが少し苛立ちのオーラを醸し出していた。


 やばっ……カメラの事に気にしていたわ。戻らないと怒られちゃう。


「アーシェ、行こう。お客さんが待っている」


「え? ――あっ、そ、そうだね……撮影してくださってありがとうございました!」


 お客の苛立ちオーラを感じたアーシェはこくりと頷き、先ほど撮影してくれたヲタクにお礼の言葉を伝えた。


「ハスハス! こちらこそありがとうございます! アーシェ殿、また会おうね!」


「えぇ! いつか、また会いましょう!」


 バイバイと手を振って見送った後、俺達は撮影場所に戻った。


「よろしくお願いいたします!」


「よろしくです! それでは可愛いポーズからお願いします――」


「はーい!」と返事して、俺とアーシェはメイドカフェでやる萌え萌えキューンのポーズを取った。


「はい、次は抱きしめるポーズで」


 カメラマンがそう要望し、むぎゅ……とアーシェを抱きしめた。


(むほっ……!? さっきもそうだけど、アーシェの豊満な果実が胸板を押し付けて……だ、だめだ……俺の息子が元気に育っている。まるで食事したいと訴えているかのようにッ!!)


 と、内心で発狂しながら、周りに気づかれないように笑顔を作った。あぁ……アーシェよ。お前の太腿に息子に当たらないようにしているけど、当たったらごめん!


「はい、オッケーでーす! お疲れさまでした~~!」


「おつかれさまでしたぁ~~また会いましょうね!」


 カメラマンにお礼の言葉と握手を交わし、手を振って見送った。


「それでは次の方、よろしくお願いいたします~~!」


「よろしくお願いいたします! それじゃあ、抱きしめるポーズをお願いします」


「は~~い!! アーシェちゃん、ギュッとしてぇぇぇぇ!」


 やけくそのような口調で、アーシェの体を抱きついた。


「わぁぁい~~夏――なつりん、思いっきり抱きついて!」


 そしてむぎゅ……とアーシェの胸に飛びつく様に抱きしめるのであった。



       ※



 ……なんて、参戦してから同じポーズとチェキ撮影を行っているうちに一時間経った。イベントももうすぐ終わりを迎えているのか、カメラマンとヲタクが少なくなってきた。


「ふぅ……二人ともお疲れ様! 少し休んでもいいよ!」


「ありがとうございます」


「ふぅぅぅん……疲れたぁぁぁ!」と、アーシェはぐっと背伸びした。


 ふぅ……疲れた。コスプレしただけなのに、一日中動き回っていたような疲れが度と音襲ってくる。これはロクに体を動かしていない代償かな? 


「はい、差し入れのスポーツドリンク。水分補給しておいてね」


 レイベルさんからスポーツドリンクを受け取って俺は壁に寄りかかり、ぺたりと大理石の床の上に座り込んだ。


「夏奈実くん、お疲れ様!」


「おう、お疲れ」


 俺の隣にアーシェが座った。ごくり……とスポーツドリンクを飲み始めた。俺も飲むか……喉がカラカラに渇いているし。ゴクゴク……うん、美味しい。後味が残らない酸味と電解水の成分が体の隅々に澄み渡ってくる。もう一口――ゴクゴク……美味しい。なんか体が怠く感じたけど、スポーツドリンク飲んだら怠さがあまり感じなくなったような気がする。


「どうだ、初めてのコスプレ撮影会に参加して」


 アーシェにさりげない質問をする。


「とっても楽しかった! また夏奈実くんと一緒にコスプレ撮影したい!」


 さりげない質問に万遍な笑顔で答えた。まるで、恋愛漫画である万遍な笑顔の一面の光景をトレースしたような光景だった。その光景に俺は目を奪われ、同時にドクンと心臓が跳ね上がった。


(あれ……なんだ? め、目の幻覚か? アーシェがこんなにもか、可愛く見える?)


 絶倫美少女のアーシェが、絶倫とは違う……可愛い美少女に見える。例えるなら――そう、男勝りだった幼馴染の女の子がいつの間にか可愛い女の子に変貌しているみたいだ。


「夏奈実くん、どうしたの? 私の顔、何かついているの?」


「い、いや……何もついていないよ」


「ふーん」とそっぽを向いた。可愛い……と内心で思った。


「しかし、アーシェがコスプレしたいなんて……どうしたんだ?」


 そっぽを向いたアーシェに、ずっと疑問に思った事を口にする。


「え……なんで、そんな事を聞くの!?」


 ……なんで動揺しているの? やましい事でも隠しているのか?


「……アーシェ、なんで動揺しているんだ?」


「――ふ、ふぇっ!? ど、動揺している!? な、なな、なんでかなぁぁぁ!?」


「何隠しているんだ、コスプレしたい理由と関係あるのか?」


「あぁ……いやぁ~~ハハハッ」


「教えろよぉ~~アーシェ! 何隠しているんだァァ?」


 ツンツンと肩を突っつきながら、アーシェを問い詰める。


「――その、ですね。夏奈実くん……家で美少女ゲームしているじゃん?」


「うん……」と頷く。俺がやっているエロゲにヒントがあるのか?


「その……夏奈実くんがやっている美少女ゲームって、コスプレ物のシーンでやっている所を見ていたから……。その……コスプレ衣装を着れば夏奈実くんの目に留まるかなぁーって思って――」


 アーシェがその事を言った瞬間、俺は呆けるように黙り込んだ。


 …………んッ!? エロゲのやっている事はいいとして、コスプレシーンでやっていたところ見たの? あぁ……恥ずかしいッ! 女の子に見られるなんてぇぇぇぇッ!! 最近は静かに読んで(して)いたのにィィィィ!!

 見られたくないところをアーシェに見られて、ズーンと落ち込んだ。あぁ……親や妹にバレずに読んでいたのに、アーシェにバレるなんて。もう……一生童貞なんだ……。

 もう、バレちゃったからには仕方がない。白状しよう。俺はエロゲを読むときは必ず着ているモノ――もっと細かく言うならコスプレ衣装を纏ったキャラが好きだ。

 だって、チアガールの衣装で応援されたいじゃん! チャイナドレスとか背徳感あるじゃん! メイド服着て『お帰りなさい……お兄ちゃん――ご主人様ッ!』って言われたいじゃん! 制服を着た幼馴染と一緒に下校したいじゃん!! それから、それから……。と、とにかくだ、コスプレ着ているシーンが好きなんだよぉぉぉぉぉぉッ!!


「……夏奈実くん、夏奈実くん!」


 アーシェに呼ばれて、俺は我を取り戻した。


「あ、アーシェ……」


「どうしたの? 呆けた顔して……」


「あ、いや……何でもない」


 ふふっ……と笑ってごまかした。


「そ、それで……私のコスプレ姿――どう? エロゲのヒロインみたいになれたかな?」


 アーシェの言葉を聞いた瞬間、何かひらめいたような気がした。

 ……まさか、俺の為にコスプレ着ようと考えたのか!?


「まあ、そうだと思うよ。結構可愛かったし……」


「本当!? 夏奈実くん、大好きッ!」


 まるで子供のように俺に向かって飛び掛かってきた。


「おわっ!?」と呻き声を発して、ばたりと倒れ込んだ。


 いたたた……アーシェの奴、いきなり飛び掛かるなよ。びっくりしたじゃねーか。と、とにかく起き上がろ――ん? 唇に甘酸っぱい感触!? こ、この味はまさか――!?


「うむっ!?」と声を上げた瞬間、アーシェと唇が重なっていた事に気づいた。


「ムフフ……かふぁみくん、好き!」


「あ、アーシェ……おまえぇぇぇ!!」


「ふ・い・う・ち――さ! 夏奈実くん、隙が多いぞ」


「むむむ……ぅ――そ、それよりも、早く退いてくれないか。他人が見ているんだぞ」


「あっ……まあ、いいじゃん! 私たちのラブラブっぷり、みんなに見せつけようよ!」


 と、羞恥心を捨てたアーシェはむぎゅうーと俺の体を強く抱きしめた。


「……勘弁してくれ」と、呆れた思いを込めて呟いた。


「ヒューヒュー! お二人さん、熱いねぇ!」


 偶然近くで水分補給していたレイベルさんに見られ、揶揄うような発言をしていた。


「れ、レイベルさんッ!?」


「ムフフッ! アーシェちゃん大胆な事言うねぇ~~」


「あははっ、レイベルさん……それほどでもぉぉ~~」


 アーシェは頭をポリポリと掻き、にやにやと微笑んでいた。アーシェ……こんな感じで褒めてもらっていいのか?


「彼氏クンもいいよねぇ~~ラノベの世界から飛び出たような美少女と恋人なんてなぁ~~」


「あ、はぁ……」


「いっそこのまま、異世界へ転生してハーレムでも作っちゃったらどーよ!」


 がははっ!とガキ大将みたいな笑い方をして、そう勧めるレイベルさん。


「嫌っすよ~~ハーレムなんてギスギスした空気になるじゃないっすか」


「そこがいいじゃないか、彼氏クン! ハーレムなんて男の中の夢! 日本では禁じられている一夫多妻制が可能になるのだぞ! そして複数の女と一緒に夜の営みを行い、勇者の子供をたくさん産むッ――すなわち、ハーレムは最高なんだッ!」

 レイベルさんがコスプレ着替えと同じくらいに熱く語り始めてしまった。


「はぁ……」と、俺はレイベルさんの話にこくりと頷いた。別に興味がないという訳じゃない。無視しているのも何か悪いなって思っただけだ。


「わかるかい! やっぱりハーレムは最高だと思うよね、彼氏クン!」


「あぁ……まあ、そうですねッ!」と、レイベルさんの話に合わせる。


「そんな訳だから、私と一緒にハーレムを築き上げないかッ!」


 ……いや、意味不明だわ。そんな訳だからって何? ちょっとドン引きだわ。


「いや、結構です」


「そう――残念……はぁぁ……」と、レイベルさんは落胆した溜息を溢して、トボトボと立ち去った。レイベルさんの表情を見てなんか悪い事しちゃったような気がする……まあ、いいか――変な誘いなんだから。


「やっぱり夏奈実くん、エロゲみたいにハーレム好きなんだ~~?」


 にししっ……と微笑みながら、悪戯気に言うアーシェ。


「そうだもんねぇ~~高校生ぐらいの男子って、ハーレムって憧れちゃうもんね~~」


「ちゃうわい! 俺はハーレム好きじゃねぇ!」


「えーうそぉ~~エロゲでハーレム物読んでいたじゃないかぁ~~」


「それはゲームの世界感がおもしろいからだよッ! ハーレム物のゲームなんてそのゲームしか持っていないわい!」


「またまたぁ~~嘘はよ・く・な・い・ぞっ!」


 なんでギャルみたいな一文字区切りながら言うんだ……なんだろう、ギャル風の言葉を聞いてムカついてきた。ちょっとアーシェには悪いが、お仕置きしないとダメだな。


(アーシェよ……すまないッ!!)


「アーシェぇぇぇぇ……! ちょっとこっちむいて!」


「え、なに――むにゃっ!?」


 ムカついたのでアーシェの頬をむにぃぃ……と抓った。


「か、かふぁみくぅぅん!? なにふるのおおおっ!?」


「何かムカついたから、頬抓っただけだよ」


「ムカついたって!? 私、何か変な事言ったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 理不尽な頬の抓りに、うわぁぁぁぁぁぁぁんと泣きわめくアーシェ。この光景見ていると、こ○○ばの駄女神を連想させるな……。


「か、かふぁみくぅぅん! ごふぇん! ごふぇんなさぁぁぁぁい!!」


 しばらくの間、アーシェの鳴き声に笑いを堪えながらお仕置きを続ける。もう、頬が真っ赤になるぐらい痛めつけてやる!


 そんな矢先――ピーンポーンパーンポーン――と館内アナウンスチャイム音が響いた。


『お客様にお知らせいたします。只今を持ちまして、コスプレ撮影会の撮影タイムを終了させていただきます。コスプレイヤーの皆さま、お疲れさまでした。この後、特設ステージにてVIP賞の発表・表彰式を行います――』


 コスプレ撮影タイムの終了を告げるアナウンスが流れた。


「彼氏クン、アーシェちゃぁん~~! 特設ステージの方へ行きましょう!」


 ほぼ同時にレイベルさんがステージへ行きましょうと俺達を呼びかけた。


「アーシェ、行こうか」


「うん!」


 俺とアーシェはゆっくりと立ち上がって、特設ステージの方へ向かった。



   ※



 ――初のVIP賞……一体誰がその賞を取るのか。まだ知る由も無かった。



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