アーシェとVR⑤(私が選んだクエストは――)→Byアーシェ

 場所が変わって、ギルドのある街から歩いて一時間にある場所にたどり着いた。


「へぇ……へぇ……こ、これは……ひ、酷い有様だなぁ……」


 一時間歩いて、へとへとの状態で壊滅した村の全体を眺める。そこには木やレンガで出来た建物は跡形もなく焼き崩れていた。その焼き崩れた建物の瓦礫に、焼き爛れた人の手がはみ出している。逃げ遅れた人だろうか……? 可哀想に……アーメン。

]

(それにしても、この村入った時からすごい異臭が漂っているんだけど……。鼻にツーンとくる……)


 焦げ臭い、腐った肉の臭い、硫黄……? 少なくとも人間が感じる悪臭がギュッと濃縮されたような異臭が漂っている。これは鼻にツンッ……ってくるわ。もう鼻を摘まないと倒れそうだもん。


「うわぁ……堕天使様の威力パネェ……」


 近くで同じく壊滅した村を眺め、民家の瓦礫をどかして調査する夏奈実くん。ギルド時の衣装ではなく、桜柄の模様が入った水色の着物と青色の袴を纏った和服姿に変わっている。

 何故って? 夏奈実くんが来ている衣装に俊敏性と攻撃力を増幅させる固定スキルが備えている。因みに私もこの村に行く前に冒険者らしい衣装に着替えたのだが、何でお腹のところだけ無防備に露出しているのぉッ!? 胸や腰の方は軽くて頑丈な鎧で守られているけど、お腹も守らなきゃあかんでしょっ!? これ腹に刺さったら絶対痛いでしょ!?

 なんて私の衣装にツッコミしながら、民家の瓦礫を手に取る。これは……写真立てかな? どんな写真が……? たんたんと軽くたたいて写真立ての煤を落とす。


「…………」


 私はしんみりした表情で写真を眺める。この写真に小さな女の子と男の子が写っていた。多分この瓦礫になっている民家の子供たちだろう。可愛そうに……苦しかったのかな? アスタリア王国の女神の私には何もできないけど、せめて弔いだけするね――アーメン。


「しかしまぁーこの状況からみると、村の人たちは逃げられなかったらしいな」


 瓦礫や遺体を見て、そう判断する夏奈実くん。なんで、と私は質問する。


「村人の遺体が数人あったんだけど、逃げたような痕跡はなかった。少なくとも、寝ている夜中に襲われたと思うな」


 すごい……まるで刑事ドラマの警視監みたいなこと言っている。ちょっとかっこいい。


「しかし……この堕天使討伐のクエストを受けるなんて……良かったのか、アーシェ?」


「うん。だって、夏奈実くんが私のフォローしてくれるんでしょ?」


 にこにこと微笑みながら答える。だって、剣士で私のことをフォローするって言われたら、カッコよくて付いて行きたくなるじゃん!


「ま、まぁ……そうだけど」


 ポリポリと恥ずかしそうに頬を掻く夏奈実くん。


「その時は私を守ってよね!」


「お、おう! どんな事があっても、アーシェを守るよ!」


「ふふっ……夏奈実くん、言質とったからね!」


 ピシッと夏奈実くんの唇の上指を置いた。誓いと言うことを示すために……。


「――わかった。言質に誓ってお前をフォローする。だから、一緒に堕天使をぶっ倒そうぜ!」


「うん」


 夏奈実くんが拳を出す。私も拳を作って、軽く交わした。


「さて、村の調査はこのぐらいでいいだろう。あとは堕天使が現れるまでどこかで待つか」


「だね……漫画みたいにすぐに現れるとは限らないし……。夏奈実くん、どこで待機する?」


「そうだな……。近くに森があるから、そこで待機する?」


「森で待機……うん、わかった」


「野宿の可能性もあるから、雨風しのげる場所か、でっかい布を探そう。俺は森の方を見てくるから、アーシェは川の方を見てきて」


「了解!」


 言われた通りに村の畔に流れる川沿いの方へ向かった。どこか雨風しのげる場所ってないのかなぁー?




    ※ ※




 アーシェと夏奈実がいったん壊滅した村を離れて数分後、突如黒い霧が現れる。やがて、霧は人の形に具現化した。そいつは悪魔のような衣装を纏った女性の姿だった。


「きひひっ……、私を討伐しにきた冒険者かしら?」


 気味悪い笑い方をして、二手に分かれた二人組の冒険者を眺める。


「さーてどうしようかなぁー? どっちかを襲って魔力の糧にしようかなぁー? 二人が来たらいっぺんに襲おうかなぁー?」


 悪戯気に笑いながら、冒険者の二人をどう始末しようかなって考える。


「よーし、一気に殺しちゃお!」


 決まったところで、謎の女性は黒い霧に包まれて消えていった。


「フフフ……楽しみ」


 女の不気味な笑い声が、静寂に包まれた村に響いた――




          ※              ※




「うーん……小屋っぽい建物もないし、凌げるような大きい布もないなぁー」


 夏奈実くんと別行動を取って、私は村の近くにある川沿いに沿って歩く。結構川沿いを歩いているけど、小屋っぽい建物なんて無いぞ……? というか、村を離れて建物自体見当たらないんだが……。本当に小屋や布があるのか不安になってきた。


(……それにしても、村もその周辺ものどかで閑静な場所だなぁー)


 キョロキョロと村と川の反対側の方を見ると、森が広がっていた。空気が澄んでいて、肺が弱い私とってに嬉しい環境だよ。例えるなら、のど飴を舐めて喉が潤う――そのぐらい気持ちいい。そんな訳で、私はちょっと休憩がてら深呼吸を始めた。


「すぅぅぅっ……はぁ…………っ…………。排気ガスが無い純粋な空気――久々だなぁー。VRゲームで純粋な空気を吸うなんて、夏奈実くんの世界って進化しているわねぇー」


 なんて最新技術に感心しながら、再び深呼吸をする。本当に空気が澄んでいるところまでリアル……VRゲームとは思えない。


「ふぅ……。そろそろ小屋を探そう」


 ひと休憩を終え、小屋か大きな布を探すのを再開した。何処にあるのかなぁ~~大きな布~~小屋ぁ~~っ……。意味不明な鼻歌を奏でながら、川沿いを歩く。正直、これ歌って何か意味あるのって思う方、すいません……特に意味はありません。


「本当に小屋なんてあるのかなぁ? というか、ここどこだろう?」


 ずっと川沿いを歩いて気が付かなかったけど、どこまで歩いたんだろう? やばい……迷いそうなんだけど……。


(そうだ、マップ……マップを開けばいいじゃん)


 指パッチンしてホログラムディスプレイのメニュー画面を開き、マップを開いた。


「えっと……私が居る場所がここね」


 ホログラムディスプレイに映るマップ。白い丸いアイコンは私が今いる場所を示している。隣に流れている川は透明で表示、山や堤防など高低差のある所は線を境に色の濃さが変化している。本当に近未来の世界感のあるVRゲームだな……。


「えっと……村の位置は――」


 マップを縮小し、村の場所を確認する。川の下側の方にずっと歩いていたから、上の方にあるよね……。マップを上の方へスワイプし、村の位置を探す。


「お……あった。へぇークリンスイ村って言うんだ……」


 なんて初めて知った村の名前に頷く。まぁ……それはどうでもよい。とりあえず、村の位置が分かってよかった。


「場所は分かったけど、これ以上先に行っても見当たらないような気がするんだが……」


 どうしようかなぁ……村の方に戻ろうかなぁー? これ以上進んでも、無駄足感が漂うんだけど……。


「よし、戻ろう」


 悩んでいるんだったら、戻った方がいい。これ以上、遠くに行って待ち合わせの場所まで戻ってくるなんて疲れる。だったら、ここで引き返した方が疲れなくて済む。

 私は一度何かあるか川沿いを見回した後、何も無い事を確認して一八〇度ぐるりと反転して村に向かった。




 ――そしてこの後、村に戻った私に身の危険が迫っているなんて知る由もなかった。

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