アーシェとVR⑥(堕天使登場! アーシェの危機!?)
『夏奈実くんへ、川の方は何もなかった。村の方に戻っているよ』
(これでよし……送信っと……)
ポチっと送信ボタンを押して、夏奈実くんにメッセージを送った。これで良し……後は夏奈実くんと合流するまで村で待つか……。
てくてくと来た道を戻って、再び村の方へ歩を進めた。距離的にそこまで遠くない場所にいるから、すぐに村に着く。
「お、村が見えてきた」
まっすぐ歩いていると、火事で焼けた民家の黒焦げ柱が数本見えた。よかった……やっと村の方に戻れた。私、方向音痴だから、何処歩いているのか分からなくなるんだよね……。
なんて自分の苦手な事を一人で呟いているうちに、村の入り口に到着した。何度見ても廃れた村は殺風景で気味悪い。一刻も早く立ち去りたい気分だ。
「夏奈実くんは……まだ来ていないか」
キョロキョロと夏奈実くんを探してみたが、すぐに来るわけないよな……。そりゃ、ほんの五分前にメッセージを送ったんだし、すぐに既読しても距離によりけりだけど戻ってくるのに時間かかるもんね。
異臭が漂う場所で待つのは嫌だけど、夏奈実くんが来るまで待つかぁー。
とりあえず、座る所を探そう。長く立つのもなんか嫌だし、足が疲れるもんね。
適当に見つけた椅子に腰かける。早く夏奈実くん、戻ってこないかなぁー?
「はぁ……退屈。漫画とかでよく聞く展開で、一人ぼっちの時に急にボスキャラが現れないかなぁー? って、初心者殺しの事なんて起こらない方がいいよね」
なんて縁起の悪い事を呟く。まぁ、実際にそんな事は絶対に起こらないけどね。起こったら、どう対処したらいいか分からないもん。仮に倒そうと考えて行動に移してもレベル一の私なんてイチコロされるに違いない。
「ほほぉーこういう展開が起こらないと思っていたのかなぁ?」
悪戯気に笑う子供のような口調が、誰もいない廃墟の村に響いた。そして。この声のトーンは女性か?
「だ、誰だッ!」
キョロキョロと村の周りを見回すが、人の姿が見えない。何処か隠れているのか?
「ムフッフッフッ! 我を探しても無駄じゃ!」
「な、なんだとッ! 卑怯だぞ、隠れるなんてッ! 姿を現しやがれッ!」
気配遮断スキルを使っているのか? くっそ……何処にいるんだ?
「くふふふっ……我ならここにおるぞ!」
「何処だッ!」と一喝すると、突如私の背後から不気味な気配を感じ取った。振り向くと、何も無い場所に黒い霧が発生した。
(な、なんだ……? 霧が出ている時、息が吸えない……)
黒い霧に包まれた時、一瞬だけ呼吸が出来なかった。一体何なんだ……この黒い霧は?
「ほほう……なんとまぁ、可憐な女子じゃのぉー」
すぱん――と、黒い霧が吹き飛び、悪魔のような黒い衣装を纏った女の子が現れた。なんというか……よく分からないけど、儚い光景を見ているかのように見惚れていた。
「だ、誰……?」
衣装からして敵っぽいけど、とりあえず女性に誰だと問う。
「我かえ? フフフ……我はこの村を滅ぼした堕天使・ルシファー様じゃ!」
どーんと胸を張って威張っていた。……そして、気まずい空気が流れる。えっと……堕天使様が直々に現れたのがいいけど、もっと禍々しい雰囲気を漂わせて悪魔のようなおぞましい声音じゃなかったけ? アスタリア王国での堕天使や魔王はおぞましくてごついのや艶美のあるキャラだったけど、この世界の堕天使って子供なの!?
(かぁ……か……可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!! お持ち帰りしたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!)
ばくんばくん……と心拍数が跳ね上がる。いやぁー可愛い! 堕天使の面影を感じさせない、このロリスタイル……最高じゃねぇーか!
「おい! 我を可愛い人形みたいに眺めるなッ!」
一喝され、私はびくっとルシファーから後ずさった。いかん……こいつは討伐対象の堕天使だ。可愛い魅惑に騙されてはいけない……。
「……ルシファー、なぜノコノコと私の前に現れた? そのまま気配遮断して私を倒す事だって出来たはず」
「なぜってー? そりゃー普通に気配遮断して殺すのは味気ないから? だってさー、何もしないで殺すなんてつまんないもん」
ギャルみたいな言い方だな……。このロリ堕天使の中身、一体何歳なんだ? 知ったら知ったで、よく分からない恐怖が襲ってくるんだけど……。
「――おや? 我の年齢でも知りたいのかえ?」
私の思考を見透かすスキルでも持っているのかな? 図星の事を言われたんだが……。
「いや……別にいい」
大抵このパターンはロリの姿をしているけど、実は何千年も生きている天使様じゃ! みたいなやつじゃないのか?
「なぬうううっ! 我の年齢知りたくないのか!」
怒鳴られた……なんか理不尽すぎない? 知りたくもないのに、怒られるなんて……。とりあえず、もう一度本当の事をルシファーに伝えよう。
「本当に知りたくないっす」
「……そ、そうなのか。分かった」
ルシファーは何事も無かったように話を終わらせ、ゴホンと咳払いをした。
「では――よくぞ我の前に参ったな、冒険者よ!」
ドーンと胸を張って威張るロリ堕天使様。魔王城で待ち構えた魔王みたいな台詞を言うな……。参ったっていうか、自分から参ったんじゃねぇーかよ……。
「我の前に立つ事は残虐な最期――即ち死を意味する! えーと……そ、その覚悟があってきたのかッ!」
ちょっと堕天使らしい言葉が思いつかなかったらしい。その辺もチョー可愛い……!
「うん、まぁーそんな感じで来ました」
とりあえず、堕天使のセリフに対して適当に返事をした。
「よかろう! そして死ね! 焼き滅べ――『炎の刃(ファイヤーエッジ)』ッ!」
そう言うと、突如彼女の手から炎が現れて刀を振るうような仕草で腕を振った。まるでウォーターカッターのように、剣のような長細い炎が迸った。
「あぶなッ!?」
間一髪、マト○○○スのような海老反りで回避して、くるりと一回転して立ち直った。
よかろう――そして死ねって、いきなり攻撃を仕掛けたッ!?
普通なら、なんか我の仲間に入れば欲しいモノを手に入れる事ができるぞって言うんじゃないのか!? それで否定してから攻撃するんじゃないのッ!?
「ちょっとーッ! いきなり攻撃なんて卑怯でしょッ!」
「卑怯なものかッ! 我はこの世界を滅ぼす堕天使、どんな手を使ってでも貴様を倒すのみッ!!」
ビュン……と風を切る音が響くと同時に、目の前に堕天使が現れた。
(早いっ……!?)
数十メートル離れていたのに、何時の間に私の前へ……? 瞬間移動したの!?
「遅いぞっ!」
あまりにのスピードで呆気を取られている隙にルシファーは、私の胸倉に向かって鉄拳を放った。
(ヤバい……防がないと!)
咄嗟に防御魔法を発動させるが、鉄拳の速さに間に合わず鈍器レベルの硬さの拳が胸倉に直撃した。
「ごほっ……!?」
胸に甲冑を纏っているのに、心臓を槍で穿たれたような強い衝撃が走る。そのまま民家が密集していた跡地の方へ派手に吹き飛ばされた。
「おわっ!?」
どっかーん……ドコッ……ゴロロロロッ……と、地面に直撃して転がった。
「いってぇ……」
クソ……あの拳……魔法で強化したのか? 華奢な少女の力とは思えない……。とりあえず、立てるかな……? 心臓部を殴られたんだ、重症を負っていなければいいんだが……。
「う……ぁ……っつ!」
ゆっくりと這いつくばった体を起き上がらせ、立ち上がる。胸元に甲冑付けたおかげで命拾いしたな。甲冑していなかったら、心臓と肺なんて破裂していた筈だ。
「おごっ……げほっ!?」
だが、甲冑に守られたとはいえ、胸元を強く穿たれたんだ。思わず咳き込んで、血痰を吐き出す。
「いくらVRゲームでも、痛みは現実世界と同じかよ……。はぁっ……拳で胸を圧迫されたせいで息が乱れる……」
ルシファーに見つからないように民家跡地の壁に身を隠して、乱れた息を整える。
「冒険者、何処におる! 胸倉一発で終わりかッ!?」
ルシファーの声が聞こえたので、ちらりと壁の向こう側を一瞥すると、キョロキョロと探しまわるルシファーが近くに居た。
(マズイ……ルシファーが近くに居る。どうしよう……戦ってもいいが夏奈実くんが来るまで私の体力が持ちこたえられるのか?)
戦えるかどうか判断する前に自分の体力ゲージを確認すると、半分近くまで減っていた。
(……やめておこう。さっきの一撃で半分減ったんだ。次、また同じ技にやられたらゲームオーバーになりそう……。どうする……逃げよう! 夏奈実くんと合流しよう)
とりあえず、森の方へ逃げよう。それと、この甲冑使えないから捨てよう。
殴られた衝撃で壊れた甲冑を取り外して、私は咄嗟に夏奈実くんが向かった森の方へ逃げ込んだ。
「夏奈実くん……どこにいるのッ!」
私は息の乱れが収まらない中、足場が悪い森を駆け抜け夏奈実くんの名前を叫んだ。一体何処に居るの? 早く……夏奈実くんに会わないと、ルシファーの餌食になってしまう!
「夏奈実くん、夏奈実くんッ!」
どんどん奥へ進む。もう夏奈実くんを探すのと名前を叫ぶのに必死で、何処に向かっているのか分からなくなっていた。
「みーつけたっ!」
この声は――ルシファー! 気づかれていないと思っていたのに、もう気づかれた!?
「さーて、どんな風に調理しようかなぁー? 久々の魔力の糧がやってきたんだもん、美味しく作らないとね」
にたりと微笑みながら、サイコパスな台詞をさらりと言う。ヤバい……とにかく逃げないと……!
「きゃっ!?」
木の根に引っかかって、派手に転んでしまった。
「うっ……いたぁーっ……!」
やばい……急いでルシファーの視野から消えないと……!
「うぐっ……!?」
起き上がった瞬間、ずきりと鈍い痛みが両膝両肘に響く。痛みの元を確認すると、どうやら大きな擦り傷が出来ていた。
「きゃはっ! 鬼ごっこはこれでお終いかい?」
何時の間にルシファーが私の前に立って見下していた。急いで逃げないと……!
「うっ……あっ痛いッ!」
擦り傷の痛みのせいで、力が入らない……だと?
「どうやらギブアップのようね! それじゃ、調理開始!」
ヤバい……ヤバい……! ヤラれる! 嫌だ……VRゲームでこんな無残な最期を迎えるなんて……! 夏奈実くん……助けて! 夏奈実くんッ!
ルシファーは手にナイフを持ち、じゅぼじゅぼと古典的に殺そうと考えている。そして、ナイフを振り下ろして、私の体に刺さ――
「調理されるのはテメーの方だ、堕天使!」
――ガキン、と金属が砕ける音が響いた。ナイフが砕けて、繊細に輝く金属の欠片が幻想的に見えた。
「ごめん、アーシェを探すのに時間かかっちゃった」
くるりと私の前に立つ人影が私の方へ顔を向けた。この声、水色の着物は―――――――――――
「夏奈実くん!」と、水色の着物を着た人の名前を呼んだ。
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