アーシェとVR⑦(救世主登場!? 私を助けたヒーロー!)→脱臼オチw
「夏奈実くん!」
「大丈夫か、アーシェ」
ボロボロの姿の私を見て、心配そうに声をかける夏奈実くん。凛々しすぎてカッコいんですけどぉぉッ!!
「う、うん……大丈夫」
「そう……なら立てるか?」
夏奈実くんは私に向けて手を差し伸べる。私はその手を掴むと、グイッと引っ張って立ち上がる事が出来た。
「ほほう……! やっとお出ましか、もう一人の冒険者よ」
ルシファーは、最初から夏奈実くんの存在を知っていたかのような口ぶりを言う。どこで夏奈実くんの事を知ったんだ?
「どこから見ていたんだ、堕天使」
恐る恐る夏奈実くんは、ルシファーに問う。それもそうだ、一体何処で夏奈実くんの存在を知っていたのか……?
「なに、冒険者二人が二手に分かれているところから知っておったわい!」
なるほど……最初から、私たちの事を見ていたんだ。
「なるほどね。じゃあ、最初から俺達がやってくるのも予知したのか?」
「うにゃ……偶々、この村付近に寄ったらお主らを見つけたのじゃ!」
「へぇ……偶々ねぇー」
ずり……と、夏奈実くんは一歩後ずさった。なんで……?
「それで、我への質問はこれで終わり?」
「あぁ……」
夏奈実くんはこくりと頷いた瞬間、ルシファーはにたりと口を歪ませた。
「――なら、冒険者どもここで我の糧となるがよいッ!」
ルシファーは両手を上げた瞬間、じゅばっ……と呪文を唱えずに黒い稲妻を放った!
(な……何なの、あの黒い稲妻ッ! まさか……黒魔法の一種!?)
黒い稲妻を見た瞬間、アスタリア王国では禁忌されている黒魔法の事を思い出した。
少し説明すると、黒魔法は魔法発動時に黒く光る超強力な魔法だ。アスタリア王国の災厄を引き起こした邪竜を召喚する際にも使用されていたとされる。邪竜を二度と召喚しないようにアスタリア王国では黒魔法の使用を厳禁、使用が発覚した場合は死刑にする法律が制定された。
さて話を戻すと、ルシファーが使っていた黒い稲妻って黒魔法に似ている。
「危ないアーシェッ!!」
呆然と黒魔法の事を考えてしまい、目の前に襲い掛かる稲妻の事をすっかり忘れていた。その姿を見ていた夏奈実くんは、咄嗟に私を庇った。
「きゃっ!?」
「ぐっ……!?」
走っていて気が付かなかったが、ちょうど倒れる場所は斜面になっていた。
「おわっ!?」
夏奈実くんがうめき声をあげるのと同時に、私たちはそのまま斜面を転がり落ちた。ゴロゴロ……私の視野は夏奈実くんの胸にあるので、どこに転がっているのかわからない。一体どこまで転がるんだろう?
「ぐほっ……うッ!?」
ドカッ……と鈍い音が耳に響く共に、体の転がりが止まった。
「あがっ……っつ……、だ、大丈夫か? アーシェ……」
「う、うん……何とか……」
夏奈実くんの腕が緩み、私はゆっくり起き上がる。どうやら、斜面の終着点まで転がっていたようだ。それよりも夏奈実くんはッ!?
「うえぅ……いっつ……」
「夏奈実くん、大丈夫!?」
夏奈実くんの方に視線を向けると、額に汗を滲み出して苦痛な表情になっていた。その原因は、どうやら左手で握りしめている右肩の方にあるらしい。
「だ、大丈夫……右肩がちょっと外れただけだ」
「大丈夫じゃないでしょッ! 肩外れているんだよ!」
私は、すぐさま夏奈実くんの怪我具合を確認するために着物の右半分を脱がした。
「お、おい……このぐらい――」
「『大丈夫だ』って言わないでよね。肩の部分が真っ赤に腫れ上がっているじゃない」
とりあえず右肩を見ると、真っ赤に膨れ上がっていた。夏奈実くんには悪いけど、少し患部を触ってみよう。痛くしないように、優しく右肩の患部を触れる。
「いっつ……」
「ご、ごめん……痛かった?」
「ちょっとな……。とりあえず、肩の事を心配しなくていい」
「でも……」
しゅん……と悲しげな表情を浮かべて、夏奈実くんを見つめる。私が呆然とルシファーの魔法を見ていなければ、夏奈実くんの肩が脱臼する事無かったのに……。
そんな落ち込んでいる私の頭を夏奈実くんはポンポンと軽く撫でた。
「大丈夫だって、このぐらいの脱臼は岩とかで押し付ければ治るもんだで」
「そうなの?」
「まぁ見てなよ……簡単だからさ」
息を荒らげてふらつきながら立ち上がって、右肩を岩の方へ押し付けて体を寄りかかった。ぐりぐり……と回しながら患部を押し込み始めた。
「ぐっ……うぅゥゥゥッ!!?」
獣のようなうめき声を上げ、表情を歪ませる。そりゃ、無理矢理肩を入らせることをしているもんなぁー。なんでそこまで、痛い思いをして脱臼を治そうとしているんだろう?
「はぁ……はぁ……」
一旦、押し付けるのを止めてポケットからハンカチを取り出した。
「も、もう少し……だ。……よし、行くぞ」
取り出したハンカチを口の中に押し込むと、夏奈実くんはまた岩に患部を押し付けた。
「ぐぅぅぅぅっぅ!!」
ハンカチをぎりり……と噛み締める。コキコキ……カッコン……と、骨を鳴らす音が静寂な森に残響した。
「ふ……ふぅ……、肩入ったぁー」
ぐりぐりと脱臼した右肩をトレーニング感覚で回し始めた。
「だ、大丈夫なの……? 夏奈実くん」
「ん? おう、この通り――完全ふっか――つつっ……!?」
カッコよく右腕を上げた瞬間、呻き声を上げてまた右肩を押さえてしまった。絶対大丈夫じゃないでしょ……これは……。
「ちょっと……激しく動いたら、余計悪化するんじゃ……?」
私は夏奈実くんへ近寄って体の様子を伺った。正直言って、肩を無理矢理入れて動かす事が出来たのはいいけど、まだポッコリと膨らんだ腫れが残っている。
「夏奈実くん、少し休んだ方がいいんじゃ……堕天使・ルシファーの事は私が何とかするからさ……」
キョロキョロと身を隠せる場所が無いか探し始めようとした瞬間、夏奈実くんは私の手を掴んで止めた。
「大丈夫だよ……。ここでアーシェの足を引っ張る訳にはいかねぇーし……だろ?」
「だろ……って言われても、怪我しているんだから安静しないと……」
「安静なんてしていられるか……、決めただろ……アーシェは俺が守るって……」
私を守る……夏奈実くんがそんな事を言うなんて……。そうだ……村に着いた時に約束したじゃないか。アーシェは俺が絶対に守るって……そして私は言質を取ったじゃん。
「だから……アーシェ、俺の怪我にかまうな。一緒にこの窮地を乗り越えよう」
まるで勇者みたいなカッコイイ台詞を言う夏奈実くん。こんなカッコイイ台詞を言うくせに、なんでアスタリア王国の勇者を拒否するんだろう……? 未だに夏奈実くんが勇者になりたくない理由が分からない。
まあ、理由はともかく……脱臼しても肩を治す夏奈実くんの熱意は強い。言質取っちゃったんだし、それを裏切るなんて女神のレッテルを汚すようなモノだ。なら、私も夏奈実くんの熱意に答えなきゃ……。
こくりと頷き、私は夏奈実くんの手を取って答えた。
「わかった。言質取った私にも責任があるし……夏奈実くん、無理のない範囲で行こう」
「……うん、アーシェも無理のない範囲でやろう。最悪、逃げる事も考えておけよ」
「了解、夏奈実くん」
「よし……アーシェ、とりあえず森の奥へ行こう。近くに小さい廃墟を見つけたんだ」
「え、そうなの!?」
私は思わず、驚きの声を上げた。川沿いの方なんて小屋や大きな布は見つからなかったのに、森の方では見つかったの!? すごい……夏奈実くんの事、尊敬しちゃいそう。
尊敬を込めて、私はぱぁーとキラキラした瞳で夏奈実くんを見つめる。それを気づいた夏奈実くんは、私の眼差しをスルーして話を続けた。
「うん。ともかく一旦そこで身を潜めて、堕天使の討伐の作戦を練ろう」
「むぅーっ!! 夏奈実くん、今私のキラキラな眼差しを無視していたでしょ!」
「……とりあえず、グダグダ話していないで廃墟の小屋へ行こう。急がないと、堕天使がやってくるかもしれないからな」
確かに……夏奈実くんが言っている事はそうだと思う。もう近くにルシファーが居るかもしれない。見つかる前に小屋の方へ向かわないと殺されてしまう。
「うん、わかった。小屋の方へ行こう。案内して、夏奈実くん」
「あぁ……こっちだ、行こう」
夏奈実くんは小屋がある方向を指で指した後、ゆっくりと立ち上がって歩き始めた。
「いてててっ……まだ痛むな……」
「大丈夫……夏奈実くん?」
再び肩の痛みを感じて表情を歪ませる姿を見て、私は夏奈実くんの傍に駆け寄った。
「あぁ……大丈夫だ。とにかく小屋に行こう。こんな状況で戦ったら二人ともお陀仏になる……」
「うん……分かった」
私がこくりと頷くと、夏奈実くんは右肩を押さえながら立ち上がった。
「よし行こう」
右肩を押さえたまま夏奈実くんは小屋の方へ歩を進める。私も夏奈実くんの後を付いて行って小屋の方へ向かった。
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