アーシェとデート!?編④(まるで俺達の関係を表しているかのような恋愛映画をアーシェと一緒に見ました。 前編)

 アーシェの醜態を晒しまくった食事を終えた俺達は、冬風館の二階フロアにあるイロンシネマに居た。エレベーターを上がるとすぐに正面フロアがある。そこで映画チケットやポップコーンやドリンク、劇場限定物販などが販売している。

 オンラインで買った俺達は券売機で購入番号を入力して、チケットを入手。その後ポップコーンとホットコーヒーを購入し劇場入り口でチケットを渡した後、指定の座席に就いた。


「へぇー、アスタリア劇場みたいな感じなのね?」


 アスタリ劇場はどんなものか知らないけど、多分そんな感じだと思うぞアーシェさん。


「ねー夏奈実くんー! 上映開始前に買ってきたマンガ読んでもいい?」


「いいけど、ちょっと暗くて見づらいぞ」


「大丈夫、魔法で眼の光度を上げるから」


 眼の光度上げるって、それって大丈夫なのか? 光がまぶしくなって目が見えなくなるんじゃ……。まぁ、うん。アーシェの魔法の使用方法について考えるのをやめよう。映画見る前に頭痛になるわ。


「まぁ、大人しくしているなら何してもいいわ。ただし、変な事をするなよ」


「分かっているって、大人しくマンガ読むから」


「頼むよ……」


 あんまり信用していないけど、とりあえず大人しくしてくれるなら何でもいいや。


「そういえば、何のマンガ買ったの?」


 アーシェが質問する。「あぁ――」と相槌を打つ。


「今アニメで話題沸騰中の『魔導騎士(ベルムバンツェ)』のコミカライズの一巻と、舞台化が決まった人気青春ラブコメの『クロスロード・カンタータ』の小説三巻。ドラマCD化が決まった『表では自重します、表では。』のコミック全巻、SFラノベの傑作『SEED~地球の種子~』の最新巻。アニメ化決定のロボットファンタジー小説『符動鎧機アスラシオン』のコミック版の一巻と、『ラノベがすごい』で異世界ファンタジートップ5入りを果たしたTSファンタジー『底辺だった僕は魔女になりました』の小説最新刊、同じく『ラノベがすごい』でトップテン入りを果たした『どうやら主人公は付喪人のようです。』のコミック最新巻、決裂の鋼の最新巻を買ったよ」


 ペラペラと今日買った本のレシートをチラ見しながら、アーシェに伝えた。


「え、えぇ……そ、そんなに買ったの――というより、買ったタイトル全部言える夏奈実くんすごいね」


「まあな! コミオタの俺様にかかればこんなもんよ」


 エッヘンとアーシェに向けて威張った。まぁ、アーシェのか、彼氏として見栄を張らないとね……あはははっ。


「そうだね――とりあえず、本読むから」


 あっ……アーシェのヤロウ! 本の世界に逃げやがったッ! 俺のコミオタの力を見くびっている――って、ヒートアップしちゃダメだろ……ここは公共の映画館だぞ、騒いだら白い目で見られてしまう……。


(落ち着け……普通になるんだ。ここで騒いだらアーシェみたいに変人に思われてしまう……落ち着け、落ち着くんだ)


 息を吸ってヒートアップした感情を抑える。とりあえず、映画が始まるまでアーシェに声をかけるのは止めておこう。大人しくしているんだからね……。


「――――――――」


 正直言って暇だ。映画の上映開始十分前に入ったけど、やる事が無い。アーシェはマンガの世界にのめり込んでいるし……、スマホでも弄っているか。

 ポケットからスマホを取り出して、ロック画面を眺めて電源ボタン兼指紋認証のロックを解除した。ホーム画面が開き、俺はゲーム画面を――タップしなかった。


「…………」


 正直、ゲームやる理由が無い事に気づいた。期間限定イベントなんて無いし、ストーリークエストも全クリしちゃったんだもんなぁー。定期クエストなんてかったるくてやる気ないし……どうしよっかなぁー? アーシェと同じ映画が始まるまで買った漫画読んでよう。


(とりあえずアーシェが読んでいないマンガを読もう――何があるかな?)


 ゴソゴソと青色の袋から、適当に漫画本を取り出す。


(『表では自重します、表では。』の最新巻――)


 マンガの表紙を見る。リリィちゃん、やっぱりかわいいなぁ……。


(……あれ?)


 俺はふと作画の名前を眺めた。一巻の作画を担当した人と最新巻の作画を担当している人が違っている事に気づいた。そういえば、この作品ってコミック一巻出てすぐに作画担当の漫画家さんが病気で降板したんだっけ。その後、暫く月刊誌の連載を休載して……半年前に新しい漫画家さんがこの作品の作画を引き継いだんだ。


(どれどれ……新しい漫画家さんが描いたリリィちゃん、どんな風に仕上がっているかな?)


 表紙をパラリと捲って新デザインのリリィちゃんを眺めた。あぁ……可愛いよ、新しい漫画家さんが描くリリィちゃんって体つきがすらっとして、顔付きも可愛さを引き出すように少しシャープな形に変わっているなぁー。前の漫画家さんのも可愛かったもんなぁ……丸くて幼くて、天使のような……あぁ……いっぱいありすぎるわぁぁッ!


『イロンシネマへようこそ、先にご来場したお客様だけのお得な情報です――』と言う声が聞こえたのでスクリーンの方を見ると、イロンシネマの公式キャラクター『イロンちゃん』が現れた。このタイミングで始まるなんて、まさか……。ふと思い当たった事を思い出したのでスマホのロック画面に表示されている時計を眺めた。


(あ、もう三分前なんだ)


 イロンシネマの公式キャラ『イロンちゃん』が上映開始三分前に、あんまりこの映画館に来ない俺にとってお得じゃない広告を流すんだよね……。


(しかしまぁ、リリィちゃんのすばらしさを内心で呟いているうちに上映三分前になっていたとは――仕方がない。帰ったらマンガを読むか……)


 本を袋に戻して、俺は見てもしょうがない広告が流れるスクリーンの方を眺めた。


(あぁ……早く本編始まってくれぇ……、イロンシネマの広告なんていらないんだよ……。その後の予告編もなぁ……あんまり見たくない)


 あぁー早く終わってーって思っているうちに、広告の終わりが近づいてきた。


『まもなく上映時間になります。それでは映画お楽しみにくださいね!』


 はぁ……やっと広告終わった。次は五分のカミングスーンの予告編集か……。殆どネットで確認しちゃったから、見ても味気ないんだよなぁ……。


「おい、アーシェ。本編始まるからマンガ読むの止めろ」


 まだマンガを熱中して読んでいるアーシェの方に振り向いて、上映開始時間だという事を伝えた。「ん、わかった」と、相槌を打ったアーシェは読んだマンガを袋に戻してスクリーンの方に視線を向けた。


『今度の映画、結構ヤバいぜ――』


 今度秋に公開するアメコミ映画か……見ないけど。なんやかんやで予告編が終わり、本編前のイロンちゃんによる上映マナーの宣伝映像が始まった。


『はーい! イロンシネマへようこそ! ここから――』


 うん――イロンちゃん。足でシートを蹴ったりしないし、携帯の着信音を全部切っているし、物音を立てないようにすることはわかったよ。


『よーし、みんな! 映画の世界へ行ってらっしゃい!』


 ぱっぱらぱらぁぁぁっ~~という音楽が流れるとともにイロンちゃんの上映マナーは終了を告げた。そしてポップコーンとジュースのマスクをかぶった人が映画を鑑賞する映像が流れて数秒後、ぴょこんと現れた人影――そう映画館ではおなじみのアイツである。黒スーツ、頭にカメラ、パントマイムをキレッキレに踊る――映画泥棒の姿!


『劇場内での映画の撮影、録音は犯罪です。法律により十年以下の懲役、または一千万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。不審な行為を見かけたら、劇場スタッフまでお知らせください。NO MORE 映画泥棒!』


 最終的に映画泥棒は投光器のマスクを被った人に捕らえられてしまった。そして映画泥棒たちはフェードアウトし、本編が始まった。


 トゥデデンデンデデンデン~~ドゥン~~ドゥデーデーデン~~という音楽と共に『ワーナーブラザーズ』のロゴが映し出された。この映画って、海外配給なんだ……。そうだ……俺この映画の事、何も分からない。ストーリーも人物も原作も……まぁ、うん。気楽に見てみよう、映画なんて基本予備知識なんて要らないんだからさ。


『はーい、やっと『自堕落な恋』が公開したね! ゆいちくん!』


 ヒロインの声が聞こえる。ひょこっと現れるかと思ったら、自宅だけのワンシーンがただ流しているだけだった。これって、某アニメで有名な『BGMオンリー』と言うやつではないか? 金銭的に無かったら、BGMと一枚絵で尺を稼ぐ……ある意味、業者の闇を感じるんだが。


『あぁ、そ、そうだな……レイシア。今回が初アニメ映画になった――っておぉい! なんで俺の家の玄関が流れているんだよぉぉぉぉぉッ!!』


『え? なんでって? そりゃ、ゆいちくんの家をお披露目できるチャンス――』


『んな訳ねぇぇだろぉぉぉぉッ! 俺の家が世界中に知れ渡っちゃうんだよぉぉぉッ! クソみたいな部屋を見せたら――あぁ、俺えぇぇぇッ!!』


『大丈夫大丈夫、私たちの物語はフィクションなんだからさ。住所も架空なんだよ』


『物語の登場人物が、全部架空だっていう事を言っていいのか……?』


『まあまあ、初の映画化だし! 気楽にやっていこうよ! さーて、来年の『自堕落の恋』――ぶほっ!?』


 バゴッ……とレイシアの腹を殴る効果音を出すゆいちくん。


『勝手に終わらせてどうする! それに来年はやるかどうかも分からないんだぞ!』


『そうなの? 私はてっきり、製作委員会からそんな話聞いていたんだけど……』


『こんな公の回で、そんな事言う訳ないだろ!』


『えぇ……じゃあ、来年の第二弾の告知……』


『第二弾はありません。これは確実ですよ、レイシア』


『うぅ……じゃあ、今回の映画出ない』


『ダメに決まっているだろ、折角ご来場してくださったお客様に失礼だろ! あ、ゴホン……お見苦しい所をお見せして申し訳ございません! それでは、『自堕落な恋』どうぞお楽しみください!!』


 とりあえずBGMオンリーの場面を終わらせようと、ゆいちくんはいい感じのまとまったセリフを言う。その後、ブラックアウトになった状態でレイシアは『勝手にまとめるんじゃねぇー! 私は映画に――』と出ない事を宣言しようとしたが、尺を取りすぎだった為後半の音声がシャットアウト――


 トゥデデンデンデデンデン~~ドゥン~~ドゥデーデーデン~~という音楽と共に『ワーナーブラザーズ』のロゴが再び映し出された。これは仕切り直し……と言う感じで流したのだろうか……? まぁ、これでやっと本編が始まる――一体どんな恋が描かれるのだろう……。


 後編に続く――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る