アーシェとデート!?編③(そばと言う食べ物に感動しました)

 恋人繋ぎで秋風館の3階にあるフードコートに向かった俺とアーシェ。そこで昼食を取ることにした。丁度お昼時だからフードコートはお祭り騒ぎみたいに人混みしていたので、並ぶ時間が短かったセルフ信州そば屋のざるそばを頼み、人混みの中で満席状態のテーブルから空席を見つけてドスンと座る。


「はぁ……やっと座れた」


「ほんとね……蕎麦屋から結構遠くなっちゃったけど……もう少し近い席って無かったの夏奈実くん!」


「文句言うなアーシェ。座れただけでもマシだと思え」


「へーい……あぁ、これ返すのめんどい」


 アーシェはお盆を見つめながら、ぶつぶつ口を言ってくる。確かにセルフ式の飯ってお盆を返すの面倒くさいよ。けどね、それがセルフの食事方法なんだよアーシェ。

 なんてセルフ式の素晴らしさ(?)について内心で呟きながら、アーシェに向かって嫌味を言った。


「じゃあ食べるな」


「嫌だ」


「じゃあ、文句言うな」


「はいはい……」


 そう言って、アーシェはズルズルッとそばを啜った。そして突然アーシェが昇天した。


「う、う……うまぁぁぁぁっ!?」


 そうかそうか、蕎麦うまいか。信州人の俺は親しんだ味だから、普通にスルルッと啜って食べる。一定に切っているのも悪くないが、最初と最後の端の少し太めの麺も美味しい。ちょっとコリコリとした触感がたまらないんだよな……。


「なにこれっ! 蕎麦ってこんなに美味しいものかしら!?」


「アーシェって蕎麦って初めてだっけ?」


「うん、初めてだよっ! あぁっーそばの芳ばしい香りとつるっとしたのどごし……新触感だぁぁぁっ!」


 ……時々思うけど、アーシェって食レポうまいよな。これだったら、食レポアナウンサーとしてデビューできるんじゃね?


「だろ、信州そばは他のそばよりつるっとしたのどごしと香りがいいからな。この世界じゃ信州そばを知らない人なんていないぜ」


「あふぅぅぅぅぅっ!? つるるるっとのどを通っていく麺の触感が爽快じゃぁぁぁぁっ! それと蕎麦の芳ばしい香りが私の鼻腔を溶かそうとしてくるぅぅぅぅぅぅっ!?」


「にやぁぁぁぁっ」と晴れやかな表情をしている。あ、これは某料理マンガでうまい時に一瞬だけ素っ裸になるシーンになるのでは……。


「あふぅぅぅぅぅっッ!? 最高ぉにうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」


 ピカピァーンと言う効果音と共に背後から光を放ち、アーシェは色っぽい表情になりながら私服を引き裂いた。(イメージです)


 す、素っ裸になりやがったッ! 興奮するぐらい美味しいって現すのに、体を光らせて素っ裸になる必要ある!? (あくまでイメージです)


「なにこれぇぇっ!? これやばぁぁぁい!! 麺ののどごしが癖になっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


 うねうね……と、体をワカメみたいに揺らして昇天するアーシェさん。いい加減やめてくれませんかね……周りからの視線が痛いほど見つめてくるんですよ。アーシェさんって、美人で外国人の容姿だから注目の的になっているの。そこにうねうねと体を揺らしたらもっと注目されるんだよ……変な人だなと言う視線が!


「って、内心で説教してどうするんだよ。直接言わなきゃアカンだろ」


「ん? どうしたの夏奈実くん」


「アーシェ、変な動きするのをやめろ。周りを見てみろよ……お前を嬉しそうに眺めている人がいっぱいいるぞ」


「え、マジ?」


「うんマジ」


 オウム返しに言った後、アーシェを見る人たちに向けて睨み付け、「シッシッ」と追い払った。


「うわわわっ! は、恥ずかしいぃぃよぉ……ッ!」


 頬を赤らめた後、両手で顔を隠した。恥ずかしいって言ったって、もう遅いわ。アーシェの食事のリアクションがフードコートにいる人たちに知れ渡ったぞ。それに、カメラで動画を納めている人だって居たし……これ、絶対SNSの拡散確定だな。


「まぁ、うん……ドンマイ、アーシェ」


「ドンマイじゃないよぉッ!」


 わーんっ!と泣き叫ぶアーシェさん。あぁ、やめてくれ! お前の純粋なバカ行動で俺まで恥ずかしい思いするんだよぉぉぉッ!


 ――ブーッ、ブーッとスマホのバイブレーションが耳に響いた。一体誰だろう、こんな時間に電話する相手なんていないぞ?

 スマホをポケットから取り出して、画面を見る。それには『さやちー(沙耶)』という名が表示していた。


「沙耶……あっ!? やべぇ……アイツの事すっかり忘れていた」


 すぐさま通話ボタンを押して、沙耶の電話に出た。


「もしもし、沙耶?」


『あ、お兄ちゃん? 今どこ?』


「秋風館のフードコートにいる。アーシェも一緒に居るぞ。と言うかお前今どこにいるんだ?」


『春風館のⅩ&Zと言う服屋さんに居るよ~~。あ、そうそう新しいズボンを買って裾上げしてもらったんだけど、三時間ぐらいかかるって言うの』

「――は? 三時間? なんで?」


『十五着ぐらい買って全部私仕様の裾上げが全部完了するのにそのぐらいかかるって店員が言っていたの』


「――買い過ぎだ、バカ」


 沙耶に向かって軽蔑な言葉を放って速攻で通話を切った。なんで切ったのか――沙耶の服への執着が異常すぎて呆れたわ。ちょっと前にも大量の服を買って親に怒られたばかりじゃないか。もう忘れたのか――あのバカ。


「はぁ、どうしよ。そういや今何時だ?」


 スマホの画面に表示されているデジタル時計を見る。十二時五〇分……沙耶が言っていた待ち時間は三時間――一六時前ぐらい掛かるな。さて……沙耶が買ったズボンの裾上げが終わるまで、俺たちはどうしようか?


「電話誰だったの?」


 先ほどまで蕎麦という食べ物の感激(?)ポーズをとっていたアーシェが、普通に落ち着いた姿で質問してきた。子供からいきなり大人に変貌の切り替わりが早いわ。


「沙耶だ。ズボンの裾上げに時間かかるから待ってくれだと」


「どのくらいかかるの?」


「三時間だってさ。どうしようかな……沙耶の裾上げが終わるまで結構時間あるぞ? どう時間を潰すか……」


 参ったな、ゲーム買ったら帰ろうかと思ったけど、これ以上よるところ無いぞ? どうしようかなぁー?


「どこ行こうかなぁ? もう一回委託販売店でエロゲ探してみようかなぁ?」

 アーシェが悩みながら言う。その姿を見て俺はふと出かける前の事を思い出した。

 あ、そうだ。エロゲトークですっかり忘れていたけどこういう時こそ、アーシェとの距離を縮めるチャンスなのでは? そうじゃん……折角二人きりになったんだから、このモヤモヤした気分を晴らすいい機会だ。沙耶よ――お前はバカだけど、時間を作ってくれてありがとう!


「なぁ――」


「ねぇ、夏奈実くん」


 俺がアーシェの名を呼ぶ。それと同時にアーシェもはもりながら俺の名を呼んだ。


「「あっ……」」と俺とアーシェは同時に声をあげた。


「さ、先にどうぞ、夏奈実くん」


「いやいや、アーシェが先に言ったんだからどうぞどうぞ」


「――じゃあ、夏奈実くん」とアーシェが先陣を切った。


「なんだ?」


「えっと……その……夏奈実くん」


 もじもじと恥ずかしそうな表情で何かを伝えようとするアーシェさん。

 え、なに――そんな初恋の人を見つめるような初々しい表情は……? まさか、もう一回告白するんじゃ――その事を期待した俺はごくりと固唾を飲む。


「わ、私とその……一緒に映画見たいの!」


「え、映画? 何の?」


 予想とは違えど、アーシェが一緒に映画を見に行こうと誘われた。口ではポカンとはてなマークを出しながら言っている俺だが、内心で「来たぞこれーッ! ついにラブコメマンガみたいな展開が俺にも到来ッ!」と発狂しまくっていた。


「えっと……その、隣の冬風館にある映画館で『自堕落な恋』の映画を見たい」


「やっていたっけ? あそこの映画館――ちょっと調べてみるか」


 ポチポチとスマホで検索して、この映画館の上映スケジュールを確認する。『自堕落な恋』……あった、ここの映画館上映している。えっと……時間は一三時一五分から一五時までの上映か。よし、やっているからこれ見るか。


「アーシェ、その映画ここでやっているよ。時間は一三時十五分から始まる」


「え、やっているの!? うん見る!」


 アーシェの了承得たところで早速チケットを予約しよう。


(とりあえず、チケット予約――)


 チケットオンライン予約画面を開き、一三時一五分上映開始の『自堕落な恋』の座席画面を見る。


(えっと空いている席は――ちょうど二席分ある。隣席でいいだろ――)


 ポチポチ……と座席を選択、お支払いはQRペイ決済でオッケー。よし、チケットの予約完了!


「アーシェ、チケット取っておいたぞ」


「え、もう!? 早くない!?」


「オンラインで取ったんだよ。少しだけアーシェと――食……」


 食事を楽しみたい――って言おうとしたが、途中から声をぐもってしまった。

 なんでだ? いつも通りに俺で接しろよ。でも、よくよく考えてみたら沙耶以外で女性と食事と映画を見るなんて無かったから? まぁ、いいや理由なんて別に言わなくても。


「最後何言ったの、夏奈実くん」


「い、いやなんでもねえよ」


「そ、そう――あ、ありがとう夏奈実くん。それじゃ上映開始時間になるまでどうしよう?」


「まぁ、あと一五分だしそば湯飲んだら行くか」


「そばゆ……? そば湯ってなにぃ?」


 アーシェがピュアな瞳で俺を見つめて質問する。


「あぁ……うん、そば湯って言うのは――」


 ちょ……アーシェさん、ピュアな瞳で俺を見ないでぇ! めっちゃ可愛いのよぉぉッ! 俺の心臓が破裂するぐらいドキドキしちゃうんだからッ!


「そば湯と言うのは――?」


「そば湯と言うのはな、そばをゆでた時に出る残り汁だよ。それにざるそばに付けた後のつゆに注いで飲む。これがめっちゃ美味しいんだよ」


「え……異常にしょっぱいこのめんつゆを飲むの?」


「飲むの。まぁ、口で説明するより実際に飲んでみた方が早いな」


 席を立ち、数メートル先にあるセルフ蕎麦屋に向かう。レジカウンターの隣にある薬味コーナーに置いてあるそば湯が入った小さいポットを持って席に戻った。

 ポットを片手に持ち、めんつゆが入った容器にそば湯を注いだ。そばの成分が染み込んだ、混じりの無い白濁の色とそばの香りが鼻孔をくすぶらせた。


(あぁ……いい香り。これならアーシェにも好きになれるぞ)


「アーシェ、めんつゆ寄越して」


「うん」


 アーシェからめんつゆが入った容器を貰い、そば湯を注いだ。


「ほれ、飲んでみ。めっちゃ美味しいから」


 アーシェにそば湯入りのめんつゆ容器を返した。


「う、うん――」


 さて、俺も飲もう――ゴクリッ……。うん、うまい。鰹節が効いためんつゆとそば湯をかけあわせるとまだそばを食べているかのような美味さが口に広がるんだよな~~。あと、後味のワサビが舌を虐めるかのようにピリッときて癖になる~~! これだよ、俺好みのそば湯だ。

 アーシェは、そば湯を飲んでいったいどんな反応するのかな? 俺はアーシェの様子を眺める。恐る恐る激辛ジュースを飲むようにちょびちょびと飲み始める。


「どうだ、アーシェ。うまいだろ?」


 アーシェに問いかけると、顔を下に向けてコトンと容器を置いた。


「――アーシェ?」


 あれ……しょっぱかったか? それとも不味かったか? 


「な、なにこれぇぇッ! お、美味しいいいッ!! めんつゆとそば湯がめっちゃあうぅぅぅっ! めんつゆの鰹節が最初にやってきて、その後にまろやかなそばの味がやってくるぅぅぅぅぅっ!! こ、これは私の中では新感覚だぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「はははっ……それはよかったな。それとアーシェ、頼むからその食レポするのは家だけにしてくれ……」


 また俺達の方に向けるお客さんの視線が痛い。もう何度辱めを受けないとならないんだ?


「きゃぁぁぁッ! 本当にうまぁぁぁぁいッ! 私、昇天しちゃぅぅぅっ!!」


 ――って、俺の話聞いていたの!? それともまだそば湯の至福のひと時の空間に閉じこもっていたの!? 頼むからやめてくれ! 

 ただでさえお前は目立つ美人キャラなのに、変な声を出すともっと目立っちゃうんだよ。俺は目立つことが嫌いなんだから、空気読んでくださいよアーシェさん。


「そば湯美味しいいい! おかわりしよッ!」


 そう言ってルンルンと鼻歌を奏でながら、そばつゆを注ぎに向かって行った。


「はぁ……ラノベ主人公の食事デートってこんな感じで過ごしているのかな? もう、アーシェと食事デートなんてしないぞ」


 もう二度と食事デートはしない――そう誓った俺だった。早く食べ終わってくれ、映画上映まで時間ないんだからさ。

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