アーシェとデート!?編⑫(デート終了、お疲れ様!)

 ――イベントを終えてレイベルさんと仲間たちに別れを告げてから三〇分後、俺達は裾上げを終えて紙袋を大量に持っている沙耶と合流した。

 けど、合流した時の沙耶はとても不機嫌なご様子だった。理由を聞くと、俺のスマホに何度もコールしたのだが全然出なかった事に苛立っていたらしい。

 出なかった……と聞いた瞬間、スマホを開くと沙耶からの不在着信が……よ、四〇件も来ていた。


「ご、ごめん! ちょっとアーシェと一緒にイベントに参加していて出られなかったんだ!」


「そうなの! コスプレイベントに参加していて……本当にごめん、沙耶ちゃん!」


 俺とアーシェは、コスプレイベントに参加した事を説明してペコペコとむすっ……とした表情をしていた沙耶に謝った。


「むぅ~~私抜きでコスプレ撮影会に出るなんてぇ~~! 私、抜けものみたいな感じぃ~~!」


 どうやら、コスプレイベントに参加できなかった事に対してふてくされているみたいだ。


「抜けものとコスプレイベントの話は置いといて――沙耶、この大量の紙袋はなんだッ!! 何着買ったんだッ!?」


 俺は沙耶に向けて怒鳴りつける。


「えっとぉ……その――さっきのズボンを含めてぇ――」


 沙耶は俺の視線を逸らしながら、ひーふーみ……と数え始めた。おいおい……一体何着買ったんだ? 女子高生のモデルでも、こんな大量の衣服を購入しねーよ!


「――その、一五着です……はい」


 指をツンツンと突っついて、沙耶は正直に答えた。


「――――」


 またかと思って黙り込んだ。はぁ……なんでこんなに大量の服を買うのかねぇ……? 俺なんて四着だけあれば十分だと思うぞ。ほんと、お洒落にこだわる女子の気持ち――全然分からない。


「そ、それで……その――お兄ちゃん、この事は父さん母さんには黙って――――」


「――ダメだね」と、ジ○○ョ風にダメと伝える。


「うええええええええええええええええええん!! やめてぇぇぇぇ! これ以上小遣い減らされたら可愛いお洋服買えなくなちゃうぅぅぅ!!」


 子供のようにわんわんと泣き喚き始めた。そして、やめてと訴えるように俺の体にぐっと抱きしめた。


(や、やめぇ……恥ずかしい――そ、それよりも沙耶の腕力が……ぐげげげ……こ、腰の骨がぁ……)


 周りの氷を触れているかのような冷たい視線と沙耶の締め付けというダブルの奴が、俺に襲い掛かっている。あぁ……仕方がないッ! 甘やかすなって何度も何度も誓ってきたのに……こんな恥ずかしい事を止めさせるにはこれしかない。沙耶の腕力では、自力で抜け出すことは無理だからな!


「分かった、分かった! 言わないから抱きしめて訴えるのを止めろっ! く、苦しい……ッ!!」


「えっ!? ほんと!? やったぁぁッ!!」


 沙耶は腕の力を緩めて、喜びの表情を浮かべていた。


「はぁ……はぁ……く、苦しかったぁ……ッ!」と、緩んだ隙に抜け出してばたりと地面に倒れ込み、乱れた息を整えた。


「全く……沙耶の腕力には敵わねぇ……」


 何度も何度も親に服の事を伝えるって言うと、きまってむぎぃぃっ……と抱きしめるんだよな。プロレス技みたいに、殺しにかかるような腕力でッ!


「大丈夫? 夏奈実くん……」


 アーシェは、倒れた俺の姿に心配そうに寄り添った。


「う、うん……大丈夫、慣れているから……」


 よっこらしょ……と立ち上がり、パンパンと手に付いた砂埃を掃った。


「二人とも、遅くなる前に帰ろう。下手すりゃ渋滞ラッシュに巻き込まれちゃう」


「だね……」とこくりと頷くアーシェ。


「そうだね、早く帰って荷物を部屋にぶち込んでおかないと……」


 ビクビクと紙袋を持った手を震えながら、沙耶はそう言った。そんなに父さん母さんに知られたくないなら、大量に買うんじゃねーよ! と、沙耶に向けて内心で突っ込んだ。


「さ、帰ろう。沙耶、紙袋持つよ」


「お、サンキュー! お兄ちゃん!」


 沙耶は嬉しそうにドサッ……と紙袋を俺に押し付けた。言い方が強引だけど、押し付けているんだもん!


「うぅ……重いッ……!」


 ずっしん……ずっしん……と音を立てながら歩き始めた。


「あぁ……重い。こんなに買うなよ……服――」


「夏奈実くん、少し持とうか?」と、アーシェは俺の負担を減らそうとそう言った。


「あぁ、大丈夫。このぐらい平気だよ」と、まるでダンベルを持つように腕を上げて大丈夫だと伝えた。流石に女性に荷物を持たせるなんて彼氏として恥ずかしい行為だしな!


(――彼氏……か)


 なんてアーシェの横顔をみて、ふふっ……と微笑んだ。俺がアーシェの彼氏……悪くないかもな。そういや、出かける前に起こったモヤモヤもアーシェと一緒に居るうちに蝋燭の火みたいにふっと消えている。何故だ……アーシェと一緒に居たからか? 


「まあ、いいか……俺はアーシェが好きだって事だな」


 なんでアーシェが俺の事を好きになったのか……という考えを止めた。難しく考えたって結局は好きという答えにたどり着くし、その……結果オーライって事でいいんじゃないか! うん、そうだもんね!


「どうしたの? 夏奈実くん、なんか嬉しい事でもあった?」


 アーシェはグイッと俺の顔に近づいて問いかけてきた。


「――――」


 少しの間、アーシェの顔に見惚れた。何気ないただの微笑んだ顔なのに、それが俺の目には美しく可愛い彼女に見えた。加工写真とかで見る可愛い女の子ではなく、ありのままの素顔の女として。

 そして何より、彼女と一緒の生活が嬉しく思えた。ゲームばっかりやって、勇者になってーってしつこく言って、わぁぁんと駄女神っぷりを見せる姿に呆れて……そんな破天荒な生活が最近になって普通に見えてきた。


「――あぁ」と、アーシェの顔を見てそう答えた。俺はアーシェが居るから嬉しいんだ。時々めんどくさい破天荒な事あるけど……。


「おーい! 何しているのぉ~~!? 早く帰らないと渋滞になるってお兄ちゃん言っていたでしょぉぉ~~?」


 先に進んでいた沙耶が手を振りながら、ノロノロと歩く俺達を呼んでいた。


「分かっているわい!」と、大声で突っ込んで沙耶を追いかけた。


「待ってよぉ~夏奈実くぅぅん~~!!」と、アーシェも俺の後を追った。



 ――こうして、アーシェ(プラス沙耶)とのデート(?)は終わりを迎えたのであった。


 まあ、色々あったけど……コスプレ姿のアーシェを拝めることが出来てよかったですぅ~~ハスハス!!

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