アーシェとデート!?編⑪(コスプレ撮影会のVIP賞の発表! VIP賞は誰の手に!?)


「皆さま、本日はコスプレ撮影会をお楽しみいただけたでしょうかッ!?」


 開催式の時に司会をしていた男装女性アナウンサーがステージに立って、ステージの前に立つ観衆に向けてマイクを突き出した。


「「「「ハスハスぅ!!」」」」と、楽しかったぞと伝えるかのように声を上げた。


「夏奈実くん、楽しかったね」


「あぁ……楽しかったな」と、同じ意見でこくりと頷く俺とアーシェ。


 本当に楽しかった。コスプレするのは初めてだった俺達もヲタクやカメラマンたち、レイベルさんのおかげで緊張する事無く楽しめたと思う。


「それではっ! コスプレ撮影会のラストを飾るVIP賞の発表に移りたいと思います! 果たしてVIP賞を手にするのはいったい誰なのかッ!! 投票はコスプレ店横に設置しておりました投票用紙を元に上位五名のランキング形式で発表させていただきます!」


(い、いよいよ……か。一体誰がVIP賞と言う頂に立つのか!?)


 うわぁ……ドキドキする。参加していないけどドキドキする。とりあえず、人ってランキングや当落発表の時ってドキドキするよね。


「撮影タイム終了十分前に開始した集計ですが――そろそろ終わる頃だと思います……」


 まだ集計中だったのかよ……とツッコミをすると、スタッフがアナウンサーに紙を手渡した。多分、ランキングの集計結果が出たんだろう。


「はい! たった今集計が終わりました! それでは第五位から発表させていただきます! 第五位は――――」


 デレレレレレレレレレレレレ……ッ、と軽快なドラムが響く。そして二階に設置したスポットライトがぐるぐると回転している。まるでサーカスのフィナーレを飾るマジシャンが登場したような、そんな緊迫した雰囲気が会場を包み込んでいた。


「第五位――――エントリーナンバー八番・メイケルさんです! おめでとうございます!」


 バーンとスポットライトがある方向に照らし出した。それはラ○○○ブの〇里のコスプレをした女性だった。第五位とはいえ、ランキングに入った事に涙を溢していた。


「あ、ありがとぉぉ……みんなぁぁ~~五位になれたよぉぉ」


 メイケルさんに向けて、パチパチパチパチ……と拍手が会場を鳴り響く。


「メイケルさん、おめでとうございます! それでは第四位の発表です!」


 また、デレレレレレレレレレレレレ……ッ、と軽快なドラムが響く。そしてスポットライトがぐるぐると回転していた。先ほどの発表前と同じく緊迫した空気が流れる。


「第四位は――――エントリーナンバー一九番・サチコさんです! おめでとうございます!」


 デーンとスポットライトが止まり、第四位のサチコさんに一筋の光が降り注いだ。艦〇れの〇風のコスプレを着た女性だった。その人は涙ではなく万歳三唱を上げて喜んでいた。


「ファンのみんなぁ~~ありがと~~私、四位になったよぉぉぉ! 今日終わったら打ち上げパーティーしようと思っているけど、参加したい!?」


「「したいでござるぅぅ!! ハスハス!」」


 ギャルの口調でファンに問いかけるサチコさん。そしてヲタクとカメラマンは一心同体になって行きたいと答えた。まあ、俺は金欠だから行かないけどね。


「サチコさん、おめでとうございます! それでは、遂にトップ三の発表に移りたいと思います! 果たして……誰が一番になるのかッ! それではぁぁぁ~~と、その前に一旦CMに入りまーす!」


 ずごぉぉぉっ……とステージ前に立つ人たちが一斉にずっこけた。ここが一番の見せどころでしょ!? なんでテレビが無いのにCMが入る訳ッ!? ホワイ!?


「「ハスハスッ! CMで尺を稼ぐなでござるぅぅぅぅぅ!」」


 アナウンサーに向けて、クレームをぶつけるヲタクとカメラマンたち。確かにその通りだ。こんなタイミングでCMを流すなんてどうかしている。いいところに来てCM入る……再開してすぐにCM……と尺を稼いでいるような――そんな感じのイライラがこみあがってきそうだ。


「――――それではCM後、会いましょう!」


「「おいふざけるなでござるぅぅぅぅぅぅっ!!」」とヲタクとカメラマンたちはクレームをアナウンサーにぶつけるのであった。



       ※



「さーって! CMが開けたので第三位の発表に移りたいと思います!!」


 またまた、デレレレレレレレレレレレレ……ッ、と軽快なドラムが響く。そしてスポットライトがぐるぐると回転していた。先ほどの発表前と同じく緊迫した空気が流れる。


「第三位は――――エントリーナンバー二一番・キノシタさんでーす! おめでとうございます!」


 スポットライトが止まり、第三位のキノシタさんの方に光が降り注ぐ。キ○○リのコスプレをしたキラキラ輝くイケメンの男性だった。髪をかき上げて、キラリンっ……と白い歯を見せびらかす。


「ありがとう。子猫ちゃん達、君のハートにバキューンッ!」


 古臭いイケメンが放つ言葉に男どもは冷たい眼差しでキノシタさんを睨んだ。俺も冷たい目で睨みつける。逆に女性たちは「キャーッ!」と嬉しい悲鳴を轟かせていた。


「へ、へぇ……これが男女の温度差なんだ……」


 アーシェはイケメンに目を向けず、キョロキョロと観客たちの様子を伺っていた。


「チッ……子猫ちゃんとか古くせんだよ……なんだよ髪をかき上げてよぉぉ~~? バキューンって、そんなんで心臓撃ち抜けるわけねーだろ……クソクソクソクソ……イケメンは滅ぶべしッ! イケメンなんてロクな奴しかいねーよッ! チャラチャラした格好で人気になるし、陽キャだし、ティーンズラブでは俺の中に抱かれてみないかって何かムカつくセリフをサラッと言いやがって……マジで許せねぇわ。イケメンなんて外見がよくて、中身は腹黒いモンスターなんだからよ。いい加減気づけよ、モンスターだから近づくなってさぁぁぁ………クドクドクドクド――――」


 俺は呪文のような陰口をキノシタさんにぶつけた。イケメンであるある仕草――髪をかき上げるのを見ただけで反吐が出る。冴えない顔つきで頑張っているのに、イケメンだからと言う理由で簡単に女性を落とすなんてふざけるのも大概にしろ! 


「か、夏奈実くん……!? ど、どうしたの――そんな怖い顔で呪文を唱えているの?」


「覚えておけよ、アーシェ。イケメンって言うのは毒牙が付き物なんだ。むやみに近づくと――剥ぎ取られるぞ。身も心も――ね」


「毒牙……ねぇ……イケメンってそんなものだったかなぁ~~?」


 なんてアーシェは首を傾げた。まぁ彼女は知らないけど、俺は見た事があるんだ。毒牙に蝕まれた女性の虚ろな表情を……。痣だらけで、怪我をしていた姿――思い出したくない。

 まあ、この話は全部映画のフィクションのお話なんだけどね。


「キノシタさん、おめでとうございます! それでは第二位の発表です!」


 ドォン……デレレレレレレレレレレレレ……ッ、と軽快なドラムが響く。そしてスポットライトがぐるぐると回転していた。先ほどの発表前と同じく緊迫した空気が流れる。


「第二位はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! エントリーナンバー二七番・みやにゃんさんです! おめでとうございます!」


 スポットライトが止まり、第二位のみやにゃんさんの方に光が降り注ぐ。リ〇ロの〇ムのコスプレをした女性だった。そしてあの名シーンを真似るように、彼女はポロリと涙を溢しながら『嬉しいです……ありがとうございます』と言った。

 みやにゃんさんに向けて、パチパチ……とめでたい拍手を送った。


「ありがとうございます……皆さん……一位には届かなかったけど、二位になれたことに嬉しく思います……本当にありがとう! みんなぁぁぁ!!」


「「おめでとぉぉぉぉぉぉぉ!! みやにゃん~~ハスハス!」」と、ヲタクたちは涙交じりに拍手喝采を送っていた。


「みやにゃんさん、おめでとうございます! そして第一位――VIP賞の発表となります! 果たして三〇組の中からVIPになるのはいったい誰なのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! それでは発表させていただきます!!」


 ドォン……デレレレレレレレレレレレレ……ッ、と軽快なドラムが響く。そしてスポットライトがぐるぐると回転していた。先ほどの発表前と同じく緊迫した空気が流れていた。


「第一位――VIP賞に輝いたのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! エントリーナンバー一番・アーシェ・葵・アーガリアさんです!! おめでとうございますぅぅ!!」


 バーンッ……とスポットライトが止まり、隣のアーシェに一筋の光が降り注いだ。


(眩しっ……)と、スポットライトの光を直視してしまって手で光を遮る。ゆっくりと目を開けると、アーシェは呆然とした表情で俺の方を見つめていた。


「か、夏奈実くん……わ、私……が……VIP賞を――取っちゃったよ? や、や、や、やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 VIP賞を取れた事に対して喜びを爆発したアーシェは、俺に飛び掛かるように抱きついてきた。


「のわっ!?」と、俺はアーシェの飛びつきにバランスを崩して床にばたりと倒れ込んでしまった。


「あ、アーシェ……お前なぁぁぁ!」


「だ、だってぇぇぇ! 嬉しいんだもぉぉん!!」


 わぁぁぁん……と泣き喚き始めたぞ。嬉し泣きだろうな……この泣き面は。だって、メイク崩れているけど、「アハハッ……あああん!!」と言いながら喜んでいるもん。


「――おめでとう、アーシェ」


 ポンポンとアーシェの頭を優しく撫でる。これは些細なお祝いだ……と思いを込めてね。


「それでは、VIP賞のアーシェさん! ステージに登壇してください!」


 アナウンサーがアーシェを呼んだ。まだ泣いているアーシェに俺は「ほら、ステージに行け。大丈夫だ」と勇気づける言葉を送った。


「う、うん……夏奈実くん」


 こくりと頷き、アーシェは涙を拭って「はい!」と声を張り上げながらステージの方へ登壇した。


「VIP賞おめでとうございます、アーシェさん! 今のお気持ち、どうでしょうか?」


「は、はいっ! み、皆様のおかげで、VIP賞をと、取る事がで……出来たと思いましゅ!」


 アーシェの奴、舌を噛んだな……。でも、最後の「ましゅ!」のセリフ……心臓が飛び出るほど可愛かったぜッ!


「「「ハスハス! 噛み噛みの口調、可愛いでござるぅぅぅぅぅ!!」」」


 俺と同じ気持ちのヲタクたちがオタ芸をしながら、アーシェに向けて「可愛い」と伝えていた。


「あ、ありがとう……み、みんなぁぁ……」


 アーシェは苦笑いをしながら、観客たちに向けてお礼の言葉を言っていた。多分、ヲタクやカメラマンたちのオタ芸にびっくりしちゃっているみたいだな。アーシェの奴、体がブルブルと震えているし。


「それでは、これよりイベント主催者の○○店の井出店長より、表彰と好きなコスプレ衣装の引換券、副賞の二万円の贈呈式を行います! 井出店長、よろしくお願いいたします!!」


 アナウンサーが井出店長を呼んだ。そして、ステージの隣から鉢巻をした髭が濃いおっさんが現れた。なんか、見た目からしたら大工さんと言うイメージが強いな……この井出店長さんは。


「あーどもども、主催者の井出でございまぁ~す! なんかね、えぇ、周りのみんなは俺っちの事『大工さん?』って呼ばれているんですよ。見た目が悪いんっすかね? 一応ここではっきりと宣言しておきます、私はコスプレ店の店長です! 覚えてください、井出店長はコスプレ店の店長です!!」


 店長の茶番話に、なはははっ……と観客たちは笑っていた。


「えーゴホンッ!! 茶番はここまでにして――本題の贈呈式を行いますぅぅ!」


 井出店長は、ノリノリの口調で贈呈式の行うと宣言した。


「「「「いえええええええええええええええええええええええええええい!!!」」」」


 ヲタクやカメラマンたちもノリノリになって、「もりあがっているかぁぁぁ!」の後の叫びを夏風館中に轟かせた。


(ノリノリやな……これ。俺の知る贈呈式は静粛に行っているのに、こんなハチャメチャに騒ぐ贈呈式は初めてだ)


「それでは、表彰状を送りたいと思います――エントリーナンバー一番・アーシェ・葵・アーガリア殿、○○店主催コスプレ撮影会においてVIP賞に輝いた事を証明します。〇〇年八月〇日、井出嘉義(かよし)。おめでとう、アーシェ君!」


 アーシェは緊張した表情で店長より表彰状を受け取っていた。そして、パチパチとヲタクやカメラマンたちによる拍手喝采が鳴り響く。


「「アーシェ殿ォォォォォ!! おめでとうでござるぅぅぅぅぅ!!」」


 すごい……会場がアーシェを祝福している。大粒の涙を流し、盛大な拍手を送りながら……。


「――――っ」


 アーシェはその光景を見て、ポロポロと大粒の涙を溢して言葉を詰まらせていた。どうやら、観衆たちの祝福の声に驚いているんだろう。


(……と言うか、あいつ女神のクセにステージの上で緊張したり、言葉を詰まらせていたりしていたんだろう? 普段アスタリア王国の国民から崇められているんだろ? 観衆に慣れている筈じゃ……?)


 アーシェの姿を見て思い出した。そう言えば崇められているなら、普通こういう事に慣れている筈なんだけど、何で緊張しているのだろうか?


(……後で聞こ。それよりもアーシェを祝ってあげなきゃ)


 パチパチ……と観衆に紛れて拍手を送った。


「おめでとう、アーシェ――」と、ぼそりと祝福の言葉を送った。


「――あ、ありがとうぉぉぉ! みんなぁぁ!」


 アーシェは最後に観衆たちに向けて、応援してくれてありがとうと大声でお礼の言葉を伝えたのであった。




 ――こうして、なんやかんやでコスプレ撮影会は無事に幕を閉じたのであった。



        ※



 ――一方、沙耶は春風館と夏風館の連絡通路のソファーに座っていた。


「あぁぁぁ……もぉぉぉん! お兄ちゃん、なんで電話でないのよぉぉぉぉぉぉ!! やっと裾上げ終わったのに……!」


 イライラしながら、ひたすら電話不通の兄にコールしていた。


「あぁぁぁッ! 早く出なさいよぉぉぉ!!」と、泣き叫ぶのであった。


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