アーシェとネトゲ⑦(キスとエピローグ)→可愛い……。マジで惚れてまうやろ……このシチュは……(# ̄ー ̄#)ニヤ By夏奈実
「あぁ……ネタがねぇ……」
俺は思わず声に出た。もう……レポート課題のネタがねぇよ……。一体何書けばいいのかなぁ……。
「情報セキュリティの説明と、実際にセキュリティに使われている例、セキュリティの脆弱性の例を書きなさい……って、多すぎだろ……」
一様情報専攻の勉強をしているが、流石に量が多すぎるだろう……。あの先生……適当な性格の割には課題のやつは厳しいのかよ……。
「はぁ……どう書こっかなぁ……?」
ネットで調べて何個か目星付けたけど、自分で構成するのはなかなか難しいなぁ……。
「あー思考が働かねぇ……。どうしたもんかねぇ……」
とりあえず、ワードを開いて一つの課題『情報セキュリティの説明』のレポートを書き始める。まあ、ネットから見つけた説明文を少し改変して書いておけば大丈夫だろう。
「えー、まあこんな感じっと……」
とりあえず、一個の課題を終わらせた。後二個……どうやって書こうかなぁ……?
「あーっ! クソっ! なんで今日は定期メンテナンスの日なんだよぉぉッ!!」
と、隣で定期メンテナンスに対してアーシェは発狂していた。あぁ、そういえば今日は定期メンテナンスの日って昨日から告知していたっけな。
定期メンテナンスの日と言う事を知らなかったなんて、アーシェが哀れだなって思ってしまった。メンテはオンラインゲームの必須項目だ。そのおかげでサービス向上するが、代わりに遊べない……しかも時間帯がお昼に多いので、学生の自分にとっては嫌な時間帯だ。
「はぁ……メンテナンスで遊べなくなったし、どうしようかなぁ……? エロゲでもやろうかなぁ……?」
そう言って、彼女は最近発見された秘蔵ファイルから美女ゲーをやり始めた。
と言うか、なんで俺の秘蔵ファイルを見つけたんだろう……? いつもそこで気になって仕方ないのだが……。何十も重ねてファイルにぶち込んだはずなのに、一発で見つけたとか相当使いこなしているぞ……この駄女神は。
「はぁ……レポートが思い付かねぇ……。やめたやめた、集中できねぇ……」
もうレポート課題の構成を考えるのがめんどくさくなってきたので、投げ出した。まあ、課題の提出期限は七月末までだし、ゆっくり書けばいいか。
「さて……帰ろうかな。今日夕立来るって天気予報で言っていたし、土砂降りになる前に家に戻ろう」
そう考えた俺は、帰路につく前に天気アプリを開いて今の雨雲レーダーを確認した。
(今の位置の雨雲は……え? 真っ赤? まさか……?)
現在のこのネットカフェの場所は雨雲が溜まっているらしい。そんな筈はない……そう思った俺はすぐさま部屋から出て外を確認する。
「――――うそやん」
入り口に向かって外に出ると、雨に濡れるとアスファルトの独特な臭いが漂わせていた。
この臭いが来ているという事は、もうすぐ雨が降る――と言うサインだ。夕立が来る前に家に帰らなければ……。下手したら、ずぶ濡れで帰る羽目になるぞ……。
すぐさま部屋に戻り、帰る準備をし始める。
「おい、アーシェ。ゲームは終わりだ。家に帰るぞ」
「えーなんでぇー?」
「夕立が来るんだよ! 来る前に帰らないとまずいんだ」
「ゆうだち……って?」
はてなマークを浮かべたアーシェがそう質問した。
「夕立は、急に大雨が降るんだよ。夕立になると厄介なんだよ……バイクだと全身雨に叩きつけられて痛いし……」
一度だけ、実際に経験したことがある。夕立のバイク走行は絶対しない方がいい。例え合羽を着ても――だ。なぜなら、一度夕立の中バイクで走行して帰ったら、大雨に叩きつけられて肌が痛くなるし、ヘルメットが曇って見えなくなるし、合羽を通り越してびしょぬれになってしまうのだ。
「わかったなら、さっさと準備して! 夕立の中、バイクで帰りたくねぇ」
「へいへい。分かったわ、えっとシャットダウン……と」
アーシェはちんたらとパソコンをシャットダウンした。電源を切った事を確認すると、外付けハードディスクのUSBを抜き、鞄の中に突っ込んだ。
「忘れ物は無い。さ、早く家に帰るぞ」
「ういーっす! 帰るっすー!」
なんの敬礼だよ……どこかの「にゃ○○すー!」でも聞いて真似しているのか? ……いや、似てねえや。
そんな事より、早くバイクに乗って家に帰らないと……。夕立になったら終わりだ。
急いで階段を駆け下り、ロビーを通り抜けて玄関の方までたどり着くと――いつの間にか、外は土砂降り……ひょうと雷の最悪なおまけつきだった。
「あーあ……、最悪だ。――げッ……一時間ぐらい雨雲がここに居座るのかよ……」
玄関を出たが余りにの土砂降りで、一時ロビーに戻った。スマホをいじって、天気予報アプリを確認すると雨雲レーダーは今現在真っ赤になっていた。
「仕方がない……もう二時間ここに居るか」
ハアとため息をついた瞬間、ピカッ……と稲妻が光った――
「おわっ……!? 雷が光った!」
驚いた瞬間、バッゴーン……ゴロゴロ……と雷が鳴った。
「うわっ……近いぞこりゃ……。なあ、アーシェ――?」
隣に立っているアーシェの方へ向く――と、アーシェが居なかった。
「あれ、アーシェ? どこにいる?」
きょろきょろと周りを見回してアーシェを探す。そして俺の背後にしがみ付いて、ビクビクと怯えたアーシェがいた。こいつ、何に怯えているんだ?
「おい、アーシェ。しがみ付くなよ……何に怯えて――」
と手首を掴んで俺のシャツを引き離そうとした瞬間に雷がまた鳴った。
――バッゴーンッ! ゴロゴロロ……。
「ヒッ―――!?」
稲妻が鳴った瞬間、アーシェは雛のような鳴き声を上げて俺のシャツをもっと強く握りしめた。
「助けて……怖い……」
アーシェは掠れる声で何かに乞うていた。いつもの気怠そうな表情とか、女神様じゃーと威張る彼女が怯えていた。
まさか雷が苦手なのか?
「お、おい、アーシェ。大丈夫だ、雷は来ていない――」
バッゴーンッ! ゴロゴロッ!
大丈夫と言った矢先にまた雷が鳴り始めやがったぁぁぁぁッ!
「ヒャッ……!?」
か弱い悲鳴と共にアーシェは俺の胸に蹲ってしまった。
「大丈夫? 防音個室に行こうか」
俺はアーシェをくっつけたままロビーに向かい、二時間の防音個室利用料金を払って二階にある普通の防音個室へ入った。
「アーシェ、ここなら雷の音も聞こえない。そろそろ俺から離れてくれ」
少しだけ力を入れて彼女を引き離そうとしたが、がっちりとシャツを掴んで離れてくれない。シャツを離してくれないアーシェは、掠れた声でこう言った。
「――もう少しだけ……抱きしめて……」
なんという事だろう……あのアーシェがここまで追い込まれているなんて……。これは脅迫ネタ――いやいや、まず彼女を落ち着かせておかないと。
「――分かった。ほら、怖くない……怖くない……雷なんて怖くないぞ」
「……うん、うん。雷なんて怖くない……怖くないよ……」
俺は震える彼女の体をギュッと抱きしめ、気持ちを和らげる魔法をかけるように頭を優しく撫でる。
「落ち着いたかい、アーシェ」
「――まだダメ……離れないで……」
「わかった。とりあえず、立っているのもあれだから座ろうか」
「うん――」
とりあえず、近くに設置していたソファーに腰を掛ける。
何だろう……このシチュエーション。何処かの恋愛ゲームの展開みたいだ。暗闇、雷が苦手なヒロインが主人公にくっついて彼女を落ち着かせる――正しく、そんな展開が今現実で起こっていた。
(――その展開で行けば、この後は気の紛らしにキスを迫るかな?)
なんてちょっとした期待をしたけど……、まあそんな美味しい話なんてあるわけないよな。だってゲームと現実は違うんだし、あっても俺はちょっと困るんですけどね。
「ねぇ……夏奈実くん」
か弱い声で俺を呼ぶ。
「あ、あぁ……なんだい、アーシェ?」
「雷の音を紛らしてほしいの……、だから……その……恋人みたいにキス……してくれないかな……?」
――――――は? な、な、な、な、な、な、なにを言ってぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?
「お、おい! エロゲのやりすぎで頭ラリっているんじゃないだろうなぁぁぁッ! 落ち着けッ! いくら怖いからってキスで紛らわすのはよくないぞっ!」
「え……だって、怖い時はキスで紛らわすんじゃないの? そういう風にお母さんが言って――ヒッ!?」
微かだが、また雷の音が聞こえたぞ。流石防音個室、外の音までシャットアウトしてくれるのはありがてぇ。
そしてこんなシチュエーションを作った雷と、アーシェのお母さんにかんし――じゃなくてほんと恨むわ。出会って二週間――ましてはまだ好きじゃない子にキスするなんて……。
(があああああああああああああああああっ!! 悩む! 可愛い子――ラノベみたいな美少女にキスしてなんて言われたら、速攻でキスしちゃうよおおっ!! でもぉぉ! マズイと判断して拒絶してしまうんですけどぉぉぉッ!!)
拒みつつ、何故かキスに欲してしまうという葛藤の渦に飲まれる自分がいた。
(くそくそくそ……どうすればいい。早く嫌って言わないと……)
「ねぇ……早くして。私怖くて……キスすれば紛らわせるでしょ?」
「いやいやいやいやいやいやッ! そんな紛らわし方は何処の国行っても無いからなッ! エロゲの展開だからな! 勘違いしないでねッ!」
アーシェの奴、キスで雷を紛らわそうと一点張りに言っているんですけどぉぉぉッ!!
「いやいや、いい加減にしろッ! キスで雷の恐怖を紛らわせねぇって言って――――うむっ!?」
我慢できなくなったのか、アーシェは恐怖を紛らわそうと俺の唇を奪った――
彼女の唇、柔らかい。グミを味わうかのような、そんな感じ。そして……熱い。どくどくと鼓動が高まる。なんだろう……一度も感じた事がない、この高揚感……。
「――――」
や、ヤバい……このキスは俺の理性を殺そうとしている。ダメだ……本当に彼女の事、好きになってしまう。可愛い、好きになってしまう……。本当なら、彼女を一刻も早く異世界に帰ってほしいって願っているのに……これだと一生側にいてくれって――思ってしまう。
「――ん。……んぅ、ん」
少し考え事をした瞬間、彼女は俺の口を舌で貫通させて入り込ませた。
――ちょ……エロゲみたいに舌を俺の口に入れ込むなぁぁぁぁぁぁぁッ! 本当にダメになるから! 獣になっちゃうから!
「ん、うん、ンんんんんんんんんんっ!?」
――ちょ、止めてくれよアーシェ。俺はそこまで攻めたいと思っていない。誘惑にも負けない男なんだああああああっ!!
口の中に彼女の唾液が入り込む。なにも味気のない唾液のはずなのに、甘酸っぱく感じた。これが好きになってしまう感情が芽生えた症状なのか?
もう……だめだ。これ以上、キスを続けたら……。
「ん、ん、ぷはっ……」
少々強引だが彼女の唇を離した。俺と彼女の混じった唾液が蜘蛛の糸みたいに豊満な彼女の胸に垂れ落ちた。
(うわっ……エロい。本当にエロゲシチュエーションみたいだ……)
なんて感心している場合じゃない。
「どうだ、アーシェ。少しは落ち着いたかい?」
「うん……ありがとう、夏奈実くん」
正直このまま「ざまーみやがれ! 王国に行きたくなる暗示をかけたわ! これで勇者になってくださいね」と馬鹿みたいな展開が起こると思っていたけど……違う?
本当に彼女は雷が苦手――なのか……。
「しかし意外だ。お前、雷が苦手なのか?」
「――うん。ちょっと昔に雷に嫌な思い出があるの。理由は聞かないで……思い出すと胸糞悪くなる」
「わかった。どうせ聞いても分からないわ」
漫画やラノベの展開であるような過去話――テンプレだけど、あえて聞かないというスタイルです、自分は。
「助かる……」
「だな――」
話を終えると、俺は再度天気アプリを開いて最新の雲行きを確認し始める。
(お、今なら帰れるチャンスだ)
雨雲レーダーの様子は真っ赤から水色に変わっていて、降水量も少なくなっていた。
「よし帰るか、アーシェ」
「雷はもう来ない?」
「あぁ、もう止んでいるはずさ。まだ怖いなら俺の腕にしがみつきな」
「うん」
アーシェはがっしりと腕を掴んで、個室から出た。
二階を降りてロビーにたどり着き、玄関を出るとすでに雨は止んでいて夕暮れの日差しが差し込んでいた。
「ほら、止んだぜ」
「ほんとだ……」
外を見た瞬間、彼女の手が緩む。そして俺は緩んだ手を拾ってギュッと握りしめた。
「帰るか」
「はい! 帰りましょう!」
バイクが置いている駐輪場までわずかな距離だったが、俺とアーシェは恋人のようにしっかり手を握りながら向かった。
――こうして、アーシェのネトゲのスタートと不思議なキスのお話は終わりを迎える。びしょ濡れになったバイクを拭いて家に帰路した。
※
そして家に着き、夕食を食べ終えて夏奈実くんの部屋の隣にある空き部屋にて――
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! な、な、な、な、な、何てことしてしまったんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
ついお母さんのつもりでキスをしてしまったけど、よくよく考えたら夏奈実くんって男の子じゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!
――な、なんという事をしてしまったんだぁぁぁぁぁッ! しかも思いっきりしたぶち込んじゃったよオオオッ! 完全に痴女に思われちゃうんですけど……いやいやいやいやあああああああああああああああああああっ!!
ドタバタと敷いた布団に蹲って暴れ回る私。だって、苦手で彼に抱きついただけで、別に好きと言う訳じゃ――――
ふと脳裏に彼の優しい声が蘇る。「大丈夫だ……」と、魅惑の幻聴ともとれる声が……。
「――――ヒッ!? ま、まさかぁ~! んな訳ないよ! 私はあの人を勇者にさせるのが目的なんだから、彼に惚れるなんて絶対あり得ない! そう――にきまって……」
声のトーンを落として、柔らかい唇を触れる。確かにキスをしてしまった事は認めるけど、これで恋心を目覚めるのかしら……? 恋愛ゲームじゃ定番らしいけど、こんな出会って――毛嫌いする彼に好意を抱いてしまってもいいのでは……?
「――ってなに考えておるんじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! 絶対あり得ないから! 絶対にあり得ないからあああああああああああッ!!」
発狂した瞬間、イラついた様子で隣部屋から夏奈実くんが現れた。
「うるっせんだよッ!! この駄女神ィィィッ!!」
夏奈実くんはぶちぎれて、小型の段ボールを投げて私の顔面に叩きつけられた――
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